セレクターの頭文字は「ア・タ・レ」
陸上自衛隊で使われている現用小銃が「89式5.56㎜小銃」だ。前代モデルの「64式小銃」の後継で、次世代小銃として開発、1989年(平成元年)度から習得開始された。現在はほとんどの部隊に普及している。
名称の「5.56㎜」とは使用する弾薬のサイズ(と銃の口径)を示すものだ。5.56㎜弾薬はNATO(北大西洋条約機構)の第2標準弾である。
89式小銃は銃床が2種類ある。ひとつは固定銃床型で普通科隊員などに広く使用されるもので、これが大多数だ。一方、銃床を折り畳むことができる折り曲げ銃床型があり、空挺(くうてい)隊員や機甲科隊員が使用する。空挺部隊とは、パラシュートを使い航空機から降下して活動する部隊を指す。携行する装備はできるだけコンパクトにしたいから折り曲げ銃床型を使い、専用ケースに入れて肩から下げ、上半身に沿うようにストラップなどで体に固定し、降下する。また、機甲科は戦車などの狭い車内での収容性や乗降時の取り扱い易さを考慮して折り曲げ銃床型を採用している。
89式小銃の重量は約3.5㎏。前代の64式小銃は約4.4kgで、約1㎏近くも軽量化されている。これは従来金属製の部品を強化プラスチックに置き換えるなど工夫された結果だ。重量約3.5㎏とは、軍用小銃では平均的な重量で、どちらかといえば軽量級の部類といえる。米軍現用のM16自動小銃も重量約3.5㎏だ。89式小銃の開発時には米軍のM16を参考のひとつにしているだろうから、両者の寸法などが似てくるのは当然か。しかし、軽量級とはいえ、実際に持ってみるとズシリとした重量感である。これを一日中持ち歩くのはけっこう堪えると思う。
1回トリガーを引くと3発が連続発射される方式だ。機関部側面には安全装置と射撃を切り替えるセレクター部がある。安全位置は「ア」、単発位置は「タ」、連発は「レ」、3点バーストは「3」と各々の頭文字で位置表示され、セレクターレバーを動かして操作する。状況に応じて使い分けることで多目的に使用できるものだ。ちなみに、セレクターの各々の頭文字を眺めていると「ア・タ・レ」と読み取れ、これは「当たれ」に読み替えることができて面白いポイントだ。
給弾方法は弾倉(マガジン)式。装弾数は弾薬を収納するマガジンにより異なる。30発を収納できるカーブしたタイプと20発の箱型だ。銃の構成部品点数は64式小銃に比べると少なく、分解・組み立てもやりやすい。銃剣を着剣することも可能。この銃剣は鞘と組み合わせることで、鉄条網などを切断するワイヤーカッターとして使用できる。銃剣はいわゆるサバイバルナイフだ。
開発・配備当初の資料には「愛称『BUDDY(バディ)』」と書かれていた。バディとは「相棒」を意味する。歩兵にとっての相棒は小銃という認識によるものだろう。しかし、現場部隊でそんな呼び方を聞いたことはなく、「ハチキュー」が主力になっている。
89式5.56mm小銃(略称:89R)
■諸元・性能
口径5.56㎜
全長約920㎜(固定銃床型)
約670㎜(折り曲げ銃床型)
銃身長420㎜
重量3.5kg
作動方式ガス圧利用
給弾方式弾倉式
発射速度最大約850発/分
製作豊和工業