私の挙げる今年の1台は、「レクサスIS500 Fスポーツパフォーマンス」だ。
今さらなぜISという声もあるかもしれない。第2世代となるISは、2020年にビッグマイナーチェンジを受けたとはいえ、そのデビューは2013年と、今やレクサス一番の古株である。それでもプッシュする理由は、ただ一つ。
この時代に、自然吸気の5.0L V8を導入したことだ。
世界の名立たる自動車メーカーは、電動化シフトにまっしぐら。クルマ好きに愛されるジャーマンブランドさえ、エンジン車の未来に否定的だ。名立たる高級車には、まだ大排気量マルチシリンダーエンジンが残されているが、過給機付きが基本。しかも日本で入手できる非電動の大排気量NAは、ランボルギーニのウラカンやアヴェンタドール、フェラーリ812、アウディR8、シボレーコルベットといったスーパースポーツが中心。セダンに至っては、皆無と言っても良い。
もちろん、燃費や性能面の両面で今や過給機付きの方が圧倒的に優秀だ。それでも大排気量NAに拘る理由は、単なる性能ではなく、ピュアな内燃機関ならでは世界観にある。
アクセルと直結したようなエンジン回転数の上昇と高鳴るサウンドは、古来より多くのクルマ好きを魅了してきた。それを現代で求めるのは、オールドファッションといえるが、趣味ならば、そういうものへの探求や憧れも含まれる。
ISに搭載された2UR-GSE型エンジンは、レクサスの選ばれしクルマのみに搭載されてきた。
トヨタはロータスにエンジン供給を行っていることは皆さんもご存じだろう。かつて同エンジンの供給も望まれたとされるが、トヨタが首を縦に振らなかったと言われる。それだけトヨタにとっても、特別な存在といっても良い。
私自身、このエンジンを初体験したIS Fとのドライブは、鮮烈なエンジンの記憶がある。ただ最新仕様となる「IS500 Fスポーツ ハイパフォーマンス」は、他の搭載モデルのように、「F」を名乗らない。その理由は、スポーツ性能に全振りするのではなく、5.0L V8の余裕を日常で感じて欲しいとの狙いから。だから、IS500の振舞いは、ジェントルで乗り心地にも優れる。ただアクセルを踏み込めば、一気にレブ近くまで吹け上がり、強烈な加速に襲われる。まさに背徳感に溢れる瞬間だ。
もちろん、単にV8を収めるだけでなく、フロントベビーを感じさせない前後バランスのチューニングを実施。さらにチーフエンジニアの拘りとして、映えるエンジンルームに仕上げたという。
なんともマニアックなコンパクトスポーツセダンである。
今やISは、レクサスにとって売れ線ではない。しかし、コンパクトなFRの良さが味わえる貴重な存在として捉え、大切にしている。
かつての多くのスポーツセダンで味わえた世界観を今に伝えるのが、「IS500 Fスポーツパフォーマンス」の存在価値なのだ。
まさにクルマ好きよる、クルマ好きのためのクルマ。その魅力を日本でも楽しめるように取り計らってくれたことを評価したい。
車名 | グレード | エンジン | トランスミッション | 駆動 | 税込価格 |
IS500 | “F SPORT Performance” | 2UR-GSE 5.0L V型8気筒 | 8-Speed SPDS | FR | 850万円 |
IS500 | “F SPORT Performance First Edition” | 2UR-GSE 5.0L V型8気筒 | 8-Speed SPDS | FR | 900万円 |