可動式ハンドルで作業がもっとはかどる! セットに追加したい便利工具「スイベルラチェット」で、ソケットレンチをさらに有効活用!【DIY派はこれを揃えてお工具! 第2回】

セット工具の中でも便利で使用頻度の高いラチェットレンチ&ソケット。ただ、状況によっては「レンチが入らない」とか「回すスペースがない」といったことも少なくない。そんな時に役に立つのが可動式のラチェットハンドル「スイベルラチェット」だ。セットにプラスすることで、クルマいじりがもっと捗る便利工具について解説しよう!
REPORT:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu) PHOTO:MotorFan編集部

セット工具だけでは対応できないことも……

DIY整備にも慣れ、できる作業が次第に増え始めると、最初に買った工具セットだけではだんだん物足りなさを感じてくる。そうなると自然と単品売りしている工具を買い足したくなる。その最初の買い足し工具には2本目のラチェットハンドルをオススメしたい。

中央が3/8インチ(9.5mm)の小判型ヘッド・スタンダードハンドル

というのも、セットに入っているラチェットハンドルは差込口3/8インチ(9.5mm)の小判型ヘッド・スタンダードハンドルの製品がほとんどだ。ラチェットハンドルはヘッド部分を左右に振ることでボルト&ナットの締め&緩めを行うのだが、ハンドルを動かしたい方向に障害物があるときなど「もう少しヘッド部分に角度がつけば……」と思うことが出てくるだろう。そんなときに便利に使えるのが首振り機構のついたラチェットハンドルとなる。

スタンダードハンドルでは周囲と干渉して動かすスペースが足りない
ディープソケットを使って対応できるケースもある。
スペースによってはエクステンションバーを使う方法もある。

可動式ラチェットハンドルは2種類あり

■オススメは「スイベルタイプ」
首振り機構を持つラチェットハンドルはフレックスタイプとスイベルタイプの2種類があり、前者は小判型ヘッド部分の付け根に可動軸を設けることで角度が自在に買えられるタイプで、後者は丸型のヘッド部分中央に稼働軸が存在し、ヘッドが180度自由に回転するタイプを指す。それぞれに長所・短所があり、使い手の好みも出てくるのだが、筆者が2本目のラチェットハンドルとして買い増しをするのならスイベルタイプを推したい。

写真上がフレックスタイプで下がスイベルタイプ
写真左がスイベルタイプで右がフレックスタイプ
写真左がスイベルタイプで右がフレックスタイプ
写真上がフレックスタイプで下がスイベルタイプ。差し込み口を最大限下に向けた形。
逆に上向きにした形。
スイベルタイプの使用例
フレックスタイプの使用例

■「スイベルタイプ」は可動範囲の広さが魅力
スイベルタイプのメリットは、ヘッドの稼働範囲が広く、ハンドルを立てて使えばドライバーのように早回しできることと、支点が一定なので力点がズレないこと(ハンドルを斜めにしても真っ直ぐ力が伝わる)ことのふたつとなる。デメリットとしては、ヘッド部分が大きくなるため作業スペースが狭い場所では使いにくいことが挙げられるが、DIYレベルの作業では痛痒を感じるシチュエーションはほとんどないだろう。

ハンドルを垂直に立てた状態で使えるのはとても便利。

人に話したくなる「スイベルラチェットはじめて物語」

■誕生は1919年!
スイベルラチェットハンドルの歴史は意外に古く、その原型となるアイデアは1919年に米国特許商標庁(USPTO)に特許出願された「Peerless Wrench(ピアレスレンチ)」まで遡ることができる。ただ、Peerless (ピアレス)の製品は変形小判型のヘッドの中心に軸を配した設計であり、現在私たちが目にするスイベルラチェットハンドルとは形状がだいぶ異なっている。
現代的なスイベルラチェットハンドルの元祖となったのは、1958年に特許出願、61年から販売されたS・K Toolsの3870だ。S・Kは丸型ヘッドのラチェットレンチを発明したメーカーとして知られており、丸型ヘッドを首振りにした結果、スイベルラチェットハンドルが誕生したのは自然な流れだったのかもしれない。

1919年に特許出願されたピアレスレンチ
1958年出願、1961年発売のS・K

■日本で普及し始めたのは1980年代から
日本でスイベルラチェットハンドルが普及したのは、S・Kの特許が切れ、Snap-on(スナップオン)やMac Tools(マックツールズ)などの北米メーカーが製品化した80年代以降のことだったが、正規品はバンセールス(※)のみと販路が限られていた上、極めて高価なことから一般には馴染みが薄く、プロのメカニックの間でも買えるのは、収入面で余裕のある工場長クラスだけであったようだ
※車両による移動店舗式の販売手法

そんな状況に変化が訪れたのは90年代に入ってからのこと。ファクトリーギアの自社ブランド・DEEN(ディーン)から買いやすい価格のスイベルラチェットハンドルがリリースされたことにより、一気にメジャーな存在となった。現在では国産ブランドや中国、台湾の工具メーカーからも比較的廉価な製品が登場しており、サンデーメカニックの間でも愛用する人が多い工具となっている。

スイベルラチェットにもサイズ違いがアリ

■サイズ設定はスタンダードと同じく3種類
スイベルラチェットハンドルは作業性の良さから1/4インチと3/8インチのふたつのサイズが普及しており、Snap-onやKTC(ケーティーシー/京都機械工具)のようにメジャーメーカーの中にも1/2インチサイズをラインナップしていないケースも多い(というか、むしろ1/2インチサイズを製品化しているメーカーのほうが少ない)。
筆者は一応、1/4インチ、3/8インチ、1/2インチと各サイズのスイベルラチェットハンドルを揃えたが、すべてのサイズを揃えている人は少数派のようだ。

上から1/4、3/8、1/2サイズのスイベルラチェットハンドル。

■それぞれのメリット&デメリット
最初に購入したスイベルラチェットハンドルはカナダのGENIUS tools(ジーニアスツールズ)による3/8インチの製品で、Amazonのセールを利用して5000円程度で購入した。可もなく不可もなく便利に使えていたのだが、3年前の『ギアフェスタ(ファクトリーギアの工具イベント)』でSnap-onのクラシックグリップが通常の半額以下で購入できたので買い替えた。工具の名門・Snap-onだけあってトルクをかけたときの剛性感や信頼性が高く、100枚ギアを採用しているため送り角が小さく、振り角が取れない狭い場所でも使い勝手が良いので、ラチェットハンドルを用いる作業のときにはしよう頻度の高いお気に入りの工具となっている。

GENIUS toolsの3/8サイズ

1/4インチのスイベルラチェットハンドルはSTRAIGHT(ストレート)の製品を愛用している。これはグリップ中心を180度回転させることでT字ハンドルとして使用できるところが面白く、価格も2000円強という安さから店頭で見つけた際に購入。ASTRO PRODUCTS(アストロプロダクツ)やDAYTONA(デイトナ)でもまったく同じ製品を見たことがあるので、おそらく台湾か中国あたりで作った製品のOEMだと思われる。品質にも問題はなく、クルマのアンダーカバーや内装パーツの脱着などに重宝している。

STRAIGHTの1/4サイズはグリップがT字になるのが特徴

1/2インチサイズのスイベルラチェットハンドルは、米アマゾンで購入したTEKTON(テクトン)製を使用している。このメーカーはコスパの良さから北米で人気を集めているメーカーで、比較的安価ながら生涯保証がついていることがウリとなっている。ただ、残念ながら日本に正規代理店がないため購入は個人輸入するしかない。品質は値段の割には良くて、ラチェットギアの作動音がやや安っぽいこと以外に不満がない。
とは言え、このサイズのスイベルラチェットハンドルはヘッド部分がどうしても大きくなるし、そもそも1/2インチのソケットは、長めのスピンナーハンドルやラチェットハンドルと組み合わせて使用することが多いこともあって、今ひとつ出番が少ない工具でもある。
使用するシチュエーションといえば、愛車のジュリアクーペのオイルを交換する際に27mmのドレンボルトを脱着するときか、バイクのホイールを外すときに使う程度だ。なくても問題はないが、あればあったで便利ではある。無理に買うほどのものではなく、プロでもあまり使わない製品というのもうなずける。
サンデーメカニックで1/2サイズのスイベルラチェットハンドルを購入しようという人は少ないとは思うが、TONE(トネ)やSIGNET(シグネット)、Wera (ヴェラ)から製品がリリースされているので、欲しい人は入手性で選ぶのが良いだろう。

上からSTRAIGHTの1/4サイズ(グリップをノーマル位置にした状態)、Snap-onの3/8サイズ、TEKTONの1/2サイズ

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…