530ps、750Nmのパフォーマンス以上に印象的な、感情に訴え掛けるパワーの出方や出力特性【新型レンジローバー試乗記】

今や当たり前に各メーカーがラインナップするハイエンドSUVだが、その礎はもちろん、1967年デビューのレンジローバーである。そのレンジローバーが、「トップ・オブ・ハイエンドSUV」の称号を確たるものとするべく第5世代へと移行した。先行導入されたV8ガソリンとV6ディーゼルでその出来栄えを確認した。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) PHOTO:宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)/編集部

新型V8 4.4Lを搭載した5代目レンジローバーのエモーショナルな走り

フロントからサイド、リヤに至るまで、レンジそのもののデザインでありつつ、ボディ表面には全周に渡ってほとんど突起物がなく、非常にクリーンでシンプルな印象。

1967年のデビューからその歴史をゆっくりと歩み続けている「レンジローバー」が、10年ぶりに第5世代へとフルモデルチェンジを果たした。そして今回はその日本導入先発モデルとなった、V8ガソリンモデルと直6ディーゼルターボモデルに試乗したが、それは呆れるばかりの素晴らしさであった。

最初にステアリングを握ったのは、4.4リッターのV型8気筒ツインターボを搭載した「FIRST EDITION P530」。その名の通り530psの最高出力と、750Nm(!)もの最大トルクを発揮する最上級グレードだが、面白かったのはその、有り余るパワーの使い方だった。

従来の5リッターからダウンサイジングされた新型V8エンジンは、同時にその過給方式も、スーパーチャージャーからツインターボへと改められた。

各バンクに装着されたタービンをツインスクロール制御するそのアウトプットは、スーパーチャージャー時代に比べるとブーストの立ち上がりが若干穏やかになったようだ。

現状カタログにラインナップされるパワートレーンは、直6ディーゼルMHEV 300ps、直6ガソリンPHEV 420ps、直6ガソリンPHEV 510ps、V8ガソリン 530psの四種。先行導入はPHEVを除く二種で、写真はトップレンジのV8 530psだ。

アクセルの踏み始めにおいて緩やかにトルクを立ち上げて行く様は、昨今の電動化ユニットと比べれば、確かに一瞬緩慢さを感じるかもしれない。かといってその反応が極端に遅いのかといえばそうではなく、むしろ筆者はそこに優雅さを感じた。まるでレンジが「クラシック」と呼ばれた時代の上品さを現代解釈したかのような出力特性で、嬉しくなってしまったのだから面白い。

そして踏み込むほどに“ファーッ”っと濁りのないV8サウンドが響き、パワーが盛り上がってくるのだからたまらない。それなりの排気量を持つV8エンジンにして排気干渉による雑音を抑え、それをほどよくエモーショナルさに転換できたのは、結果的に排気側にタービンを備えた効果かもしれない。

対するボディは、その見た目がかなりフラッシュサーフェス化された。ランドローバーは「ヴェラール」でこうした近未来的かつ空力抵抗の少ないデザインを先んじてプロポーザルしたが、これが遂にトップモデルにも採用されたというわけだ。ちなみに資料によるとその「ヴェラール」という名称はラテン語で「ベール」を意味しており、1969年に登場したレンジローバー・プロトタイプの名称だった。つまり近代ランドローバーのデザインが、ここにベールを脱いだというわけだ。

上質感はもちろんだが、デザインに過剰な印象はなく、外観同様シンプル&クリーンなイメージ。撮影車の内装カラーは「ペルリーノインテリア」

さらにそのプラットフォームは、「MLA-FleXアーキテクチャ」として刷新された。そのモノコックはバルクヘッドがスチールに変更されるなどしてオールアルミ製ではなくなったが、その重量は2560kgと、先代V8よりも100kgほど軽く作られている。そしてこの新型プラットフォームは電動化を見据えた各種のパワーユニットへの適応はもちろん、これからの新型ランドローバー車に対して活用される。

これを実際に走らせた印象としては、バネ下の23インチタイヤを苦も無く抑え込む堅牢さが見事であり、先代比50%アップと言われるボディ剛性の向上にも大いに頷けた。もっともレンジローバーはそのサスペンションに伝統のエアサスと可変ダンパーを組み込んでその味わいを入念に整えているため、ドイツ車のようにボディ剛性の高さを全面に押し出すようなそぶりもなく、乗り心地は極めて優しい。

こうしたエンジンとシャシーが組み合わさると、飛ばさずとも普通の道が楽しくなるからたまらない。レンジローバー P530を運転していると、2300万円超えのフラグシップモデルであるという緊張感よりも、高揚の方が遙かに高いのである。まだほんの少しの時間を共にしただけだが、その第一印象は盤石。単なるラグジュアリーなSUVに留まらない、カントリーロードがよく似合うその走りに、レンジローバーの奥深さを感じさせられた。

バランス良く、シンプルで実直な印象のV6ディーゼル

直列6気筒ターボエンジンは300psのスペック。マイルドハイブリッド仕様となっている。

P530の走りが“王道”だとすれば、直列6気筒ディーゼルターボを搭載するMHEVモデル「D300」の魅力はシンプルさであり、実直さだと言えるだろう。ディフェンダーにも搭載され高い評価を得ている3リッター直列6気筒ディーゼルターボ(300PS/650Nm)は、シャシー側の遮音性の高さも相まって、とにかく静かだ。低速からの歩みだしは48Vのマイルドハイブリッドが黒子的にトルクを素早く供給しているのだろう、V8エンジンのようなタメすらもなく、するするとその巨体を進ませる。

シャシーのバランスもいい。300Dでは鬼押出へ向かう峠道まで繰り出してみたが、かなり回り込んだカーブでも、その操作は全く苦にならなかった。普通であれば同乗者の頭の動きに気遣いながら、コップの水をこぼさずそーっと操舵するような場面でも、終始リラックスして、普通にハンドルを切ることができた。

写真でも質感や光沢感が伝わるパーフォレイテッドセミアニリンレザーシート。シートカラーはエボニー。
後席はとくに高い位置に着座するレンジローバーポジション。アームレストを起こして5名乗車が可能だ。豪華極まりない空間には違いないが、写真のスタンダードホイールベースの後席空間前後長は、5m超の全長から想像するほどには広大というわけではない。

そこには今回からダブルウィッシュボーンとなった、フロントサスアームの横剛性が効いているのだろう。エアサス及び可変ダンパーによる滑らかなロール制御の中にも、きちんと芯のある操舵感が感じられる。なおかつ最大7.3℃の切れ角を持つ後輪操舵が、乗り手に悟らせないほど自然にコーナリングをアシストしている。

ただもし筆者がレンジローバーを手にするような立場だとしたら、およそ300万円の差をもってしても、恐らくV8モデルを選ぶだろう。直列6気筒エンジンは確かにその回転フィールもスムーズであり、回してもトルキーだが、V8にはその先に“エモさ”がある。

上下分割で開閉するテールゲートや質の良いカーペット貼り内装を踏襲する。

バカンスに裂く移動距離が長いヨーロッパであれば、WLTCモード総合で10.8km/ℓを刻むこのディーゼルの価値はもっと大きなものとなるのだろう(ちなみにV8は7.6km/ℓ)。翻って東京~軽井沢間程度の往復であれば、その道中を楽しみ、明日への活力をチャージする上でもレンジローバーを手にできる人々にとってはV8が最善に思える。

しかし残念ながらこのV8モデルは、既に3年分の生産予定の受注が完了。バックオーダー軽減のためにその受注が、一端締め切られてしまっている。ちなみに「D300」や「ガソリンPHEV「P440」、同じV8モデルでもスタンダードロングホイルベースとなる「SV」の受注は受け付けている。つまりレンジローバーを手にするような人々にとっては、そんなことなど最初からわかっていたことなのである。

スタイリングで変化幅が大きいのはリヤ周りだろう。サイドも含め、全周に渡るフラッシュサーフェイス化が良くわかる。(「V8ガソリンエンジン」写真以外の掲載カットは、すべて「AUTOBIOGRAPHY D300 (直6ディーゼル)」)。
レンジローバー AUTOBIOGRAPHY D300

全長×全幅×全高 5065mm×2005mm×1870mm
ホイールベース 2995mm
最小回転半径 6.1m
車両重量 2850-2700kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:ダブルウィッシュボーン R:インテグラルマルチリンク
タイヤ 285/40R23

エンジン 水冷直列6気筒ターボ
総排気量 2993cc
最高出力 221kW(300ps)/4000rpm
最大トルク 650Nm/1500-2500rpm

モーター 同期クローボール型モータ
最高出力 13kW/5000rpm
最大トルク 42Nm/2000rpm

燃費消費率(WLTC) 10.5km/l

価格 20,310,000円

キーワードで検索する

著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…