VCターボ初搭載「新型エクストレイル」の走りはまず静粛性の高さに舌を巻く!【新型エクストレイル試乗記】

日産を代表するミドルサイズSUV「エクストレイル」が、9年を経て4代目の新型モデルへと生まれ変わった。新型エスクストレイルは、一新された堂々たるスタイリングもさることながら、e-POWERの新採用、VCターボ、e-4ORCEなどメカニズム面でのトピックスが非常に多い。さっそく、テストコースで得たファーストインプレッションをお届けしよう。
REPORT:山田弘樹 PHOTO:平野 陽
エクストレイルは今回の新型モデルが4代目。9年ぶりのフルモデルチェンジを迎えた。

e-4ORCE、VCターボ、すべてを一新したパワートレーン

日産のミドルサイズSUV「エクストレイル」が、4代目へとフルモデルチェンジ。そのプロトタイプモデルに「日産グランドライブ」で試乗することができた。

新型エクストレイルの目玉は、北米で先んじてインフィニティ「QX50」や日産「ローグ(エクストレイルの北米仕様)」に搭載された「VCターボ」を、e-POWERに組み合わせたことだ。VCターボの“VC”は、“Variable Compression”の略称。

それはコンロッドから延長されたマルチリンクをアクチュエーター制御することで圧縮比を8~14:1まで連続可変できる機構であり、エクストレイルではこれを1.5直列3気筒ターボ(106kW/230Nm)に組み合わせて、モーターへの電力を発電する。

全長4660mm、全幅1840mm、全高1720mm。旧型モデルと比較すると3サイズに大きな変化はないのだが、骨格の強さを感じさせるデザインゆえか、実際には寸法以上に堂々と大きく見える。

エクストレイルのラインナップにはFFと4WDがあり、今回試乗したのは後者。FFはフロントに150kW/330Nmのモーターを搭載し、4WDではさらに後輪を100kW/195Nmのモーターで駆動する。また外観を小変更して、20インチタイヤを履かせた「オーテック」仕様(4WD)も試すことができた。

与えられた走行時間は、各15分。定められた速度に準じて走ると、テストコース2周ほどとなる短い走行だったが、そのなかで最も印象に残ったのは、新型e-POWERの静粛性の高さだった。もちろんここに大きく貢献していたのが、1.5VCターボの制御だ。

今回の大きな目玉のひとつが、新搭載の「VCターボ」エンジン。e-POWERを構成するエンジンが、これまでのノート、セレナの1.2Lから、圧縮比連続可変式の1.5Lターボへと大幅にパワーアップしている。

このエンジンのメリットは、ターボとしては過給圧が掛かりにくい低回転領域でも、その圧縮比を上げて高効率に出力を得られることにある。具体的には時速30km/h以下の領域だと1600rpm程度、なおかつ80km/hあたりまでエンジン回転を2000rpm程度に抑えて発電することができる。なおかつこのエンジンはコンロッドが上下したときの角度変化を抑える構造となっており、これによってピストンの首振りも抑制することができている。

こうした特性と、新型プラットフォームの遮音性の高さが組み合わさった結果だろう、常用域ではエンジンの作動音や振動が、極めて少ないのである。もちろんその存在がわからないわけではないのだが、これだけ静かなら、無理して面倒なEVに乗る必要はないんじゃないか? と思えるほどその制御は静かだった。少なくともEVインフラが整う間までの橋渡しには、十分なるポテンシャルがある。

e-Pedal stepには、e-POWER初のブレーキ協調制御を追加。e-Pedal ONでは、全モード共通で0.2Gの減速力を発生する。
FFはAUTO、SPORT、ECOの3つ。4WDこれに、SNOW、OFF ROADを加えた5つのドライブモードを用意する。

フロントでノート比1.2倍、リアで同1.9倍の出力を得たモーターのレスポンスはリニアで、エクストレイルの大柄なボディを軽やかに走らせる。ゼロスタートからの全開加速では、乗員のヘッドトスを抑えながら速度を上手に乗せて行き、バンク進入までの短いストレートでも180km/h台を確認できた。

その加速力は驚くほどパワフルではないけれど、ミドルサイズのSUVとして過不足ない速さを持っていると言えるだろう。またこうした場面では、これまで同様速度の上昇とエンジン回転の上昇がシンクロし、違和感のない加速フィールも実現できていた。

質感向上は大きな開発テーマの一つで、インストルメントパネルの造形にもその成果があらわれている。メータークラスターとセンターモニターの配置は、アリアやノートと異なり、オーソドックスな構成だ。
センターディスプレイは12.3インチの大画面で見やすい。ヘッドアップディスプレイも10.8インチの大画面だ。
フルTFTメーターも12.3インチを採用。写真はエンハンスモードで、中央のACC作動画面が拡大表示された状態。

アリアとは明確に印象の異なる乗り味

対してその乗り味には、適度なメリハリ感がある。たとえばアリアがピュアEVとして、その乗り心地に上質さを演出しているのに対して、エクストレイルはもう少しスポーティだと思う。モーターライドは前述の通り静かであり、路面からの入力も上手にカドを丸めてはいるのだが、より荷重に対して踏ん張りが効いた足周りを備えている。

そしてこの足周りに、4WDの制御が実にうまく噛み合う。特にターンインではブレーキングからの回頭性の良さと、ここに相反するはずの安定性の高さを同時に感じ取ることができて感心した。ターンインの良さにはe-Pedal Step初のブレーキ協調制御が効いており、モーターの後輪減速Gがフラットな姿勢を保ってくれるというのがその理屈のようだが、ともかく普通にアクセルを緩め、ハンドルを切って加速するだけで、軽やかにコーナーを曲がって行く。

写真の「G」グレード標準設定のシートには、ソフトレザー並の触感をもつ人工皮革「テイラーフィット」を新開発して採用している。
後席足元が非常に広いのが印象的。SUVとしては希少な後席スライドを採用し、スライド量は旧型比20mmプラスの260mmを実現している。

またコースには上り坂頂上付近から左に折り返す、曲率が高く難しいコーナーがあるのだが、こうした場面でも4輪がケンカすることなく、本当に上手にトラクションを掛けて行く。オンロードでここまで緻密な制御が感じ取れるのだから、雪上やオフロードではさらに乗りやすいはずである。

ちなみに「プレミアムスポーティ」をコンセプトとしたエクストレイル「AUTECH」(オーテック)は、その足下に20インチタイヤを装着していたが、きちんとこれを履きこなしていたのも印象的だった。よってその足周りも専用に仕様変更されているのかと思ったが、聞けばまったく標準仕様と同じとのこと。

つまりそれだけ新型エクストレイルのシャシー剛性は高く、その足周りも懐が深いということが言えそうだ。総じて新型エクストレイルの第一印象は、かなり好印象。この走りが果たしてリアルワールドで、どこまで再現できるのかは興味深いところである。

積載量ナンバー1を標榜するラゲッジルーム。104Lサイズ2個と63Lサイズ1個のスーツケースを飲み込む。
ラゲッジルーム左側側面には、外出先やアウトドアでも便利な1500W電源が用意される。
同時デビューのエクストレイル AUTECH。専用20インチタイヤをしっかり履きこなしているのが印象的だった。
乗り心地の良さ、高い静粛性、力強い走り。一般公道での試乗が楽しみになる仕上がり具合が確認できた。
日産 エクストレイル X e-4ORCE(2列シート車)

全長×全幅×全高 4660mm×1840mm×1720mm
ホイールベース 2705mm
最小回転半径 5.4m
車両重量 1850kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:独立懸架ストラット式 R:独立懸架マルチリンク式
タイヤ 235/60R18

エンジン 水冷直列3気筒DOHC KR15DDT
総排気量 1497cc
最高出力 106kW/4400-5000rpm
最大トルク 250Nm/2400-4000rpm

フロントモーター BM46
最高出力 150kW/4501-7422rpm
最大トルク 330Nm/0-3505rpm

リヤモーター  MM48
最高出力 100kW/4897-9504rpm
最大トルク 195Nm/0-4897rpm

燃費消費率(WLTC) 18.4km/l

価格 3,799,400円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…