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減衰力は、硬さじゃない!
以前よりエンドレスのオリジナルサスペンション “ジール” のテスト品を使用していた加茂GR86。
ジールには、現在IMAという市販品のなかに用途別に「SC」「PS」「TC」の3種がラインアップされ、各グレードの位置づけは、普段乗りメイン+スポーツ=「SC」、スポーツメインにどこでも楽しめる=「PS」、そしてサーキットでワイドなタイヤを履いてタイムを出したい人向けのスペックである「TC」となっている。
加茂号には、その「TC」のテスト品を装着して普段乗りからサーキットまで使い、印象や使用感を報告したり、セッティングを変えてどうなるかなど、細かく長期的にテストしていた。
装着期間は約10ヵ月。すでに8000kmほど走行している(サーキット走行も含む)。
印象としてはバネレートがフロント10kg/mm、リヤ12kg/mmと高めのレートにしているが、その割に乗り心地が良いということ。
これは決してサーキット専用スペックということではなく、ある程度スキルがある人がきちんと乗ればタイムが出せる仕様だということ。
サーキットではバネレートの高さからロールやピッチング量が少なく、運転がしやすい。それでいてしなやかに路面を捉えてくれるので、タイヤがグリップを失うことも少ない。
サーキットでは文句なしのスペックだった。
だが、逆に多少強引なドライビングでもクルマ側で言うことを聞いてくれるので、ビギナーでもなんとなく乗れてしまうが、タイヤが減りやすかったりする。
そのため、ビギナーにはSCやPSがオススメで、TCはやはりある程度乗り慣れている人にオススメの仕様と言えるだろう。
そしてサーキットでは文句ナシだが、ストリートではもう少し直してほしい部分がある(もちろん要望を出した)。それは、伸縮の減衰力のバランスについて。
減衰力は「ばね」を抑える力のこと。正確な日本語表記はばねなのですが、ちょっと読みづらいので、このあとはバネと書きますね(編集者っぽいこと書いちゃったよ)。車体を支えているのはバネだが、バネだけだとビョンビョンと動きが止まらなくなってしまうのだ。
サスペンションのなかに、レンコン?!
そこでサスペンション内部のダンパーオイルの中には、レンコンのようなピストンが入れてあり、そのレンコンから棒を伸ばしてある。
その棒は、車体に繋がっている。レンコンがオイルの中を行き来するには抵抗がかかるわけで、それでバネの動きを抑制するのだ。これが「減衰力」と呼ばれるもの。
そうさね、お風呂をかき混ぜる棒をイメージするとわかりやすいだろうか、え? 知らない? 40代以上のかた限定イメージ?(って加茂は30代だが。笑)
そのダンパーピストンの孔にはシムという金属板を取り付けることで、減衰力の強さを調整している。そして、その孔は縮む時と伸びる時で別の通路になっている。
話がややこしくて大変に恐縮だが(また担当に怒られる)、ダンパー内部のパーツを変えることで伸びる時と縮むときの減衰力をそれぞれ別に調整することができるのだ。
ならば、減衰力調整のクリックがあるじゃん、という話もある。クルマに詳しい読者の皆さまも瞬間的にそう考えたかもしれません。
たしかに、このサスペンションにも調整機構がある。
だが、1wayと呼ばれる[調整がひとつの一般的なタイプ]の減衰力調整ダイヤルは、主に伸び側の減衰力が変わり、縮むときの減衰力はあまり変化がないのが特徴。そのため、調整ダイヤルだけで細かく合わせ込むのは難しいのだ。
そこで減衰力をサーキットなどの現場で簡単に合わせ込めるように、伸縮別調整ができる2way調整、さらには伸縮をストロークスピードが低速時と高速時で別に調整できる4way式などが生まれたのである。
ちなみにこのジールのサスは一般的な1way式なので、減衰力調整では主に伸びるときの減衰力が変わる。そして、これまで使っていて思ったのはやや縮むときの硬さを感じるということ。
縮むときの硬さを感じるが、ダイヤルで減衰力を抜くと伸びるときの減衰力が弱くなって、すばやくサスが伸びるようになる。縮むときの硬さはあまり変わらないわけである。
そこで内部パーツによって縮むときの減衰力を若干弱めてもらい、伸び側とのバランスを最適化しようというのが今回の目的なのだ。
結果は、かなり良い物になったと思われる。
段差はスムーズにクリアして、減衰力ダイヤルで伸びる速度をコントロールできるので、サーキットやストリートなどの場面に合わせて調整して合わせこむことができる。
もちろん、理想は2way式にして場所に応じて縮み側の減衰力も調整できればいいのだが、そうなると価格が一気に40万円オーバーというレベルになってしまい、現実的ではない。
メーカー側でしっかりとセッティングを追い込むことで、ユーザー側は微調整で合わせ込めるようにしてもらいたいのだ。(後編に続く)