「従来の事業活動がお客さまに向けた感動創造だとすれば、その周りに存在する住民や自治体、交通にかかわる事業者等の皆さん、さらにその先の社会課題にまで視野を広げてアプローチしたい」(ヤマハ発動機 共創・新ビジネス開発部 青木晃胤さん)
全国に点在する交通空白地帯と呼ばれるエリアでは、高齢者の外出機会の減少等を引き金に、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下や医療・介護費の増加、また町の衰退や過疎化といった別の社会課題につながっていく深刻な「負の連鎖」が進行している。ヤマハ発動機ではこの課題に向き合い、「グリスロ」を活用した試みを検証している。
「その検証のために、千葉大学や日本福祉大学と連携して、高齢者の移動とQOLの相関関係について共同研究を進めています」と話すのは、同社共創・新ビジネス開発部の青木晃胤さん。2021年からスタートしたこの研究では、グリスロの導入地域で外出頻度や行動範囲、人や社会とのつながり、そして気持ちの変化まで高齢者の皆さんの行動に良い変化が確認されており、課題解決に向けてさまざまな可能性を浮かび上がらせている。
例えば、同じ地域でグリスロを利用した人と利用しなかった人を比較すると、非利用群に対して利用群の「外出先」は約1.9倍多く、「地域活動への参加」は約5.2倍、「明るい気持ち」では約2.2倍もの差が生まれている。さらに、利用者の要介護リスクは減少傾向にあり、約1歳の若返りの可能性があることも示唆されている。
「私たちはこの移動サービスの開発を、社会的インパクト(社会や環境に与える広範な影響を示す非財務指標のひとつ)というスコープで描こうとしています。従来の事業活動がお客さまに向けた感動創造だとすれば、その周りに存在する住民や自治体、交通にかかわる事業者等の皆さん、さらにその先の社会課題にまで視野を広げてアプローチしたいと考えています」と青木さん。
社会保障費の低減による行政負担の軽減などもそのひとつ。グリスロ導入地域の高齢者の社会保障費は、ひとりあたり年間約1万円抑制され、さらに導入から時間が経過するほど効果が高くなるという研究結果もあり、さらに追跡調査が進められている。
青木さんは「現在、地域交通事業とヘルスケアを合わせた新たなビジネスモデルの創出に向けて準備を進めています。社会的インパクトは、投資や公共調達という領域でも注目が高まっている指標です。当社としても、感動創造の新たなかたちとして広げていきたい」と語っている。