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1.0L直3ターボ「EA211evo」エンジンにフォルクスワーゲンの底力を感じた
新型ゴルフ ヴァリアントはホイールベース拡大で余裕の後席スペース実現
フォルクスワーゲン(VW)・ゴルフが6月にフルモデルチェンジしたばかりだというのに、早くもゴルフ ヴァリアント(ステーションワゴン)が出てきた。2種類のエンジンを4グレードに振り分けるのは、ハッチバック版の「ゴルフ」と同じだ。eTSI Active BasicとeTSI Activeは1.0L3気筒ガソリンエンジン(1.0TSI)を搭載し、eTSI StyleとeTSI R-lineは1.5L4気筒ガソリンエンジン(1.5TSI)を搭載する。両エンジンとも、7速DSG(DCT:デュアル・クラッチ・トランスミスション)を組み合わせる。eTSI Active Basicはエントリーグレードの位置づけ。eTSI R-lineは内外装をスポーティに仕立てたグレードだ。
ゴルフ ヴァリアントのコアバリューは、「電動化」「デジタル化」「最新の運転支援システム」の3点で、ハッチバック版と同じである。電動化は48Vマイルドハイブリッドシステムを指し、全車標準で装備。ベルト駆動式のスターター・ジェネレーター(BSG)で、減速時のエネルギー回生と加速時のアシストを行なう。
スロットルオフ時にエンジンを完全停止して燃料消費を抑えるコースティング機能を備えているのも特徴で、メーター表示を意識しながら走っていると、隙あらばという感じでエンジンを停止するのがわかる。メーターで確認しなければ、エンジンが停止したことも、再始動したことも、気づかないかもしれない。制御はそれほどスムーズだし、静かなクルマには乗り慣れているはずなのに、「このクルマは静かだな」と感心するほど静かな室内にいて、クルージング時はエンジン音を意識することがない。
ただ、下り勾配が連続するような状況では、コースティングによる空走感よりもエンジンブレーキが欲しくなる。ブレーキを踏むと即座にエンジンが始動。同時にクラッチもつながってエンジンブレーキがかかる。それでも弱いと感じたら、「S」モードに切り換えるといい。低いギヤ段に切り替わってエンジンブレーキの効きが強くなる。
新型ゴルフ/ゴルフ ヴァリアントはシフトレバーが従来型に比べて大幅に小型化された。機械的につながった仕組みから電気的な接続のシフト・バイ・ワイヤーに変更したために小型化が可能になった。このシフトレバー、操作量が小さくて済むうえにクリック感が明瞭で、ブラインド操作も含めて、とても操作しやすい。レバーに手を添えて手前に引くと、「D」から「S」に瞬時に切り替わる。モードが切り替わったことは、目の前のメーター表示で確認できるのもありがたい。
スムーズな再始動に48Vマイルドハイブリッドの恩恵を感じる
48Vマイルドハイブリッドシステムの恩恵は、アイドルストップからのエンジン再始動が極めてスムーズなことだ。このエンジン再始動は先代ゴルフの最大の弱点だと感じていたので、新型は文句の付けようがなくなった。
冒頭で触れたように、新型ゴルフ/ゴルフ ヴァリアントは1.0L3気筒と1.5L4気筒の2種類のガソリンエンジンを設定している。箱根で100分間ドライブしたのは、1.0L3気筒を搭載したゴルフ ヴァリアントeTSI Activeだった。6月にハッチバック版を試乗した際に気づかなかったのはうかつで、このエンジン、日本初導入である。個人的には、ようやく入ってきたかという思いだ。
1.0L3気筒である点はポロやT-Crossが搭載するエンジンと同じだが、仕様が異なる。ポロ/T-Crossの1.0L3気筒はEA211の名称で、新型ゴルフ/ゴルフ ヴァリアントの1.0L3気筒はEA211evoだ。「evo」すなわち進化形で、ミラーサイクルを適用し、可変容量ターボ(VGT)を搭載している。スペックは下記のとおり。
EA211 1.0TSI(T-Cross TSI Active/車重1270kg)
最高出力:85kW(116ps)/5000-5500rpm
最大トルク:200Nm/2000-3500rpm
容積比:10.5
WLTCモード燃費:16.9km/L
EA211evo 1.0TSI(ゴルフ ヴァリアントeTSI Active/車重1360kg)
最高出力:81kW(110ps)/5500rpm
最大トルク:200Nm/2000-3000rpm
容積比:11.4
WLTCモード燃費:18.0km/L
ゴルフ ヴァリアントは48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載しているので単純比較はできないが、ミラーサイクルを適用し、VGTを採用したEA211evo 1.0TSIは、EA211と同等の最高出力と最大トルクを発生しつつ、EA211よりも優れた燃費を記録する(ポテンシャルを備えている)。
吸気行程よりも膨張行程を長くするのが、高膨張比サイクルとも呼ばれるミラーサイクルだ。容積比を大きくしたのは、膨張比を大きくとるためだ。EA211evoの場合は吸気バルブを下死点より早く閉じる「早閉じミラーサイクル」である。ミラーサイクルで運転している領域の実際の圧縮比(実効圧縮比)は11.4もなく、EA211と同等だろう。
ポルシェ911ターボも採用する可変容量ターボが力強い走りの源
吸気バルブを早く閉じてしまうということは、999ccの排気量を全部使わず、実質的にはもっと小さな排気量で運転することになるので、ターボチャージャーの働きが重要になる。実質的な排気量の減少を過給で補うわけだ。そこでVGTの出番なのだが、ガソリンエンジンの排気は温度が高いため、タービン流路面積の大小を制御する可変ベーンに耐熱性の高い高価な材料を使う必要があった。そのため、一部の高価格車(例えばポルシェ911ターボ)でしか採用できなかったが、ミラーサイクルを適用すると燃焼エネルギーが効率良く仕事に変換されるため排気温度が下がるので、高価な材料を使わなくてもVGTを成立させることができるようになった。EA211evoはそこが画期的だ。
VGTを適用すると、低回転ではベーンを絞ることによって排気の流速を高め、ターボの回転数を高めることができる。そのため、小さなターボを使うのと同じでレスポンス良く、低速トルクを発生できるようになるのがメリットだ。48Vマイルドハイブリッドシステムのアシストの効果もあるが、実際に走らせてみると、1.2L4気筒ターボ(1.2TSI)を積んでいた先代よりも明らかに力強く、そして、頼もしく感じる。実用燃費は機会を改めて確かめたいところだが、こと動力性能に関する限り、新型ゴルフ/ゴルフ ヴァリアントのEA211evo 1.0TSIは満点の出来だ。
VWは2000年代半ばに過給ダウンサイジングエンジンの先鞭をつけ、高効率でダイレクトなフィールが特徴のトランスミッション、DSGを採用し、気持ちいい走りと低燃費を高次元で両立させた。パワーを維持しながらさらなる低燃費を追求したミラーサイクル+可変容量ターボのEA211evo 1.0TSIは久々に、VWの底力を示す新技術である。
(世良耕太)
フォルクスワーゲン・ゴルフ ヴァリアント eTSI Active・主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4640×1790×1485mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1360kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.1m
燃料タンク容量:47L(無鉛プレミアム)
■エンジン
型式:DLA
形式:水冷直列3気筒DOHCターボ
排気量:999cc
圧縮比:11.4
ボア×ストローク:74.5×76.4mm
最高出力:81kW(110ps)/5500rpm
最大トルク:200Nm/2000-3000rpm
■モーター
型式:4450
最高出力:9.4kW(13ps)
最大トルク:62Nm
■駆動用バッテリー
種類:リチウムイオン電池
槽電圧:44V
■駆動系
トランスミッション:7速DCT
■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rトレーリングアーム
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rディスク
タイヤサイズ:205/55R16
ホイールサイズ:7.0J×16
■燃費
WLTCモード:18.0km/L
市街地モード:14.5km/L
郊外モード:18.0km/L
高速道路モード:20.1km/L
■価格
326万5000円