脱・温暖化その手法 第52回 ―ほとんどのエネルギーの源は太陽からー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

再生エネルギーの源はすべて太陽

本連載の最終目標に近づいた。

前回までは電気自動車と自動運転で車に関わるCO2発生量を大幅に減らせることを述べた。しかし、CO2発生の8割は車以外で出ている。このことをもう一度振り返ると、発電で約40%、製鉄で10%、セメント製造で5%、その他のほとんどは昔ながらの火を燃やして熱を得るために使っている。

これらのエネルギーをCO2の発生なしで得る方法は再生可能エネルギーか原子力になる。

再生可能エネルギーで古くから使われてきたのは水力発電である。これも含めて再生エネルギーはすべて太陽の光がその源である。水力発電は地上や海上で太陽の光により水が蒸発し、上空で雲となり、雨に変わって主に山に降り注いだ水が川となって流れる力を利用するということは言うまでもない。その他、代表的な再生可能エネルギーとして進められてきたのは風力発電である。これは太陽の光で暖められた地表面で温度差が出ることから大気の流れが起こり、風が吹くことになるが、その力を利用するというのも当たり前のことである。

バイオマスは植物の葉に太陽の光が当り、大気中のCO2と水分が化合することによってデンプンができ、これが植物全体に貯えられるわけだが、これを燃やして、あるいはこれからアルコールを作り出し、エネルギーを得るものであることの説明も要らない。

そして太陽光発電がある。これは太陽光から直接電力を得る技術である。この原理は第25回で既に述べている。

もうひとつは原子力であるが、その原理も第21回で述べた。

ここで重要になるのは、これらのエネルギーがどれだけCO2をまったく出さない社会を作るために有効であるかということである。

太陽エネルギーをいかに効率的に利用できるか

太陽から地球にやってきているエネルギーを計算すると100京(けい)kWhということになる。これは面積当たりの太陽光エネルギーである太陽定数に、上空で失われてしまうエネルギーを差し引いたものになるが、1m2当り約1kWである。この値に地球の断面積と24時間、365日を掛けることで得られる。

このエネルギーの何パーセントが再生可能エネルギーとして有効に利用できるかが、ここで重要なことである。

太陽電池では10~20%の効率で電気を起こすことができる。

バイオマスは0.1~0.2%のエネルギーに相当する分だけ成長する。バイオマスの場合は、人間に有効なエネルギーとするには炉で燃やして熱を得てこれでタービンを回すバイオマス発電がある。高温で燃料を燃やす石炭の火力は約40%の効率で、バイオマスの場合はそれほど高温にはできないがために効率は最大でも20%止まりと推定できる。すると面積当りのバイオマス発電の効率は0.02%~0.04%となる。これは太陽光に比べて高く見積もっても250分の1の効率になる。

風力や水力の効率は、計算のしようがないほど効率が低い。それは、太陽のエネルギーを間接的に利用していることによる。

その結果として水力発電は長く用いられかつ今でも有効な発電法であるが、国内の水力でまかなえる電力量は8%でしかなく、この割合は伸ばせる可能性は低い。

風力も近頃は風が安定に吹く海上の風力発電に注目が集まっているが、その中で風がよく吹くところは秋田県沖とか房総沖とかに限られており、エネルギー供給の主流になることはない。

原子力についてもウラン鉱の埋蔵量から、その可能性を求めると70年となる。しかも原子力発電が導入できるのは先進国の限られた地域のみで、世界全体のエネルギーをまかなうにはとても足りない。

すると残るのは太陽光であるが、これは十分な量のエネルギーが供給できる。

太陽からのエネルギーは年間100京kWhと述べたが、太陽光発電の効率を10%と仮定しても地球全体では10京kWhの電力を得ることができる。日本の発電量は約1兆kWhであるから地球全体で発電可能な電力量の10万分の1を用いればよいということになる。

このことから、CO2を発生しないエネルギーとしては、太陽電池のみが有効なエネルギー源といえる。

太陽電池の課題はエネルギー密度

ここでCO2を出さないエネルギーの評価を幾つかの尺度で行ないたいが、まず、最大効果量という概念を導入したい。これはもしそのエネルギー源が世界中に普及したらCO2発生量がどれだけ抑えられるか、ということと定義したい。最大効果量の観点からは、太陽電池のみが生き残れるエネルギー源といえる。

他の尺度に公平性、安全性の不安、エネルギー密度ということを挙げたい。

公平性とは世界のあらゆる人々がエネルギーを平等に使えるかということと定義する。安全性への不安は実際に安全かどうか以前に人々が安全に思えるかと考える。

エネルギー密度とは、単位面積や容量当りにどれだけのエネルギーが得られるかということとする。

これらの尺度の中の公平性で、最も優れているのは太陽光である。安全性の不安については原子力が問題となる。そしてエネルギー密度は太陽光が低いことが最大の弱点になる。

もし太陽光でエネルギーを得ることを主に考えるとすると、ここで得られたエネルギーは電力としても電気自動車を走らせるためにも熱を得るためにも使えることになるから、極めて便利なエネルギーとなる。

すると太陽電池が持つエネルギー密度の問題をいかに解決するかがエネルギーをどうするかという問いへの回答となる。

このようなことから、次回は太陽電池のエネルギー密度の低さをどう解消するかについて取り上げる。

核融合技術は未だ研究段階 脱・温暖化には早期解決が必要

なお、最近核融合が、投入したエネルギーを上回る量のエネルギーを発生させる「ネットゼロ」に近づきつつあるということで、CO2を出さないエネルギー源として注目されてきている。このため、読者の方々から「核融合は取り上げないのか」という指摘が来るかもしれない。

これに関しては夢の技術として、戦後間もなくから研究が始められてきたという経緯がある。私の予測では、もし実験室レベルでこれが実現しても、実用化はまだ長い時間がかかると考えている。しかし、温暖化はすぐに大きな対策を打たなくてはならないということが、本連載の趣旨である。すると、核融合に関しては本連載からは外して考えざるを得ないことをご了承いただきたい。

Elicaの実物大モデル
このモデルを使ってメス型を作って、さらにメス型を
用いて、外装のFRPを製作した。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…