最新世代戦車「10式戦車」の性能④、ヒトマルの情報力に注目する

「C4I(Command Control Communication Computer Intelligence)」能力を持つ10式戦車。
10式戦車の「攻・走・守」それぞれの性能に注目してきたが、最後は「情報力」。10式は登場した当時「IT戦車」などと呼ばれた。主にネットワーク能力を介した情報共有を指して表現されたわけだ。たとえば1両の10式が見つけ出した相手の位置情報を僚車と共有し、他の10式が仕留める。また前方の10式が見たものを後方司令部もほぼ同時に見る。そうした能力だ。
TEXT & PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
富士総合火力演習で10式戦車小隊4両が連続射撃を行なう。位置情報や索敵情報などは車両間で共有され戦場の可視化を実現した。1両の索敵情報を基に、他車が射撃することも可能だ。

10式戦車が公開された当時を振り返ると、ネットワーク戦闘可能な最新戦車といった表現で取り上げられることが多かった。10式の情報共有能力を指してのことだと思う。これは米軍をはじめとした諸外国軍がこぞって整備を進めている「C4Iシステム」と同様なものを指している。

「C4I」とは「Command Control Communication Computer Intelligence」を示し、各々の単語は「指揮・統制・情報伝達・コンピューター・知能(諜報)」を意味している。どれも軍事組織にとって不可欠の要素だ。陸・海・空軍など違う軍種をまとめて動かす場合の統合運用などではとくに重視される。同時にこれは軍事部門だけでなく民間企業や一般社会でも同様に重要な要素だ。

話は膨らむが、現代社会は「IT(Information Technology:情報技術)」で成り立っている。情報や通信の技術は社会の隅々に行き渡り、コンピューターやインターネットの進化と普及は目覚ましく社会生活を営む上で不可欠なものとなった。それらが応用利用される場面も含めると工学的技術分野から人文社会科学分野まで広がる。インフラの運用、各種産業の現場とその企業経営、医療や介護、人と人とのコミュニケーションのありようなどまで、その応用範囲を広げているのはご存知のとおり。

こうした情報技術手法の総称「IT」は軍事行動のあり方も変えた。ネットの始まりがそもそもだし、通信技術やGPSの整備、ステルス概念の具体化とその運用、戦闘の可視化と共有、そうした多くの場面で「RMA(Revolution in Military Affairs:軍事における革命)」という概念は急速に具体化された。とくに2000年以降の米国と米軍は情報RMAの分野で突出し、戦闘の様相を変えたのは事実だ。

10式戦車の研究開発で標榜したのも情報技術の実装にあると思う。ひとつは今やとても身近な情報技術、データ通信の導入と運用にあった。そのすべてが公開されているわけではないが、10式の部隊配備以降の富士総合火力演習でその能力の一例が示されている。総火演は各種装備の具体的な威力が展示される機会だ。10式はその情報共有能力を次のように示した。

防衛省・技術研究本部による開発目的図。敵戦車との戦闘などに加え、ゲリラや特殊部隊などの侵攻にも対応する能力を求めた。イラスト/陸上自衛隊

4両の10式が2両ずつ分かれて射場(射撃場所、総火演の場合は見学場所の前方)へ進んでくる。先行した10式は射場横手の傾斜地に進入し姿勢変換などを行なって潜む。砲塔上部にある全周視察サイトを使い索敵し、相手を見つけるとその目標情報を、データ通信(データリンク)を使って後続車両に送る。情報を受け取った後続車両は前進し、優位な場所から索敵行動を行なわずに射撃する。この射撃は初弾で命中させるものだった。相手の位置情報を味方全員で共有・把握できているなら、もっとも有利な位置や条件で対処できる者が行動する、ということだ。この射撃方法は10式が持つ性能の代表例とされる。

10式の操法や運用などを訓練するシミュレータ訓練装置には、ひとりの小隊長が自身が率いる4両(1個小隊)の10式の砲塔をコントロールすることが可能な設定もあるそうだ。実車にもこの性能が積まれているということになる。

10式に積まれた指揮射撃統制装置などを軸とする装置は乗員それぞれがディスプレイ画面等を利用して指示や情報を取得できるもの。たとえば警戒する方角や範囲、走行するべき経路などを指し示し共有できる。先に紹介した索敵結果や射撃に関する諸情報、自車の機関系情報、被ったダメージの具合なども各車間でリアルタイムの情報のやり取りが可能だという。この10式のネットワークは10式戦車同士や戦車小隊単位、さらに上位部隊の中隊単位で、お互いの情報を共有・伝達できるものだという。

10式戦車の内部映像。こちらは車長席(砲塔右側)。多様な情報を表示するディスプレイが2面、車長用潜望鏡操作用と思われるグリップが設置されている。写真/技術研究本部(当時)
こちらは砲手席(砲塔左側)。赤外線画像や射撃情報などを表示するディスプレイが正面にあり、H字のコントローラーが手前に配置されている。写真/技術研究本部(当時)

データ通信や音声による通信には導入された広帯域多目的無線機が使われる。この端末には無線LANアダプタとタッチパネルが付けられていて、データ通信が可能だ。この装置を積んだ車両は限定的なC4I能力を持つことができ、戦車小隊や中隊以上の上位部隊などと連接可能だ。加えてこの装置には陸自の連隊指揮統制システムの機能も積まれているようで、10式ネットよりも即時性は低まるそうだが、さらに上位部隊との総合的な情報交換が可能だという。

一方で陸自の他職種部隊や他の装備との装置面での連接や共有を完全網羅しているわけでもない。これは他の装備と10式との設計や構造、世代などの違いや、広帯域多目的無線機の普及・整備状況も関係する。新装置搭載の有無による情報・通信面での格差といえるようなものがあるのは事実だろう。

陸自全体の、さらには海空自衛隊を合わせた自衛隊全体の情報・通信態勢には先進化や合理化、統合化が必要だと思う。たとえば空自のF-35戦闘機や偵察機、海自の哨戒機が取得した空(海)陸域の状況や索敵情報を10式や16式機動戦闘車などが即時に受け取れ、対応できるような軍事合理性や実効性のある情報通信環境の整備だ。

著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…