ホンダ・フィットRS | 200万円以下! ガソリンエンジン車のRS、ベストFITじゃなかろうか

ホンダ・フィットRS(ガソリンエンジンモデル)
ホンダ・フィットRSは2022年10月に行なわれたフィットのマイナーチェンジに合わせて導入された。RS(レーシングスポーツではなく、ロードセーリングの略である)の名称が示すように、「走りの質にこだわった」バリエーションだ。今回は、e:HEVではないRS(つまりガソリンエンジン車)を試した。これが、良いのだ。ベストFITかもしれない。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

走りの質にこだわったRS

青山一丁目にあるホンダ本社地下駐車場でフィットRSと対面。

RSにはハイブリッドシステムのe:HEV搭載車と、ガソリンエンジン搭載車の設定がある。RSだけでなくBASIC、HOME、LUXE、CROSSTARに共通するが、ガソリンエンジン車は従来の1.3L直列4気筒自然吸気から、1.5L直列4気筒自然吸気に変更されている。これにより、最高出力は15kW(20ps)、最大トルクは24Nm向上し、87kW(118ps)/6600rpmの最高出力と142Nm/4300rpmの最大トルクを発生するようになった。

RSは専用のフロントグリル、フロントバンパー、サイドシルガーニッシュ、リヤバンパー、リヤスポイラー、アルミホイールを採用し、スポーティさを強調。実物に対峙すると、噛みつかんばかりに口を開いたように見える専用バンパーの効果が大きく、LUXEなど他のグレードとの印象の違いは大きい。明らかに精悍で、いかにも「走りそう」に見える。

全長×全幅×全高:4080mm×1695mm×1540mm ホイールベース:2530mm 車重:1110kg
RSはレーシングスポーツではなく、ロードセーリングの略である、としても赤いRSの文字は気分が上がる。
e:HEV RSと重量差は110kg、燃費は、e:HEV RSがWLTCモード燃費27.2km/L 価格は234万6300円(価格差は38万7200円)

185/55R16のタイヤサイズはLUXEと同じ(e:HEV RSは専用タイヤを装着するが、ガソリンエンジンのRSはLUXEと同じ銘柄)だが、前述のようにアルミホイールのデザインは専用で、スポーティだ。サスペンションもRS専用とのことだが、ダンパーとコイルスプリングの諸元が他のタイプと異なるということだろう。カタログには、「操舵量に応じた応答性の向上と安定したロール姿勢」、「荒れた路面の複合的な車体の揺れの収まりの良さ」を実現するためにチューニングしたとの説明がある。

e:HEVは全タイプを通じてモーターの最高出力が10kW(14ps)アップした90kW(123ps)となっており、e:HEV RSに関しては、NORMAL/SPORT/ECONの3つに切り換えられるドライブモードスイッチが専用に装備される。また、ステアリングホイールの裏に減速セレクター(パドル)が設けられ、アクセルオフ時の減速力を4段階で調節することが可能だ。

エンジン形式:直列4気筒DOHC エンジン型式:L15Z 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm 圧縮比:10.6 最高出力:118ps(87kW)/6600rpm 最大トルク:142Nm/4300rpm 過給機:× 燃料供給:PFI 使用燃料:レギュラー 燃料タンク容量:40ℓ トランスミッション:CVT

試乗したのはガソリンエンジン車だったので、ドライブモードスイッチも減速セレクターも付いていなかった。それで面白味がなかったかというとそんなことはなく、当たりくじを引き当てたような感動があった。e:HEV RSには乗っていないので断定はできないが、ガソリンエンジン車のRS、ベストFITじゃなかろうかという気がしている。

ドアを開けて運転席に乗り込む際、RS専用の3本スポーク本革巻きステアリングが目に入る。RS以外は2本スポークなので3本というだけでスペシャル感を感じるが、リムに施されたイエローのステッチがいい。このステッチが目に入るおかげで、シートに腰を下ろす瞬間に気分が上がっている。

3本スポークはRSの証し。乗車定員:5名

バイザーレスメーターの右側にあるエンジンスタート/ストップボタンを押してエンジンを始動。片側3車線の幹線道路を周囲の流れに合わせて走っているうち、疑念が湧いてきた。「これ、ガソリンエンジン車だったよね?」と。無意識にステアリングホイール上にあるセレクターホイールを操作してメーターにエネルギーフローを表示させようとした(のはご愛敬)。

表示されるわけがない。メーターをよく見たらエンジン回転計がある。間違いなくガソリンエンジン車だ。e:HEVと誤解したのは、走行音があまりにも静かだったからだ(と自己分析)。まるでEVのようにスムーズに発進し、リニアに、そして静かに加速していく。エンジン回転が一気に上がって後から車速が追い掛けていく、かつてのCVT(無段変速機)にありがちな、心地いい気分を邪魔するようなノイズとフィーリングが顔を出すことはない。

制限速度が40km/hに定められた片側1車線の道路を周囲の流れに合わせて走行するシーンでは、加速の際にエンジン回転が1500rpm程度まで上がると、あとは1200rpm程度にエンジン回転を保ったまま巡航する。どうりで静かなわけだ。ストレスなく、気分良く、静かに走るのは、エンジンの排気量が1.3Lから1.5Lになり、低回転域で充分なトルクを発生するのが大きいだろう。

高速走行も静かで快適

オートマチックブレーキホールドの振る舞いが素晴らしい。

100km/h走行時のエンジン回転数は1700rpm近辺。エンジン回転が低いおかげで、高速巡航時の室内は静かだ。高速道路と一般道のミックスで151.6kmを走行し、燃費は13.0km/Lだった。

路面をなめるようにヒタヒタ走るのも感心したポイントだ。スポーティな味つけの専用サスペンションを採用したからといって、ヒョコヒョコ跳ねるような乗り味にはなっていない。まるでクッション性の高いランニングシューズを履いている感覚だ。衝撃は効果的に吸収するいっぽうで、高いグリップ力を発揮するといった具合。

ステアリングは軽すぎず、重すぎず、ちょうどいい手応えと感触をドライバーに提供する。パワートレーンはアクセルペダルを踏み込む右足の動きに対して反応良く、しかも急に出過ぎず、かといって不足せず、忠実に力を発生させて思いどおりの加速を実現してくれる。それにサスペンションは、路面に吸い付いているかのような、快適な走りを提供してくれる(デキのいいシャシーの効果も大きい)。これらが三位一体となり、気持ちいい走りを実現している。

筆者は信号待ちなどでブレーキペダルから足を離しておけるオートマチックブレーキホールドの機能を使う派なのだが、フィットは発進時のブレーキ解除の振る舞いがとても良く(引っかかりが一切ない)、走りを邪魔しない。エンジンを停止して再度始動させた場合は機能が自動的にオフになってしまうので、エンジン始動ごとに「BRAKE HOLD」のボタンを押す必要がある。

フィットRS(ガソリンエンジン車)は、クルマの運転ってこんなに気持ち良かったんだと実感させてくれる1台。200万円を切る車両本体価格も魅力である。

タイヤはYOKOHAMAのBluEarth-A、サイズは195/55R16。指定空気圧はF220kgf/R210kgf(それぞれ216kPa/206kPa)
フロントサスペンションはマクファーソンストラット式。ブレーキはベンチレーテッドディスク
リヤサスペンションはトーションビームアクスル式。4WDはド・ディオン式。リヤブレーキはディスク
最小回転半径:5.2m トレッド:F1485mm/R1475mm 最低地上高:135mm
ホンダ・フィット RS(ガソリン)
全長×全幅×全高:4080mm×1695mm×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1110kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:L15Z
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm
圧縮比:10.6
最高出力:118ps(87kW)/6600rpm
最大トルク:142Nm/4300rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:40ℓ
トランスミッション:CVT

WLTCモード燃費:17.9km/ℓ
 市街地モード12.8km/ℓ
 郊外モード19.0km/ℓ
 高速道路モード20.6km/ℓ
車両価格:195万9610円 メーカーオプションHonda Connectディスプレイ+ETC2.0車載器19万8000円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…