脱・温暖化その手法 第53回 ―太陽電池のエネルギー密度の低さを克服するための政策とその結果―

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

太陽光エネルギーの弱点を直視し克服へ

前回、人類に必要なエネルギーのすべてをまかなうとしたら、太陽電池以外にはないと述べた。

その理由は人類に必要なエネルギーをこれだけでまかなうことができることと、地球上どこにでも太陽光が降り注いでおり、世界中の人々がその恩恵に浴することができること、安全性への不安もないことを挙げた。

唯一の問題は、エネルギー密度が低いということである。これは単位面積当たりに得られる電力量が小さいということを意味し、そのために広大な面積の太陽光パネルを敷き詰めることが必要になる。例えば太陽光パネルはエネルギー変換効率を10%として、日本の発電量に匹敵する1兆kWhの電力を得るものとしよう。パネルで発生できる電力は斜めに日光が入る朝夕は少なく、曇りや雨の日には発電能力が落ちる。このことを考えると1m2当りの発電力は年間約100kWhになる。

日本での発電量1兆kWhを得るには1万km2の面積が必要となる。これは国土面積の3%に当たる。

また、太陽光発電を主とする場合に、季節変動も考える必要がある。太陽電池の発電量が最も多いのは5月で、8月頃まではかなりの発電ができる。一方で冬の1月、2月はその量が減る。しかも電力需要は真冬が最も多い。すると発電量も季節によって変えられるようにすることが望まれる。

さらにCO2を発生しているのは発電では40%で、残りの60%は自動車、製鉄、セメント及び熱を得るためのエネルギーを得るために発生している。これらのすべては電力で賄うことができる。これらを電力換算すると、約2.5兆kWhとなる。すると、これまでの電力での利用のみで必要であった国土面積の3%が6.3%まで大きくなる。

日本が世界をリードするエネルギーシステムを太陽光で

この面積を確保するのに建物の屋根を使うという議論が盛んになされてきたが、すべての可能性のある屋根を使ったとしても約1,000億kWhの発電にしかならない。

2012年に太陽光で起こした電力を高く購入するFIT(電力固定価格買取制度)ができ、それから10年が経過するが、政府は莫大な費用を使い、かつ、電力の一般ユーザーにもFITで高い電力を使わなくてはならないことに対して、課金がなされている。

FITを実行するために使われた費用はどこで使われたかと言えば、一般家庭の屋根にパネルを設置した時に発電した電力を高価に買い取ることにまず使われた。これは必ずしも悪いことではない。

もうひとつは、太陽光パネルを設置するミニ発電施設が全国にできたことである。その仕組みはどうだったかと言えば、これを設置したい多くの事業者が生まれ、空き地を買い、ここに架台を作り、そこにパネルを設置するという方法で建設を行なっていった。そこで狙われたのは経営の苦しくなったゴルフ場や、林業から手を引いた山林が主であった。そしてパネルは2010年までは日本製が多く使われて来たが、電力が安価で大きな政府の援助で作られた中国のパネル会社の製品がほとんどという状況になった。その結果、太陽電池による発電が日本の発電に与えた効果は9.5%までは向上したが、国民負担の割に、効果が大きかったとはいえない。

また、FIT制度も終息に向かっている。この間、中国製のパネルは世界を席捲することになり、現在世界中でその普及展開が図られている。こうして世界で太陽光パネルが利益を上げているのは、中国のみとなり、将来はエネルギー安全保障の点でも中国に頼らざるを得ない状況になって行くことは容易に想像ができる。

この中で筆者の知る成功例は、震災の後エネルギー自立を目指すことを目的として、福島市で開かれた集まりに参加した人々が中心になって立ち上げた会津電力が数少ない例ではある。

FITを利用して地域の発電を賄うための太陽光発電所の成功例

この状況を理解した上で、日本は今後いかにして太陽電池で必要なエネルギーを賄い、かつ、これを用いたエネルギーシステムを作り上げ、それが世界的な輸出産業として成立させて行くかが温暖化の克服とともに、日本の産業を活性化させ、かつ、強靱にする重要な手段となる。

電気自動車はすべての車が電気自動車に
変わったという前提。世界中の80億人が
アメリカ人と同じエネルギーを消費した
として、エネルギー需要は300兆kWhと
なる。これは極めて大きなビジネスチャ
ンスでもある。

次回以降は、国内で必要な電力を太陽電池で賄い、かつ、それをシステム化すること及びそれを現実のものにするための新しいパネルの紹介に関して複数回に亘って述べることにしたい。

Elicaの木製モックアップ
Eliicaの室内の広さを確認するための木製の
実物大モックアップ。このモックアップを用
いて、車室空間が十分に広いことを確認。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…