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圧倒的パフォーマンスがうたわれる究極スポーツカー
ホンダの「タイプR」といえば、量産車をベースに究極のスポーツ性能を与えたモデルであることを示す記号というイメージが強いかもしれません。実際、1992年に生まれたNSXタイプRから2007年に鈴鹿で作られていたシビックタイプRまでは、快適性を犠牲にしてでもサーキットベストを優先した、レーシングテクノロジーを注ぎ込んだスポーツカー=タイプRという位置づけになっていました。筆者としては、2010年のシビックタイプRユーロ、2015年の初めてターボエンジンとなったシビックタイプRの頃から街乗りでの快適性への意識が生まれたように思いますが、いずれにしてもそこまでの第一世代タイプRにおいて最優先事項は「速さ」でした。
サーキットにおける速さとは、すなわち数字で表せるラップタイムです。圧倒的パフォーマンスへのこだわりは最新のシビックタイプRでも不変ですが、先代シビックタイプRからは「運動性能と快適性」を高次元で両立することが基本テーマとして掲げられています。これは、初代NSXの標準モデルが「エブリィデイスーパーカー」という日常的に使えるスーパースポーツを目指したのにも通じます。現行シビックタイプRの車両コンセプトは『アルティメイト・スポーツカー』というものですが、速さだけでなく、快適性でも究極を目指しているというわけです。
それでも、快適性によって操る喜びをスポイルするようなことがあっては本末転倒です。いまの時代に、あえて3ペダルの6速MTだけの設定としているのは、タイプRが伝統的に表現してきた操る喜びに、MTを駆使するという行為が欠かせないということでしょう。そんなシビックタイプRは、2.0L VTECターボエンジンのパワーをフロントタイヤだけで受け止めるFFであることもアイデンティティとなっているのは言うまでもありません。
2.0Lターボは330馬力を発生、最高速はFFモデルでナンバーワン
タイプRに欠かせないのが、ホンダの作り上げるエンジンでしょう。スポーツエンジンにおいて重視される要素として、ホンダは「高出力」、「高レスポンス」、「高回転」の3つをあげています。ご存知のように近年のシビックタイプRは、2.0Lターボエンジンを搭載していますが、けっしてブーストを高めてパワーだけを求めたものではなく、レスポンス重視のセッティングとされています。それでいて、自動車メーカーによる工業製品でありますから信頼性も求められますし、年々厳しくなる環境性能もクリアしなくてはいけません。
そうした条件があるにも関わらず、最新のシビックタイプRでは歴代最強となる330馬力の最高出力を実現しています。NAエンジン時代にはリッターあたり112馬力が限界でしたが、いまやリッターあたり165馬力を実現しているのです。
結果として、ホンダは「最高速度FFモデルナンバーワン」とうたっています。具体的な速度については未公表となっていますが、先々代のシビックタイプR(2015年モデル)の最高速度が270km/hでFF量産車世界最速と公表していました。少なくとも、最新のシビックタイプRはそれを超えるレベルの速さを有していることは間違いないでしょう。
GPSによる位置情報とリンク。速度リミッターが外せるサーキットは13コース、その必然性は?
しかし、残念ながらシビックタイプRの最高速性能は常に発揮できるわけではありません。現行シビックタイプRは久しぶりにメイドインジャパンとなっていますが、日本製ということは180km/hで作動する自主規制の速度リミッターが備わってしまうということです。
公道で最高速度を出すというのはイリーガルな行為ですので、メーカーとして速度リミッターを設定することは理解できますが、サーキットでのベストパフォーマンスを出すときには速度リミッターは足かせとなってしまいます。そこで、新型シビックタイプRはGPSによる位置情報とリンクして、速度リミッターをナビゲーション画面から簡単に解除できるようになっています。
対象となっているのは、以下に示す13のJAF公認サーキットになります。
十勝インターナショナルスピードウェイ(北海道)
SUGOインターナショナルレーシングコース(宮城県)
エビスサーキット(福島県)
モビリティリゾートもてぎ(栃木県)
筑波サーキット(茨城県)
袖ヶ浦フォレスト・レースウェイ(千葉県)
富士スピードウェイ(静岡県)
スパ西浦モーターパーク(愛知県)
鈴鹿サーキット(三重県)
セントラルサーキット(兵庫県)
岡山国際サーキット(岡山県)
阿讃サーキット(徳島県)
オートポリス(大分県)
富士スピードウェイのように速度リミッターの解除はマストと思われるサーキットは当然含まれていますが、並みのドライバーでは速度リミッターが働くようなタイムで走ることが難しいと感じるサーキットも入っているのは興味深いところかもしれません。はたして、それぞれのサーキットでシビックタイプRのオーナーは量産FF車の最速タイムを刻んでいくのでしょうか。