MAZDA3 FASTBACK X PROACTIVE Touring Selection、AWD、6MT、ポリメタルグレーメタリックの新車1ヵ月無料点検で確認した2点目は、加速中に2000rpm前後でエンジンが一瞬死んだような症状が出ることである。発進加速のたびごとに出るわけではなく、思い出したようにたまに出る。ワントリップでほぼ1回は経験する頻度だ。1速で発進して2速にシフトアップし、そのまま加速を続けていると、突然失速し、すぐに復帰する。強めの加速でソレが起きるときは、瞬間的に加速が途切れるので、体が前につんのめるようになる。「え、何いまの」という感じだ。「失火した?」とも思った。
という現象がたまに起きるんですという話を、関東マツダ・高田馬場店のサービスアドバイザー氏に伝えたところ、「調べてみます」との返答をいただいた。新車1ヵ月無料点検の点検内容をひととおり聞きた後で本題である。「お問い合わせの件、本部にも確認しましたが、その手のトラブルの報告は受けていません」との報告を受けた。
では、何なのだろう。思い過ごし? いやいや……。筆者のMAZDA3にはソフトウェア的にもハードウェア的にも問題ないし、異常があった形跡はデータにも残っていないという。「考えられるのは」と前置きしたうえでサービスアドバイザー氏の口から出て来た用語は、「電磁クラッチ」だった。その用語を聞いて、「そういうことだったか」と合点がいった。
世界初の革新的な燃焼技術であるSPCCI(火花点火制御圧縮着火)を適用したSKYACTIV-Xは、SPCCI燃焼が要求する吸気ガス(新気あるいは新気+EGR)を高効率で供給するためにエアサプライシステムを採用している。エンジンの熱効率を高めるためにリーン(理論空燃比よりも空気あるいは空気+EGR=排ガス再還流分の比率が高い状態)で燃焼させるのがSPCCIの特徴だ。大量の新気あるいは新気+EGRを燃焼室に供給するのが、エアサプライシステムの役割だ。実体はルーツ式スーパーチャージャーだが、過給するのが主目的ではなく、リーン燃焼するための新気/新気+EGRを供給するのが目的なので、マツダは「エアサプライシステム」、あるいは「高応答エアサプライ」と呼んでいる。
エアサプライ(Air Supply)と聞くと筆者などは1980年代を中心に数々の全米ヒット曲を送り出したオーストラリアのバンドと特徴的なハイトーンボイスを思い出すが(そうだ、今度エアサプライを聴きながらエアサプライを作動させよう)、SKYACTIV-Xのエアサプライは前述したように、まったくの別物である。
で、そのエアサプライ(実質的にスーパーチャージャー)、NA(自然吸気)領域での引きずり抵抗を回避するため電磁クラッチを採用した。自然に取り入れる以上の空気が必要な際はエアサプライの助けが必要だが、自然に取り込める空気で事足りる状況では、エアサプライを連れ回していることが無駄、すなわち貴重なエネルギーの損失になる。損失が増えれば燃費が悪くなる。そこで、SKYACTIV-Xではエアサプライが必要な領域だけクラッチをつないで駆動させる仕組みを採用した。そのクラッチをつないだ瞬間に失速をともなうショックが生じていたのである。
しかし、脈絡もなくガツンとショックが出るのは困る。今回は出るのかなぁ、出ちゃうかなぁ、出なくてよかった、みたいにビクビクしながら運転したくはない。サービスアドバイザー氏の説明によると、電磁クラッチには学習制御が組み込まれているので、走行を重ねるうちにショックは消えると思うとのことだった。
なるほどと合点してMAZDA3との付き合いを進めていくと、走行距離が2000kmを超えたあたりからドキッとするような大きなショックは出なくなった。どうやら、新車時に特有の症状だったようだ。新車時にしか味わえなかった現象を体験できてラッキーだったと、筆者などは思う口である。
大きなショックは出なくなったが、エンジンに付属するエアサプライが電磁クラッチをつないだり切ったりする制御を行なっていることに変わりはない。電磁クラッチがつながった際の小さなショックは走行2000kmを過ぎてもときどき顔を出して、「あ、いまつながった。これからエアサプライするのね」と乗り手に悟らせる。自分で運転してアクセルペダル操作をしているときに限らず、後席に身を委ねているときでも「いまつながった」とわかるときがある。その程度のG(加速度)の変動はあるということだ。
同乗している他の乗員は気づいていないようなので、目くじらを立てるほどではないのかもしれないが、ショックはなければないに越したことはない。この件、しばらく観察を続けていくことにしよう。