朝方の雨で参加を見送る旧車が多かったと思われる8月21日の第3日曜日。いわゆる「ダイサン」と呼ばれる東京旧車会は天候に関わらず毎月開催されているが、朝に雨が降っていると高年式車の参加が多くなることを改めて知らされることになった。ただ時間の経過とともに天候は回復。するとキャブレター時代の古い国産車たちがチラホラを姿を見せ始めた。その中にケンメリ・スカイラインの姿もあったのだが、どうもキャブレター特有の音ではないように聞こえる。駐車スペースに停められ、しばらく歓談していたオーナーが話し終えるタイミングで近づいてみると、車体の前後に「RB26DETT」と書かれたステッカーが貼ってある。もしかして?とオーナーを直撃してみた。
ケンメリのオーナーである髙橋武司さんは63歳で、奥多摩の麓といっていい青梅市にお住まいの方。だから天気が回復しそうだと思って駆けつけられたのだ。ところでRBエンジンは専門店によって載せ換えられたものなのか質問をぶつけてみた。専門店が製作したRBスワップの旧車には何度となく接してきた筆者だが、このケンメリにも同じような雰囲気が感じられたので聞いてみたのだが、意外にもそうではないという。「専門店にも相談してみたのですが、多忙のため断られてしまったのです。その後インターネットに同様の手法で製作された例を見つけて、電話してみることにしたのです」。
電話したのは大阪のチューニングショップで髙橋さんのオーダーを快諾してくれた。1976年式のケンメリ・スカイラインにRB26DETTエンジンを載せ換え、パワーアップに見合った車体と足回りにモディファイすることが決まった。もちろん外観はGT-R風に仕上げるのだが、軽量化も考慮してカーボンパーツを多用することになった。そのため迫力のスタイルになっているのだ。
カーボン・オーバーフェンダーの下にはワーク製の16インチアルミホイールを履いている。この画像を見て「?」と思われた方もいるだろう。ケンメリ・スカイラインのホイールナットは4本のはずなのに5穴ホイールを履いているのだから。そう思って質問するとフロントのブレーキキャリパーを新しい4ポットタイプに変更するためハブごと変更されたのだとか。リヤブレーキも同様に変更されているので、パワーアップに見合った制動力を確保することに成功している。
ケンメリに純正で採用されたL型6気筒エンジンは、現車の1976年式などの場合、排出ガス規制が強化された後のNAPS仕様になる。高回転までまるで回りたがらない特性で、走りにこだわるユーザーから長年敬遠されてきた年式でもある。ところが長大なL型エンジンは新世代6気筒であるRB系とマウント位置がそれほど違わないため、載せ換える苦労は比較的少ないというメリットがある。だからこのケンメリにも無理なくRB26DETTが載っているのだ。ただ補機類が多いため配管の取り回しなどにノウハウが必要とされるし、熱対策にも苦労するはず。よくよく見てみるとインタークーラーを前置きにしてラジエターを社外のアルミ製に変更するなど、しっかり対策されているとわかる。RB26DETTエンジン本体はノーマルとのことだが、制御ユニットはF-CON V Proに変更することで好みの特性にすることが可能。また組み合わされたミッションはケンメリ純正ではなくECR33スカイライン用。RBエンジンに載せ換えるならミッションなどもRB搭載車にしてしまうのが理想的だろう。
補機類が多く苦労されたように見受けられたエンジンルームだが、エアコンのコンデンサーが見当たらないので質問してみると、クルマの後へ回るよう案内された。なんとトランクの下に移設されているのだ。エンジンルームに置き場所がなくなってしまったための対処だが、なかなかナイスなアイデアといえないだろうか。またコンデンサーの向こうに見えるデフはニスモ製R200に変更されている。そのままサーキットに持ち込んでも楽しめる仕様となっているのだ。
一方でインテリアもGT-R風なテイストでカスタムされている。純正に換えてアルミ製とされたメーターパネルに7連メーターが並び、スピードメーター以外は社外品に置き換えられている。エンジンを載せ換えたことで求められる計器の正確さを得るには、こうした手段が効果的だろう。現車もそうだがダットサンコンペタイプを呼ばれる70年代から80年代当時のレースオプションだったステアリングホイールに交換するのは定番。ところがステアリングコラムに電動のパワーステアリングを追加して軽い操作形にしていることもポイント。同時にハーネスを作り直してR33から移植されたオートエアコンが使えるようになっているので、今年のような酷暑でも快適にドライブできるというから魅力的だ。
速く快適なケンメリができあがったわけだが、ボディが当時のままでは当然パワーを持て余してしまうことになる。経年劣化によるボディの疲労や、ピラーのないハードトップスタイルはそもそもボディ剛性が高いわけではない。そこで室内にはロールケージが張り巡らされているのだが、補強はこれだけでないという。ケンメリのフロアには2本のメインフレームが通っているが、ここへ鋼板を追加してフロントフェンダー内まで貫通するようにしてあるという。これによりRB26の大パワーを受け止めることが可能になったのだ。ハイパワーエンジンに載せ換えたらボディや足回りの強化は不可欠。それが旧車であればなおさらのことで、このケンメリなら安心してアクセルを踏めそうだ。