溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳 連載・第4回 ボクとモデナとGTO (後編)

溝呂木陽の水彩カースケッチ帳/連載・第4回 ボクとモデナとGTO (後編)

クルマ大好きイラストレーター・溝呂木 陽(みぞろぎ あきら)さんによる、水彩画をまじえた連載カー・コラムの第4回目は、数々の名車に彩られたイタリア・モデナでの展示会をめぐるアレやコレやのお話の後編です。

イタリアのモデナへ招かれ、エンツォ フェラーリの生家のミュージアム(ムゼオ エンツォ フェラーリ)でボクの絵を展示出来ることになった顛末記。今回は二日目のガラディナーについてお話ししましょう。

二日目の夜も、舞台は白いドーム状の大きな屋根と白い壁が広がる空間の中に珠玉のオールド・フェラーリが点在する、エンツォ フェラーリ ミュージアム。閉館後の薄暗い空間には丸いテーブルが並べられ、床までかかる白いテーブルクロスの足元には照明が置かれています。そして黒いグランドピアノが用意され、挨拶とともに老ピアニストの演奏が始まったのは、夜の9時をまわった頃でした。続いて若い男女が登場、プッチーニ・オペラの一節が歌われていきます。

会場は前日と同じく珠玉のオールド・フェラーリが点在する、エンツォ フェラーリ ミュージアム。

嬉しいことに同じテープルには、今回通訳をお願いした、オペラを勉強されているモデナ在住の日本人女性がいらしたので、詳しい解説付きでした。トスカーナ出身のプッチーニはモデナでの活躍も有名で、また、パバロッティでも有名な地ですから、やはり舞台が違います。しかも招かれた地元の名士はイブニングドレスとタキシードの正装です。テーブルをご一緒したモデナの若い女性には、ボクの画集をプレゼント。オペラのアリアのあとには、日本の食材のきのこなどをモデナのシェフが調理した驚きの逸品が続きます。モデナ名産のランブルスコの他に、日本の酒造が持ち込んだ美味しい日本酒もサーブされます。もちろんすぐ横には、水色に黄色いラインが入った250 GTOや、SWBが並び最高の舞台装置。

名車たちに彩られた空間でプッチーニ・オペラの一節が歌われていく。

やがてボク達も呼ばれてスピーチに立ちましたが、この時、ご一緒したのはその年の春から一緒に活動していたGGF-Tというスーパーカープロジェクトの赤間氏です。赤間氏は習ったイタリア語でスピーチを、ボクも英語で自己紹介を行ないました。スーパーカーのカウンタックやパンテーラ、930ターボ、メラク、ウラッコ、ストラトス、308GTB、512BBiなどの素晴らしいコレクションを納めた氏のガレージにボクは何度も通い、それぞれのクルマの水彩画を描いていたのです。

さらに赤間氏は、今はもうこの世に存在しないランボルギーニ イオタJ(1969年に誕生したミウラの開発プロトタイプ。2年後に事故で全焼)をアルミで叩いてオブジェとして復活させるというプロジェクトを始められており、茨城の綿引氏(アルミ板金を得意とするスペシャリスト)に依頼して製作を開始していました。その過程を絵本『アヒルのジェイ』として描き進め、導入部分である第1巻をその時に披露させていただいたのでした。

この『アヒルのジェイ』プロジェクトの、アルミのイオタと絵本『アヒルのジェイ』はどちらも完成し、モデナとトリノで披露されることになるのですが、それはまた別の機会にお話ししましょう。

さて、ディナーパーティーでお酒も進み、夜は更けていきます。テーブルの脇には巨大なチーズの王様、パルミジャーノ・チーズが置かれ、その場で切り開き皆にサーブする儀式が行なわれます。マセラティコレクションを管理するパニーニ家の家業であるパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズは最高級の味わいと香りでした。

パーティーが終わった後、ボクはほろ酔い気分で薄暗いミュージアムの中を彷徨い、そこに佇む750モンツァや375プラス、カリフォルニアスパイダー、ベルリネッタルッソといった宝物のようなフェラーリの佇まいを目に焼き付けていきました。

筆者の水彩画展は別棟のエンジン・ミュージアムに舞台を移しての開催。

翌日も怒涛のようなプログラムをこなし、三日目の夜は待ちに待った『溝呂木 陽レセプション』です。今回は別棟のエンジン・ミュージアムに舞台を移し、V12コロンボユニットやフェラーリのV6ターボ、312のボクサー12が並ぶ美しい空間で、僕の水彩画をそのエンジンに立てかけてモデナの招待客を招き入れました。模型をたくさん並べ、モデナの美味しいハムやチーズ、日本酒カクテルやランブルスコで乾杯をし、たくさんのお客様をお招きしてのパーティーです。

ボクのメイン・イベントは実演、水彩画のデモンストレーションです。ミュージアムの水色のGTOの絵をパーティー最中に、皆さんの前で仕上げていきました。日本から持ち込んだのはフェラーリの名車たちの絵やイタリアの風景画だけでなく、水彩で描いた女性のクロッキーもあり、それらもイタリアの方々には非常に好評でした。夢のような空間で、夢のような時間が過ぎていきます。何枚かの絵をその場でお買い上げいただき、地元の歌手と日本から参加したGONZO氏とのセッションが始まりました。

デモンストレーションで描いたGTOの絵。夢のような空間で、夢のような時間が過ぎていく。

皆で踊りまくる夜、モデナのメンバーともハグするダンスタイムは続き、夜遅くまでパーティーは続いたのでした。そしてモデナでは、様々な奇跡が次から次へと押し寄せました。次回はそんな奇跡についてお話ししようと思います。

溝呂木陽の水彩カースケッチ帳/連載・第3回 ボクとモデナとGTO (前編)

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著者プロフィール

溝呂木 陽 近影

溝呂木 陽

溝呂木 陽 (みぞろぎ あきら)
1967年生まれ。武蔵野美術大学卒。
中学生時代から毎月雑誌投稿、高校生の…