全通甲板を持つ大型輸送艦
24年前の1998年3月、輸送艦「おおすみ」型が就役した。当時、この輸送艦は主にその外観について騒がれた。艦首から艦尾まで平坦な甲板(全通甲板)があり、艦橋構造物は右舷に寄せて造られていたから、まるで「空母」だと指摘されたのだ。批判的思考方面の方々は「空母=攻撃兵器」の認識から、過剰能力云々と主張していた。それに対して海上自衛隊は「『おおすみ』型は輸送艦」だとの説明を冷静に繰り返していた。
たしかに「おおすみ」には米海軍などの空母のように艦載機を発着艦させる「カタパルト」等の設備はない。全通甲板の後部2カ所でヘリコプターを発着艦させられるのみである。そして艦内は車両を積み込むためのスペースがあるだけで、つまりは車両運搬船やカーフェリーのような内容だ。カーフェリーと違うのは艦尾にLCAC(エルキャック:エアクッション艇、いわゆるホバークラフト)をタンデムで2隻、収容する点だ。港湾施設に頼らずとも陸揚げ・荷役ができる点にある。つまり「おおすみ」は空母ではなく、主に陸自の車両を運び、陸地に揚げる能力を持った文字通り輸送艦なのだった。
繰り返しになるが、本艦の特徴は車両を艦内や甲板に積み込み、運ぶことにある。積載方式は舷側のランプ(可動式スロープ)を利用する車両自走積載方式。積む場所の艦内格納庫と全通甲板はエレベーターで繋がれ、艦内から甲板へ車両を揚げ降ろしできる。収容能力は大型トラックなら50台、90式戦車は約10両の積載が可能だ。ちなみに人員(陸自隊員)なら「おおすみ」乗員約130名のほかに、約300名を艦内の居住区画に乗せられる。
また、接岸せずにLCACで車両を陸揚げすることもできる。先述したとおり艦尾には半水没型のウェルドックを備え、LCACを収容している。積載した車両は艦内を自走してLCACへ乗り込む。車両を積んだLCACは「おおすみ」艦尾ドックから発進し、海岸線の砂浜などに乗り上げ、車両を降ろす。つまり揚陸オペレーションだ。
米テキストロン社製のホバークラフト、LCACは最大50トンの運搬能力を持っている。これは90式戦車を一度に1両を搭載できて、海上を浮上航走し、陸揚げできるということ。人員なら専用ユニットを使って約30名を輸送できる。
この人員輸送ユニットは災害派遣でも使える。東日本大震災では孤立地域の住民をユニットに収容し、沖合に停泊した「おおすみ」型に運び、艦内で入浴などの生活支援を行なった実績がある。海自はLCACを全6隻保有している。
そして甲板後部は先述したようにヘリなどの発着艦が可能で、そのまま露天駐機させて運ぶこともできる。
このように本艦を機能別に見てみると、つまりは揚陸艦なのだということがわかる。しかし海自は揚陸艦とは言わず輸送艦で通している。海上輸送と揚陸のあり方を「おおすみ」で作り上げ、今後、後継艦はその発展型を計画する。島嶼防衛がメインテーマとなる現在と将来において「おおすみ」後継艦となる「揚陸艦」は具体化しておく必要のある防衛装備だ。島嶼防衛、南西諸島防衛で大量輸送能力は必須であるし、洋上の艦艇がオペレーションの第一線になるのは容易に想像できるから「おおすみ」を拡大発展させた規模の洋上拠点は有用だ。
振り返ると、海自は全通甲板型のデザインを「おおすみ」で初めて採り入れて以降、「ひゅうが」型、そして「いずも」型と全通甲板型護衛艦を建造し、就役させてきた。時間をかけて全通甲板型の「輸送艦」と「護衛艦」というものを馴染ませてきたわけだ。
その全通甲板型護衛艦である「いずも」と「かが」は、短距離離陸・垂直着陸型の戦闘機F-35Bを発着艦させられるように改修工事を施される。これはもう「空母」だと思うが、それでも海自は「護衛艦」と呼ぶだろう。あるいは「多目的護衛艦」や「航空機搭載護衛艦」だろうか。
「おおすみ」は2022年1月24日、海底火山の大規模噴火で被害を受けたトンガに支援物資を届けるため、広島県呉の海上自衛隊基地を出発している。支援物資は火山灰を除去するための高圧洗浄機60台やリヤカー、大量の飲料水などである。陸上自衛隊の大型輸送ヘリCH47JAも2機積載している。トンガは港湾施設が被災した離島も多いという。船が接岸できない場合は、輸送ヘリやホーバークラフト揚陸艇「LCAC」を使って、物資を届ける想定だ。