溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳 連載・第3回 ボクとモデナとGTO (前編)

溝呂木陽の水彩カースケッチ帳/連載・第3回 ボクとモデナとGTO (前編)

クルマ大好きイラストレーター・溝呂木 陽(みぞろぎ あきら)さんによる、水彩画をまじえた連載カー・コラムの第3回目は、突然決まったGTOほか名車に彩られたイタリア・モデナでの展示会をめぐるアレやコレやのお話です。

人には思ってもいない幸運とチャンスが舞い込むことがあります。そんな時は迷ってはいけません。

2018年のこと。その年は毎月展示会や個展が開催される忙しい毎日でした。そんな時、知り合いのマセラティ クラブ ジャパン会長の越湖氏より「溝呂木さん、モデナの展示会に参加しませんか?」という思ってもみない申し出をいただきました。モデナと東京の交流イベント”ARIGAMO ARIGATO 2018 “の一環として、イタリアのエンツォ フェラーリ ミュージアム(ムゼオ エンツォ フェラーリ)で日本のアーティストや食材を紹介するパーティーや展示会を開催されるとのこと。

10月は毎年開催している『ぺーターズ・ギャラリー』での個展もあり、現地のことも何も分かりませんでしたが、ボクは「ぜひとも参加させてください」と答えていました。

それからは、越湖さんを通して現地と連絡を取り合いながら、準備を始めました。宿や飛行機代から向こうの食事まで含めたご招待という願ってもないお話です。しかも場所はエンツォ フェラーリの生家のフェラーリ ミュージアム……。

日程が決まり、ボクの10月の個展が終わった翌日にイタリアに一人で出発。その日のイタリア時間の深夜に到着というスケジュール。深夜のボローニャ空港からモデナへタクシーで入ることが決まりました。現地で飾る絵は越湖氏へ事前にお渡しし、向こうへ持っていっていただいて額装してもらうことに。展示するプラモデルは、もちろんリュックで手持ちです。展示会用のポスターは、なんともポップなデザインのものが用意され、期待が高まります。

1週間の個展が終わり、荷ほどきも間に合わないような慌ただしさの中、フランクフルト経由でボローニャ空港を目指します。間の乗り継ぎが数時間あり、深夜にヘトヘトになって宿の前へ。そこはモデナの裏路地のアパートでした。出迎えてくれたのは日本のミュージックプロデューサーで歌い手として参加したGONZOさん。部屋はエレベーターのない最上階でした。

時差ボケで早く目が覚めて、窓を開けるとそこはテラコッタ色の瓦屋根が連なる景色と教会の鐘。外に出てカフェを探し、パニーニやチョコのペストリー、カプチーノを頼んで外のテーブルに座りました。カウンターでは小さな兄弟がお昼のパンを注文して袋に詰めてもらっています。イタリアでのこんな朝ごはんは久しぶり。なんとも贅沢な朝でした。

GONZO氏と会場のミュージアムへ向かうと、やっと越湖氏ら主要メンバーに会え、モデナ側のメンバーを紹介されました。届いた絵の確認や会場の確認の間に夢にまで見たエンツォ フェラーリ ミュージアムの見学をしました。

ここの展示車両はオーナーからの貸出なので一期一会。その時はなんと昔、茂木(もてぎ)のイベントで見た元・松田コレクションの水色に黄色のラインの入った250GTOを筆頭に、シルバーに赤ラインの250GT SWB、250GTルッソ、そして50年代のアーリー・フェラーリでボクの大好きな750モンツァや、伝説の自動車レース、カレラ パナメリカーナでの活躍で有名な375プラスなど、宝石のようなクルマたちが輝いていました。

絵をギャラリーの壁にかけ終えると、シェフが入ってハムやチーズが運ばれ、イタリア人の大好きなアペリティーボが始まります。モデナの紅い発泡ワイン、ランブルスコを手に地元の名士や招待された自動車クラブのメンバーが集まります。

ちょっとした絵のコメントをしたり、テーブルの模型を紹介したり、楽しいパーティーが始まりました。越湖氏による、マセラティのオルシ氏の子孫や現在、マセラティ・コレクションを管理されているパニーニ氏をまじえた講演がありました。

そして夜には待ちに待ったディナー・パーティーです。スーツに着替え、地元の名士の方々とともにテーブルを囲みます。なんと会場は、このために3日間貸し切りされた閉館後のエンツォ フェラーリ ミュージアム!

閉館後の薄暗く広いミュージアムは、白い床と大きなドーム型の白い天井に囲まれた広々とした空間で、壁にはエンツォの生い立ちのストーリーフイルムが上映されます。料理が運ばれてくるテーブルには、モデナの特産のバルサミコ酢。フルコースの長いディナーが続きます。そしてなんと、テーブルの後ろの手が届く距離に、あの水色のGTOが暗い照明の中に佇んでいるのです。

夢はいつかは叶う。夢は突然実現する。不思議な出会いとチャンスに感謝しつつ、素敵なパーティーは12時過ぎまで続いたのでした。

会場の様子。

(この項つづく)

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著者プロフィール

溝呂木 陽 近影

溝呂木 陽

溝呂木 陽 (みぞろぎ あきら)
1967年生まれ。武蔵野美術大学卒。
中学生時代から毎月雑誌投稿、高校生の…