2021年9月4日、英空母「クイーン・エリザベス」が初来航し、横須賀の米海軍基地へ入港したのはご存知のとおり。同空母は欧州からインド洋、南シナ海、東シナ海と「不安定の弧」と呼ばれたユーラシア大陸辺縁海域・地域を西から辿り、日本へ到達した。
長い航海の目的はインド太平洋地域の平和と安定のために英国の関与意志を示すものだと言われている。相手は中国だ。日本来航の前に、同空母打撃群は各国軍との共同訓練を重ねており、新たな防衛協力体制を見せることは覇権主義的海洋進出を続ける中国を牽制する狙いがあるとみられている。
9月6日には岸信夫防衛大臣が横須賀に接岸中の同空母を視察し、今回の派遣行動には英国の強い意志を感じるとのコメントを発信している。横須賀入港期間中にはこうした政治的・軍事的な活動に専念、乗組員は新型コロナ感染症拡大防止対策のため上陸はせず、次の予定へ向けそのまま出港するとされた。これは同じく横須賀へ入港していた英補給艦「タイドスプリング」やオランダ海軍フリゲート艦「エファーツェン」も同様。前述のように来航前にも日本近海で多国間共同訓練を行なっていたが、来航後には日英米蘭加共同訓練「PACIFIC CROWN 21」が予定されていた。
そして「クイーン・エリザベス」は予定を一日早めた9月8日に横須賀港の米海軍基地を離れ、14時には浦賀水道の航路入口へ差し掛かる。観音崎から遠望していると、同空母の異形さが際立った。暗色に見えた塗装も日光を受けると独特の白灰色が浮かび上がる。英国近海の海と空に溶け込む迷彩色なのだろう。スキージャンプ方式の艦首を持つ飛行甲板にはSTOVL(短距離離陸垂直着陸)能力を持つステルス戦闘機F-35Bを複数駐機させている。艦載機を載せずに出入港することの多い米海軍空母の出港とはまた違う様相で興味深い。
横須賀港外で沖止めしていた海上自衛隊護衛艦「いせ」が「クイーン・エリザベス」を待ち受け、航路上で接近し、2隻は並進し始める。上空には哨戒ヘリが滞空しており、おそらく2隻並んだ姿を撮影していると思われた。多国間共同訓練でよく行なわれる「フォトセッション」と呼ばれるものだろう、共同訓練の広報写真を撮影しているはずだ。これを中国も見ることになる。
しかし平日の午後2時である。航路の混み合う時間帯だ。そして「クイーン・エリザベス」の満載排水量は約6万7700t、「いせ」は約1万9000t。2隻の巨大船の周囲を多数・多種多様な船舶が行き交う光景は凄まじさを感じた。航路の安全航行を担当する海上保安庁と東京湾海上交通センターの確かな仕事ぶりを連想した。と同時に、巨大船の通航にも怯まず航行する民航船や遊漁船なども頼もしい。ちなみに通航量で見ると東京湾中央航路は、東京港や横浜港等へ出入港する船舶が1⽇あたり約500隻航⾏する世界有数の海上交通過密海域だという。
その後「クイーン・エリザベス」は航路を南下し東京湾を出て、関東地方東方の沖合で行なわれた共同訓練に参加したという。
●英空母「クイーン・エリザベス」スペック 基準排水量:約4万5000t 満載排水量:約6万7700t 全長:284m 最大幅:73m 乗員:約670名、航空要員約600名、司令部要員約90名 主機:統合電気推進(ガスタービン発電機×2、ディーゼル発電機×4) 最高速力:約26kt(約48km/h) 武装:CIWS×3、単装機銃×4、多銃身機銃など 搭載機:F-35×約40、EH-101(AW-101)ヘリ×6など
◎日英米蘭加共同訓練「PACIFIC CROWN 21」参加部隊 ●英空母打撃群:英空母「クイーン・エリザベス」、英駆逐艦「ディフェンダー」、英補給艦「タイドスプリング」、英補給艦「フォートビクトリア」、 蘭フリゲート艦「エファーツェン」、 加フリゲート艦「ウィニペグ」、英F-35B、米F-35B ●海上自衛隊:護衛艦「いせ」、「いずも」、搭載航空機(SH-60J/K)、MCH-101 ●航空自衛隊:F-35A、E-767 ●訓練項目:戦術運動、通信訓練、発着艦訓練など