ロンドンと言ったら誰でも知ってる真っ赤なアイツも『トミカ』にいますよ!

「ロンドンバス」は車名にあらず! 真っ赤なアイツのその名は… トミカ × リアルカー オールカタログ / No.95 ロンドンバス

発売から50年以上、半世紀を超えて支持される国産ダイキャストミニカーのスタンダードである『トミカ』と、自動車メディアとして戦前からの長い歴史を持つ『モーターファン』とのコラボレーションでお届けするトミカと実車の連載オールカタログ。あの『トミカ』の実車はどんなクルマ?
No.95 ロンドンバス (サスペンション可動・希望小売価格550円・税込)

『トミカ』の2023年1月現在のNo.95の商品名は『ロンドンバス』です。「ロンドンバス」と言うとこの『トミカ』と同じ赤い2階建てのバスを思い出す方も少なくないでしょう。しかし、ご存じの方も少なくないとは思いますが、「ロンドンバス」とは実際は車の名前や車種ではありません。

デイムラー フリートライン 実車左サイドビュー。日本と同じ左側通行国なので、左側にドアがある。この車両は現在、ロンドン交通博物館に保管展示されているもの。(PHOTO:ロンドン交通博物館)
デイムラー フリートライン 実車右サイドビュー。(PHOTO:ロンドン交通博物館)

「ロンドンバス」とはイギリスの首都ロンドンの公共交通事業を所管する地方行政機関であるロンドン交通局の付属機関、ロンドンバス会社が、ロンドン中心部の大ロンドン市(グレーターロンドン)市内で運営する路線バスサ-ビスのことを指します。つまり、乱暴に言えば日本での各地方自治体が運営している「〇〇市営バス」(あるいは都営バス)と呼ぶのと同じです。

ロンドンバスは実際の運行はロンドンバス会社が行なっているわけではなく、数年に一回の入札制度で運行する権利を得た、複数の民間運行会社――オペレーター――によって各路線ごとに運行されています。市内に走る600を超える路線とバス停数は、バスの輸送管理機関では世界最大の規模を誇っています。また、現在では8000台を超えるバスがロンドン市内を走行し、ロンドン市民はもとより世界中から来る観光客にも親しまれています。

さて、ロンドンは産業革命以後、1925年ごろまで世界最大の人口を誇る大都市でした。1800年代中盤から人々は都市の移動手段に馬車を使っていましたが、この乗り合い馬車――オムニバス(ラテン語が語源)――がロンドンバスやロンドン地下鉄へと発展して行きます。この乗り合い馬車が庶民の足となる一方で、世界最大の人口を誇っていたロンドンでは、あまりに馬車を利用する人が増えたために慢性的な輸送力不足や渋滞が問題となっていきました。そこで馬車に席がない人々は、その屋根の上にのぼって強引に乗り込み始めたため、次第に二階建てにして席を増設した馬車が運行されるようになっていきます。つまりロンドンバスの世界的な代名詞である二階建てのバス――ダブルデッカー――の始まりは、馬車の輸送力不足を補うために作られた二階建て乗り合い馬車なのです。もちろん現在でも、ロンドンバスでは二階建てのバスだけでなく、普通のバスも多く使われています。

デイムラー フリートラインはロンドン交通局だけでなく、画像のナショナル・エクスプレス・ウェスト・ミッドランズのような他都市のバス会社でも使用された。(PHOTO:ナショナル・エクスプレス・ウェスト・ミッドランズ)

ロンドンバスの直接的な元祖は1850年(日本では江戸時代!)に誕生したロンドン・ゼネラル・オムニバス・カンパニー(ロンドン総合乗り合い馬車会社=LGOC社)ですが、この会社が1902年からモーター付き動力車を導入し、1904年に初めて自動車によるバス運行を開始しました。この会社はバスの運行だけでなく、バス車両の生産や設計、部品供給などを行なう総合バス車両メーカーでもあり、この会社で作られて運行されたバスの車体は赤い色に塗られていました。ロンドンを走るバスのほとんどが、バス車両のトップメーカーだったこの会社の赤いバスだったと言います。ちなみLGOC社のバス車両製造部門は1912年に独立してアソシエーテッド・エクィップ・カンパニー(関連機器会社=AEC社)というバスやトラックなどの商用車メーカーになります(1979年事業終了)。1920年代初頭に運賃の価格競争、バス会社同士の競争が始まると、1924年に中央政府の主導するロンドン市内バス事業の統合が行なわれますが、この時にバス事業者兼メーカーにより異なっていたバスの塗装色が、市内バスで最も多かったLGOC社の赤色に統一されることになったのです。ちなみにバスに塗られている赤色は公式に色番が決まっており、「パントン(Pantone)485C」と呼ばれる色になります。

デイムラー フリートラインにはいくつかのエンジンが搭載されたが、画像のガードナー 6LXB型 直列6気筒ディーゼルエンジンはイギリスを代表するディーゼルエンジンと言われた名エンジンで、搭載数も多い。(PHOTO:ロンドン交通博物館)

さて、『トミカ』の『No.95 ロンドンバス』は、『トミカ』の中でも長寿を誇る1台になります。とは言え、『ロンドンバス』という商品名が同じだけで、実車さながらにリニューアルやマイナーチェンジが繰り返されています。現在の『No.95 ロンドンバス』は、当然ながらロンドンバスの代表でもある赤い塗装の二階建てのバスをモデル化しています。ちなみに『トミカ』を見てもわかるように、このバスは車体左側に出入口がありますが、これはイギリスが日本と同様に左側通行の国だからです。

『トミカ』で再現されているのは、1970年代に入り運行経費削減のため人員削減――車掌の廃止――と定員数の増加を目的にロンドンバスに導入されたワンマンバス仕様で、具体的には1960年から1983年まで製造されていた『BMC デイムラー(レイランド) フリートライン』、またはロンドン交通局の命名法に従って単に『DMS(デイムラー・モノ・スタンディーあるいはデイムラー・マルチ・スタンディー)』と呼ばれる車両のようです。1970年12月に「ロンドンバス」として導入される際、当時建設中だったロンドン地下鉄の『フリートライン』との混同を避けるため、ロンドン交通局はこの車両を「ロンドナー・バス(ロンドンっ子バス)」という愛称で呼ぶように宣伝していましたが、結局、その名前で呼ぶ人はほとんどいなかったそうです。

デイムラー フリートラインの特徴の一つ、AFC(自動正規料金徴収) 改札口システム。これはコイン式で、正しい料金が支払われた時のみ回転式バーを通って乗車できる装置。ドライバーへ料金を支払う方式も選べるので、乗車時の料金収受効率が上がった。(PHOTO:ロンドン交通博物館)

この『デイムラー フリートライン』はワンマンカーとして設計され、最初に大量生産された二階建てバスでした。2つのドアと一階と二階とを結ぶ階段が車体中央にあるのが特徴で、これはバスの乗り降りをスムーズにするための設計でした。それまで使用されていた、同乗した車掌が改札を行なう方式の『AECルートマスター』という車両では、車両後部に改札業務を行なう車掌が立つデッキが設けられ、その奥に一階と二階を結ぶ階段が配置されていましたが、ワンマンカー化した場合の人の流れを考えると合理的ではないためにこのような変更が行なわれたそうです。この配置を実現するためもあり、『AECルートマスター』で採用されていた、前方にエンジンを置いて後輪を駆動させるFR方式から、『デイムラー フリートライン』では後方にエンジンを置いて後輪を駆動させるRR方式に変更されています。

香港でもBMCによる改良型などが用いられていた。画像は香港で使用されていた車両をオーストラリアのシドニー・バス博物館が購入した車両。(PHOTO:シドニー・バス博物館)

当初、『デイムラー フリートライン』はドライバーに料金を支払う方式でしたが、これが料金の支払いに時間がかかるとして不評で、このためAFC(自動正規料金徴収) 改札口システムが導入されました。これはコイン式で、正しい料金が支払われた時のみ回転式バーを通って乗車できる装置です。これもまた『デイムラー フリートライン』の特徴となりました。結局、このバスは1971年から1982年まで、合計2646台がロンドン交通局に購入されています。また、ロンドン交通局だけでなく、バーミンガム市やマンチェスター市などでも採用されていました。変わったところでは1842年の南京条約によりイギリスに割譲された香港(1997年に中華人民共和国に返還)でもかなりの数が使用されています。日本もイギリスと同じ左側通行の国であることから、かつて何台か「ロンドンバス」が導入されたことがありますが、いずれも『AECルートマスター』で、残念ながら『デイムラー フリートライン』ではありませんでした。なお、『デイムラー フリートライン』は良くも悪くもロンドンの人々の記憶に残る車両だったため、現在、1台がロンドン交通博物館に保管展示されています。

現在の「ロンドンバス」はイギリスの政策もあり、画像のボルボトラックスの車両のような電動バスへの置き換えが進んでいる。(PHOTO:ボルボトラックス)

いわゆる「ロンドンバス」は現在もこれからも二階建てのバスを走らせるでしょうが、イギリスの政策などもあり、現在はボルボトラックスやBYDなどのメーカーの電動バスへの置き換えが進んでおり、将来的には100%、電動バスに置き換えられる予定です。ディーゼルエンジンの二階建てのバスが走っていたという記念に、『トミカ』の『No.95 ロンドンバス』をコレクションに加えてみてはいかがでしょうか?

■BMC デイムラー フリートライン DMS G6LXB-30主要諸元 (『トミカ』モデル車種と同一規格ではありません)

全長×全幅×全高(mm):9300×2500×4220

ホイールベース(mm):4953

車両重量(kg):16260

エンジン形式:ガードナー 6LXB型 直列6気筒ディーゼル

排気量(cc):10450

最高出力:93.2kW(126.7ps)/1800rpm

最大トルク:727Nm(74.1kgm)/1000-1100rpm

トランスミッション:レイランドSCG340型4速セミオートマチック

サスペンション(前後):リーフリジッド

ブレーキ(前後) :エアブレーキ(ドラム式)

タイヤ:(前後): 11R22.5

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