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航空機火災に対応する空自の消防隊
前回に続き航空自衛隊が保有運用する消防車に注目してみたい。
空自の消防隊が相手にする航空機火災とは、燃料を積んだ戦闘機などの空自航空機が、なんらかのトラブルや事故に見舞われ出火する事態を指す。とくに燃料を多く積んでいる離陸前の火災は深刻な状況を招く。
だから空自の「破壊機救難消防車」は車体に水と消火剤(薬液)を積み、滑走路付近で待機する。火災発生となれば遠距離から放水可能な強力な放水銃で泡消火などを行なう。航空燃料が燃えている厄介な火災は泡で包み込み、炎を周囲の空気から遮断して鎮火させるのだ。
1台の消防車で対応可能な完結性の高さが特徴で、ごく短時間に消火と乗員救助を実施する。そのためにエンジンパワーも走破性も自ずと高めてある車両を使っている。全長約11.1m、全幅約3.1m、全高約3.7m、総重量は約31t。これが前回ご紹介した「破壊機救難消防車A-MB-3」の概要だ。ベース車はモリタ社製の「MAF-100C」、空自の仕様に調節してあるタイプになる。本車は空自各航空基地に常駐するさまざまな消防車のなかで、対航空機火災の主力であり、型式「A-MB-3」の現用車に位置している。またMAF-100Cは一般空港に置かれている「空港用化学車」などと呼ばれる消防車としても導入されている。
特徴は車体内に水約1万8800ℓと消火剤(薬液)約720ℓを搭載すること。車内から遠隔操作できる放水銃を車体上部に設置してあり、放水銃は80m先まで放水可能で、炎の勢いが強い火災でも消火できる。車体各部には必要な資機材を搭載、たとえば車体から消火ホースを繰り出して、一般の消防車と同じように消火隊員が手に持って放水する「ハンドライン」も展開できる。
ちなみに破壊機救難消防車は歴代モデルがあって、前述どおり型式「A-MB-3」が現用主力。そしてこれが2010年台からは整理更新等がなされて「救難消防車IB型」や「救難消防車II型」などと呼ばれるタイプに進んでいる。これらの名称とは別に、型式「A-MB-3」は継続使用中のようだ。
機動性重視の救難消防車IB型
そこで今回ご紹介するのは「救難消防車IB型」だ。
救難消防車IB型は車体内に約5000ℓタンクを持ち(7500ℓ仕様もあり)、数千ℓ/分の吐出能力を持つという。写真の百里基地消防小隊の車両はベース車にオーストリア・ローゼンバウアー社製「パンサー」を利用したタイプ。前回の「MAF-100C」と車格やサイズは同等だが、車内タンク容量は比較的小さめだから、どちらかといえば機動性重視といえるか。「MAF-100C」と「パンサー」との併用で、車格・運用・消火戦術的なハイ&ローミックス態勢なのかもしれない。
救難消防車IB型・パンサーの基本的な機能は「MAF-100C」とほぼ同様。車内タンクを持ち、遠隔操作式の放水銃をルーフ上と車首部に搭載、車体各部に消火・救助用の各資機材を搭載する。架装メーカーは「Teisen(帝国繊維)」。同社製の一般空港用消防車両「空港用化学消防車」のスペックには、車内水タンク容量1万2500ℓ(と泡薬液と粉末消火剤を搭載)とあるので、水槽容量には幅があるようだ。
ちなみに救難消防車IB型には別タイプもあり、ベース車に米オシュコシュ社製「ストライカー」を使ったものも存在する。こちらは全長約12m、全幅約3.1m、全高約3.7mあり、総重量は約31t。車内に搭載する水は約1万500ℓ、消火剤880ℓを搭載。放水銃をルーフ上と車首バンパーに1基ずつ、計2基を搭載する。ルーフ上の放水銃は放水距離が約90m、車首の放水銃は約45mだそうだ。空自の入間基地消防小隊に配備されている。
空自の消防部隊にはほかにも、トレーラー式の給水車やポンプ車、救助資機材を満載した救難車などが待機している。給水車は火災現場の救難消防車へ消火用水を補給し、ポンプ車は航空基地内の施設や建物などの火災に対処する。救難車は事故等を起こした航空機内に閉じ込められた乗員などを救出するため各種の救助資機材を搭載、状況により事故機体の切断や破壊作業を行ない、機内から乗員を救助する。