「CX-60」は、シビックタイプRと同じくらい走りにトコトンこだわったSUVだ!【2022、今年のクルマこの1台】

内燃機関カウントダウンを意識してか、2022年はスポーツカー大豊作の一年だった。そんな2022年だが、山田弘樹はこの一年もっとも印象深かった一台としてスポーツカーではなく、マツダCX-60を挙げた。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)

2022年はとにかくスポーツカーの当たり年だった

今年は魅力的なクルマがたくさん登場した。

各社が内燃機関のカウントダウンを意識したのか、特にスポーツカーが盛況だった。

国内ではフェアレディZとシビックタイプRがモデルチェンジを果たし、インポートカーではついにゴルフRが上陸を果たした。

「2022-2023 パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー」にも輝いたホンダ・シビックタイプR。
シビックタイプRと「パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー」の座を争った日産フェアレディZ。

ポルシェは718ケイマンの最終兵器といえる「GT4 RS」の走りが強烈だった。マニアックなところではスズキの供給が再開されてバージョンアップした「ケータハム スーパーセヴン170」も最高に原始的で楽しい一台だったし、メルセデス AMG SL43も、見事なラグジュアリースポーツとして生まれ変わった。

ここ数年は、各社のスポーツカーラッシュだ。

そんな中で筆者が「今年の一台」に選びたいのは、マツダ CX-60だ。

今のマツダSUVの礎をつくったのは初代CX-5だが、CX-60の開発はCX-5以上とも言えるほど、何から何まで挑戦の連続だった。

スポーツカーの話するんじゃないのか? と思うかもしれないが、まずは聞いて欲しい。

ちなみにカー・オブ・ザ・イヤーで私は、シビックタイプRに10点を入れた。シビックe:HEVではなく、タイプRに10点だ。

その理由は、至ってシンプル。こんな時代だからこそ、これほど血眼になって走りの楽しさを追い求めたクルマを評価したい。沢山の人たちに、この完成度を味わってもらいたいと考えた。

でも心の奥底では、CX-60に大きな期待を寄せていた。

なぜならこのクルマは、単なるプレミアムSUVではない。シビックタイプRと同じくらい、トコトン走りにこだわったSUVだったからだ。

時代に逆行するかのように、直列6気筒3.3lディーゼルターボエンジンを新規開発し、縦置きに搭載。それでいて、驚異的な低燃費を叩き出した。

そのためにマツダは、初めての直列6気筒ディーゼルターボを縦置きに搭載した。後輪駆動ベースの4WDとすることでそのハンドリングを研ぎ澄まし、ドライビングプレジャーを表現しようとした。

さらにはそのトランスミッションに、トルクコンバーター式ではなく湿式多板クラッチ式の8速ATを選択した。それはもちろん、ダイレクトな変速フィールを得るためだ。CO2規制が限りなく厳しくなっている現代で動的質感を得るには、パワートレイン全体での磨き上げが必要。マツダは第二のエンジンとも言えるトランスミッションのキャラクターを、大胆に変更してきた。その制御はまだまだ荒削りだったが、挑戦の姿勢は評価できる。

クルマは、熟成を経ることで完成されていく工業製品

すべてが初めて尽くしのCX-60は、まさにチャレンジングな一台だったのだ。しかし筆者がその勇気を称えられなかったのは、走りの質感を問う上では一番肝心な、車体制御に疑問を感じたからだ。

CX-60では通常ホイールベースの間にくるピッチセンターを、サスペンションアームのジオメトリー制御によって、車体の後方に配置した。こうすることでブレーキングや加速において車体のピッチングが収まり、ドライバーは恐怖心なくその大きなボディを、快適に走らせることができると考えたからだ。

しかし実際の走りは、筆者にとっては、あまり心地良いものではなかった。そこにはスプリングレートや前後ダンパーの特性も関係してはいるだろうが、ともかくピッチングを抑えた走りはクルマの挙動がわかりにくく、特に常用域では、自然な運転フィールが得られなかった。せっかく踏力に応じて減速Gを発揮するブレーキが奢られていても、フロントタイヤに荷重が乗せにくいと感じた。

8速ATも新規開発。太いセンターコンソールは、デザイン的にも縦置きレイアウトとトランスミッションの存在感を際立たせる。

高速道路でのクルージングにおいては、路面のうねりや段差の乗り越えで、クルマと共に体が上下に揺さぶられ続けた。まっすぐ走っているだけなのに自分の運転で酔ってしまったクルマは、数えてもこれまでに3台しかない。

CX-60の乗り心地については「硬い」という評判をよく聞く。しかし筆者は単に足周りが硬いのではなく、その揺り戻しが原因だと感じている。

このピッチング問題が解決すれば、CX-60は今よりもっともっと、その魅力を発揮するだろう。

大人気CX-5からの上級移行モデルという意味でも、特に上級グレードの質感へのこだわりは相当なものだ。

個人的にはピッチセンターをオーソドックスなものに戻した方がいいと思うが、一方ではその考えを覆すマイナーチェンジで、筆者を驚かせて欲しいという気持ちもある。

クルマはその登場時だけ話題になりがちだが、熟成を経ることで完成されて行く工業製品だ。近い例で言えばフォルクスワーゲン ポロはそのマイナーチェンジで、見事に動的質感を取り戻した。そしてマツダといえば、その執拗なまでの改良がお約束だ。

というわけで筆者は今年最も印象深かった一台に、全てをひっくるめてマツダCX-60を選びたい。

かつてマツダは自らをZoom-Zoomと表現したが、そんな楽しい走りを、近い将来必ず形にしてくれるはず。筆者も、熱く応援している。

フロントが長く、キャビンが後退したようなプロポーションはCX-5とは明確に異なり、FRレイアウトであることを感じさせるもの。
MAZDA CX-60 XD-HYBRID Premium Sports


全長×全幅×全高 4740mm×1890mm×1685mm
ホイールベース 2870mm
最小回転半径 5.4m
車両重量 1940kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:ダブルウィッシュボーン R:マルチリンク
タイヤ 235/50R20

エンジン 水冷直列6気筒DOHC24バルブ直噴ターボ
総排気量 3283cc
最高出力 187kW(254ps)/3750rpm
最大トルク 550Nm(56.1kgm)/1500-2400rpm

モーター 永久磁石式同期電動機
最高出力 12kW(16.3ps)/900rpm
最大トルク 153Nm(15.6kgm)/200rpm

燃費消費率(WLTC) 21.0km/l

価格 5,472,500円

キーワードで検索する

著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…