スバル・クロストレック試乗! 重厚でしなやかなAWD、軽快感が際立つFFモデル【プロトタイプ試乗記】

インプレッサのクロスオーバーモデル、「XV」が、本家インプレッサに先んじてフルモデルチェンジ。車名も北米同様「クロストレック」に統一された。クロストレックが派生モデルから独立モデルに“飛び級”したのは、昨今のSUV需要を反映してのものだろう。スバルにはこのクルマを、同社のベーシックモデルとして、若年層へアピールする狙いもあるようだ。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) PHOTO:中野幸次(NAKANO Koji)

若年層ユーザー獲得の役割を担うクロストレック

写真は17インチを履く標準グレード。ボディカラーはピュアレッド。

スバルが定義する「若年層」の幅は、免許取り立て世代から49歳まで(北米は54歳まで)とかなり広い。ちなみに日本市場におけるスバルの主要車種(現行XV、レヴォーグ、レガシィB4/アウトバック、フォレスター)のボリュームゾーンは、圧倒的に50代と60歳が多く、前者が全体の25%強、後者が30%弱を占めている。

クロストレックの全長は4480mmで全高は1580mm。先代(XV)比で、全長-5mm、全高+5mmだから、ほぼ同サイズと言っていい。

そしてなんと70~75歳以下(約12%)が、30~39歳(10%弱)よりも多いのだ。つまり、スバルがアイサイトをはじめとした先進安全技術を磨きあげることと、クロストレックで若年層を獲得しようとすることは、どちらも同じくらい大切なことだと言える。

全幅は1800mmでXVと同じ。グリルが大きくなったのが特徴だ。
最近のスバル車に共有するデザインのクリアランスランプ。

車両はプロトタイプのため、試乗はクローズドコース(伊豆サイクルスポーツセンター)で行われた。試乗車は、クロストレックのAWD/FWD(ともに18インチ装着車)と、比較車両となる現行型XV(AWD)の合計3台だ。

コーナリングでボディの質感向上を実感

サイクルスポーツセンターは路面が整っているため乗り心地はわからないな……と思っていたら、スタート直後にチェックのための連続する段差が設けられていた。ちょっと無理矢理感もあるテストだがこれを通過した限りでは、最低地上高200mmを確保するサスペンションが、バネ下の18インチタイヤを上手に抑えながら突き上げを吸収していた。

ボディ剛性やサスペンション取り付け剛性の高さを特別感じたわけではないが、固すぎず柔らかすぎず、スバルらしい乗り心地だ。

現行世代へのアップデートとしては、デュアルピニオン化された電動パワーステアリングの操舵感が上質だった。ステアリング自体の慣性も低減されおり、切り始めから操舵フィールが自然だ。

クロストレックのパワートレーンは、2.0L e-BOXERのみを採用。XVに用意された1.6L NAはドロップ。その代わり、ではないがクロストレックにはXVにはなかったFFが用意され、低価格を望むユーザーに対応する。

ボディの質感向上は、段差よりもカーブで感じられた。スバル・グローバル・プラットフォームをインナーフレーム補強した効果が効いているのだろう、全体的に重厚感が出ており、かつサスペンションが踏ん張りながらもしなやかに動く。ちなみにそのダンパー&サスペンションは、ボディ剛性が上がった分むしろソフトになっているという。

呼応する車体側の動きはとても穏やかだ。車高が高いぶんインプレッサほどノーズの切れ込み方がクイックではないが、時速80km/h程度までの荷重領域では、その高い重心をゆっくり制御しながら着実に曲がっていく。ちょっとアンダーステア気味なハンドリングはむしろ安心感につながっており、カーブではハンドルを切りこんで行っても接地感が途切れない。またアクセルを緩めていけば、素直にノーズがイン側へと入っていく。

新旧2台のスタイリングは、別々に見ると大きく変わらないように見えるが、新型クロストレックの方が、よりマッシブでメリハリの効いたスタイルになったように感じられる。

AWDの存在感はもっと強くてもいい?

インテリアのハイライトはやはり11.6インチ縦型ディスプレイだ。アウトバックとも同じだがより存在感がある。先に登場したレヴォーグ、アウトバックのものと比べて改良されたものが搭載される。

欲を言えば、このエッジが効いた見た目に合わせて、もう少しAWDの存在感が強ければと思う。現状は実に滑らかな走りなのだが、いささか優等生過ぎる感じもある。たとえばAWDの制御では、もっと明確に直進安定性をアピールしてもよいと思う。またコーナーの立ち上がりでも、トラクションの高さを実感させて欲しい。

Sモードに入れるとリアの蹴り出し感が高まって、「スバルのAWDはいいなぁ!」なんて思わせてくれたらステキだ。現状「S」の制御は“SPORT”の解釈だが、それよりも“SUBARU”を感じたい。

後席は乗り降りにちょうど良い高さ。ステップ部分はルーフレールへもアクセスしやすい工夫が施される。
腰部をしっかり支える構造が採られた新作のフロントシート。

もっともこの穏やな印象には、1620kgまで増えた車重も影響している。パワーユニットは駆動方式に限らず、2リッターのe-BOXERのみとなった。スペックは公表されていないが、XVからキャリーオーバーということは、自然吸気のエンジン出力(145PS/188Nm)や、モーターアシスト(10PS/65Nm)に大きな変化はないだろう。

このエンジンそのものは実直で、パドルシフトとの連携でCVTもメリハリを出そうと頑張っている。ただ今回のようなステージだと速度が落ちてからの急加速時に応答遅れを感じる場面もあり、増えた車重に対してもう少しだけ、トルクが欲しいと感じた。せっかく付いているモーターが、今回のモデルチェンジで存在感を出せなかったのは残念だ。

クロストレックの目玉機能のひとつが、従来のステレオカメラに追加された広角単眼カメラ。ステレオカメラが苦手とする近距離でより効果を発揮する。

身のこなしが明らかに軽快なFFモデル

パイロンセクションでスラロームした瞬間から、違いがわかる。コーナリングスピードの速さはもちろん、切り返しでの身のこなしもAWDモデルよりずっと素早い。ただ車体が軽い分だけ、足周りもソフトになっているのだろう。高速領域だとAWDに比べてロールスピードが速く、切れ込み方が鋭い印象もある。

また重量的にもトラクションとしてもリア荷重が少ない分だけ、安定感としてAWDを好むユーザーもいるだろう。ともあれ縦型配置の水平対向4気筒エンジンは重心が低く、FFらしからぬハンドリングの良さが光っていた。

当然この軽さは、エンジン出力面でも有利になる。アクセルレスポンスはさらに良くなるし、加速にも伸びやかさが感じられた。使用環境が降雪地域でなければ、2リッターe-BOXERを搭載したFWDモデルを選ぶのは良い選択かもしれない。

しかし一番驚いたのは、現行XVに乗ったその印象だった。車体の軽さとAWDのスタビリティが、実にほどよくマッチしているのだ。相対的な車体剛性の低さも、取り立ててネガティブに感じない。シングルピニオンの電動パワステがやや頼りないくらいで、これが良く曲がり良く走る。クロストレックに比べるとうっすら上質感に欠ける雰囲気だが、そのラフさも個性に感じられた。

現行XVの試乗では、車体の軽さとAWDのスタビリティとのマッチングの良さを再発見!

ただXVが良く思えたのは、試乗環境のせいだろう。もっと路面の悪い環境であったり、リアルワールドに足を踏み出せば、進化の違いが現れるはずだ。ちなみにクロストレックではルーフの接着剤に減衰効果を持たせて、振動の残響を防ぐ工夫を凝らしている。

またそのシートには腰骨(仙骨)を支えるブラケットを付け、ドライバーの目線を安定させてロングドライブ時の疲労を軽減したという。こうした違いを体感するには、今回の環境がクリーン過ぎたのだ。

スバルはこのクロストレックでプレミアムさよりも、長く使える“道具感”を大切にしたという。アイサイトXの搭載は上級装備になるため今後の動向次第のようだが、それ以外の先進安全装備はきちんと盛り込まれた。また縦型配置の11.6インチ センターインフォメーションディスプレイが付いたのも嬉しい。

インテリに華美な装飾はないが、デザインもよく何より質実剛健。CセグメントのコンパクトSUVもしくはクロスオーバーとしては、まさにベーシックと呼べるパッケージングになっている。それだけにリアルワールドを長距離移動して、その良さを感じ取りたいと感じた試乗だった。

オアシスブルーの上級グレード(グレード名称は未発表)。グリル内のアクセントバーなど、加飾が標準グレードは異なる。ホイールは、225/55R18サイズだ。
SUBARU クロストレック(プロトタイプ)

全長×全幅×全高 4480mm×1800mm×1580mm
ホイールベース 2670mm
最小回転半径 5.4m
車両重量 1540〜1620kg
駆動方式 四輪駆動または前輪駆動
サスペンション F:ストラット R:ダブルウイッシュボーン
タイヤ 225/55R18または225/60R17

エンジン 直列4気筒DOHC 直噴+モーター(e-BOXER)
総排気量 1984cc
トランスミッション CVT(リニアトロニック)

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…