まず外観は、ゴールドのストライプやロゴのデカールがなければ、そのまま見過ごしてしまいそうなほど、いたってノーマル然としている。
一方でインテリアは、3列6人乗り仕様の「プレミアム」から3列目を取り外し、1列目と2列目の間をパーティションで仕切ったうえで、そのパーティションには32インチ、3列目があったキャビン後部には21インチのモニターを設置。
さらに、据え付け式キャビネットや折り畳み式のテーブルとチェア、WEB会議カメラ、マイクスピーカー、Wi-Fiルーターなども完備して、車内で快適に執務ができる環境を整えている。
だが、これらはあくまで、車名の通り「移動式オフィスカー」としての架装内容にすぎない。コンバージョンFCVらしい雰囲気は皆無といっていいが、1列目を見てみると、センターコンソールボックスがやけに大きく、また簡素な仕上げになっていた。
開発を担当した、トヨタ自動車CVカンパニー水素製品開発部の山下顕さんによれば、「この一列目センターコンソールボックス内に、リチウムイオン式の駆動用バッテリーを搭載している」のだという。
では他のユニットはどうか。燃料電池ユニットは、ベース車では1GD-FTV型2.8L直4ディーゼルターボエンジンと6速ATが搭載されるエンジンルーム内にキレイに収められている。182psと300Nmを発するモーターはリヤアクスルに搭載、2代目ミライやグランエースと同じく後輪駆動だ。
そして高圧水素タンクは、「ホイールベース間に2本搭載している」(山下さん)。なお床下には、水素タンクなどを保護するためのアンダーカバーが装着されているものの、「ベース車自体のフロア高が高いため、水素タンク搭載にあたってフロアパネルを改造する必要はなかった」(同)そうだ。
オートサロンテック2023の会場では、この「移動式オフィスカー」を、常時始動した状態で展示。現行2代目ミライと同様に、吸入した空気をキレイにして排出する「マイナスエミッション」を実現しているため、屋内でも静かに、有害物質を排出することなく使用できることを示していた。なお、少量の水は排出されるため、カーペットが敷かれたオートサロンテック2023の会場内では、水受け用のトレイが置かれていた。
今回展示された車両は、2022年5月20日から8月19日までの3ヵ月間、兵庫県に公用車として貸与され、実証実験に用いられた車両。これよりも先に、パールホワイトのボディカラーで架装内容も異なる一号車が作られており、同年1月には箱根駅伝の伴走車、3月4~11日には愛知県豊田市での実証実験に使用されている。
また、同じH300系であり、グランエースのベース車かつ商用バージョンである、海外向け6代目ハイエースをFCV化した車両での実証実験も行われており、日本ではイオン浪江店が移動販売車として使用。海外でも「オーストラリアではキッチンカーに架装した車両で実証実験が行われている」(山下さん)という。
現時点ではこうしたコンバージョンFCVの事業化あるいはグランエース/ハイエースFCVの新車販売を行う計画はないそうだが、「他の自治体からも問い合わせは多い」(同)というから、近い将来のビジネス展開に期待したい。