目次
3.加速時の不調
遅いクルマを追い越す時やコーナーを立ち上がるときなどで、アクセルの踏み始めでガボついたり、あるいはスカスカだったりという不具合も多い。その場合はここをいじってみる。
■加速ポンプまわりをチェック
加速しようとアクセルを開けると、まず作動するのが加速ポンプだ。アクセルに連動してキャブの通路を開閉しているスロットルバタフライがガバッと開くと、空気が燃焼室に向かってドドッと流れ込むので、一時的に燃料が足りなくなる。これを補うために、燃料をピュッと吹き出してやるのが加速ポンプだ。もしこれが効かないと、開け始めで燃調が薄くなり、加速できない間が生じてしまうわけだ。逆に多く吹きすぎるとカボついてしまう。
SOLEXの場合はこのロッドでボディ下面のポンプを作動させている。調整の際はこのロッドの下側のピンの位置を変えて、噴射する燃料の“量”を変更できる。
まずキャブの左右で噴射具合が揃っているかをこのように確認。揃っていない場合はキャブクリーナーを使ってジェットや通路の掃除をしてみよう。
もうひとつの調整箇所がこのポンプジェット。こちらは噴射の“時間”を調整するのが主な役割で、絞れば長く噴射する。
SOLEX(左)とWEBER(右)ではポンプの作動方式が違う。SOLEXはリペアキットにこの交換部品が入っているので活用しよう。
■スロージェットの見直し
加速ポンプの陰でスロージェットもひっそり作用している。この領域では他にもいろんなジェットが複雑に絡んでいるので、加速ポンプだけでなく、このスロージェットを調整してやると不調の症状が直る場合もある。もし換える場合は、加速ポンプと同時にやらないで、こちらだけ交換するようにしないと、ワケがわからなくなってしまう。
加速の領域は回転数やアクセル開度などで作用するジェットのカラミ具合が変わるので、その判断はかなり難しい。とりあえず見当を付けてひとつ換えれば変化があるハズなので、そこから判断していこう。
■メインジェットの見直し
「メインは中間域は関係ないのでは?」と思っている人もいるかもしれないが、実際メインジェットは4000回転辺りからしっかり効いているので、こちらを調整してみるのもアリだ。交換してみると、けっこう差があるのが分かるハズ。
キャブの口径は合っているか?
ジェットをさんざん換えたのに、なかなかセットが上手くいかない…なんていう人はいないだろうか? そういうケースの中には、キャブの口径がエンジンに合っていない場合がある。同じタイプのエンジンでも、例えば新品のエンジンと、ヘタって圧縮の抜けてしまったエンジンでは、吸い込む力が異なるので、適したキャブが違ってくる。おおざっぱに言うと、口径が大きすぎる場合は燃料が上手く吸い出せないために、セッティングが合う範囲が狭くなる。逆に小さすぎると、セッティングがしやすい反面、高回転で抵抗が大きいので最高出力は落ちる方向だ。自分のクルマの用途や特性を考え、キャブの口径を見直してみよう。
キャブは通路の内部を絞ることで負圧を発生させて必要な燃料を吸い出しているが、エンジンの吸い込む力が同じなら、この口径が大きいほど負圧は小さくなり、セッティングが難しくなる傾向だ。
1気筒あたりの排気量の目安 40φ=330cc 45φ=420cc 50φ=550cc キャブの口径を変えるのは手間も費用的にも大変なので、アウターベンチュリーを絞ることで、口径を小さくしたのに近い効果を得ることができる。これも1台分揃えるとけっして安い買い物ではないけど、キャブを買うよりは安く済むだろう。
4.全開時の不調
高速をアクセル全開でカッ飛んでいるときやサーキットでストレートを踏んでいるときは、高回転時に働くメインとエアの2種のジェットの領域だ。これらは最高出力に直結するジェットなので、選択のし甲斐がある部分だ!
加速の感じと燃料の濃さの目安
トルクを感じるけど回転の上がり方が重たい>>>濃い
軽くフケるけどトルク感が足りない>>>薄い
■メインジェットを交換してみる
エキスパートの人たちは豊富な経験から、「このエンジンの仕様ならメインは○○番で大丈夫だろう」と判断できるが、経験が無い人は加速の感じから判断することになる。集中して踏んでいれば、回転の上がり方が重たいなら濃い、軽くフケるけどトルク感が少ないなら薄い、と、だいたいそんな感じである程度は判断がつくので、自分の感覚を信じて最も「イイ感じ」のところを探していけば問題無いんだけど、ひとつだけ注意して欲しいのは、薄すぎる状態で、高いギヤで長時間全開にしてはいけないということ。燃焼の温度が上がりすぎて最悪の場合、ブローしてしまう。なので、ジェットの選択に自信が持てない場合は、必ず少し濃い目の番手を入れるようにすれば、最悪のケースは防げるだろう。
交換作業はけっこう簡単だけど、選択を大きく外すとエンジンにダメージを与えることもあるので、踏むときは慎重に行なおう。
■エアジェットを交換してみる
エアジェットの働きがイマイチ分からない、という人もいるだろう。一例をあげると、ピークパワー発生回転の手前まではイイ感じだけど、その上で頭打ち感があるような場合はエアを大きくしてみるといい。これで高回転の伸びが出るなら正解ということ。しかしこちらもメインと同じ理由から、伸びを求めて薄い領域に入ってしまうと危険なので、ちょうど良いと思える一歩手前で留めておくのが安心だ。
エアジェットが緩んだ状態の全開走行は危ないので、しっかり締め込んでおこう。
5.季節や天候による不調
よく、「キャブ車は冬にジェット交換が必要なので面倒だ」というハナシを聞くが、それはどういう理由からなのか? そして実際のところはどうなのだろうか? その気候との傾向をまとめてみたので参考にしてみてほしい。
■寒くなると→空気が濃い=燃調薄くなる
気温が下がると空気の密度が高くなるので、空気中の酸素の量も多くなり、その結果、燃調は薄くなる傾向だ。実際にパワーを測定すると、夏より冬の方がパワーが高くなる(燃調が合っているのが前提)。これは吸い込む力の弱い低回転域で影響が大きいため、普段乗りのクルマだと発進時などに不便を感じてしまう事が多いというわけだ。それにはスロージェットなどの調整で対応することになる。しかし、エンジンの吸う力が十分あってセッティングが適正なら、純正エンジンのように調整不要で1年中快適に乗ることが可能なので、要はそのエンジンにマッチした口径のキャブでしっかりセッティングすることが、快適に乗る秘訣ということのようだ。
■雨が降ると→空気が薄い=燃調濃くなる
同じ気温なら、雨が降る=湿度が高いので、空気中の水蒸気の分だけ酸素の量が少なくなって、燃調は濃くなる傾向。ただし、雨の日は気温が下がる事が多いため、その兼ね合いもあって雨が降るから一概に濃くなるとも言い切れないので、ちょっとややこしい部分だ。雨の日にガンガン乗るキャブ車乗りは少ないかもしれないが…。
■標高が高いところ→空気が薄い=燃調濃くなる
山登りすると実感するけど、空気は標高が高くなるほど密度が薄くなっていく。山のふもとでは快調だったのに、山の山頂付近でフケが悪くなる、っていうのはこういう理由から。これも小さめの山と富士山やアルプスのような高い山では勝手が違うが、標高が上がれば気温は下がっていくので、その兼ね合い次第では、影響が少ない場面もあるので、臨機応変にそのときの状況をよく考えて対応しよう。
高い山でも快調に走りたい場合は、登る前にファンネルの口を少し塞いでセッティングし、上でそれを外す、なんていう方法を試してみるのも勉強になって面白いかもしれない。
このキャブレターセッティングガイドの記事は、令和に残るクルマ改造雑誌『G-ワークス』(毎月21日発売)に掲載された記事を引用・転載したものです。