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コンフォートはより快適に、スポーツはより刺激的に
PCやスマホでは当たり前となりつつあるソフトウェアアップデート。クルマではナビゲーションの地図更新などが主だったが、最近では走りや運転支援に関係するモノも出てきている。その一つが今回紹介するレヴォーグSTIスポーツ/STIスポーツRに提供される「SUBARU Active Damper e-Tune(以下e-Tune)」である。これは電子制御ダンパーの制御を変更することにより「乗り味」のアップデートを可能するプログラムとなる。
スバル車はこれまで年次改良で「サスペンションの最適化」を行なってきた。従来モデルと乗り比べると進化はしているが、既販車のユーザーは指を咥えて見ているだけ。厳密に言えば部品交換を行なえば可能ではあるが、時間も手間もお金もかかるので現実的ではない。しかし、e-Tuneは部品交換を行なうことなく乗り味を変えることができるのだ。
ちなみにe-Tuneと言うと、3代目レガシィに設定されていたグレード名(GT-B E-Tune)を思い出す人もいるかもしれない。ちなみにこの時の「E」はEuropeの意味だったが、今回の「e」はズバリelectronicである。
レヴォーグSTIスポーツ/STIスポーツRに採用されているダンパーはZF製の「CDC(Continuous Damping Control=連続減衰制御」と呼ばれる物だ。このダンパーは車両の走行速度、路面状況、クルマの動きをセンサーで検知し、電子制御で減衰特性を最適な状態に制御を行なう。
ZFでは1997年に市場に投入されて以降様々なモデルに採用されてきたが、日本車への採用はレヴォーグが初となる。ちなみにスバルと言えば古くからビルシュタインのイメージが強いが、実はトヨタ86/スバルBRZの共同開発でZFとの関係が生まれ、今回の採用に至ったそうだ。
そんなレヴォーグの走りの味付けは、スバルの開発チームが求める走りに対してZFのエンジニアがチューニングを行なう。車両とのマッチング……と言う意味では、「レヴォーグベスト」な状態だが、CDC単体のポテンシャルと言う意味では調整代は広いと聞く。e-Tuneはその幅広い調整代を活用して、「新たな乗り味の提供」がコンセプトとなっている。
レヴォーグSTIスポーツ/STIスポーツRはスイッチ一つでエンジン&トランスミッション/EPS/ダンパー/AWDシステムの特性が変更可能な「ドライブモードセレクト」が採用される。その中でダンパーの味付けはコンフォート/ノーマル/スポーツの3種類が用意されるが、e-Tuneはコンフォートとスポーツの減衰力特性を変更する。
その違いは本当に感じられるのか? そしてどのような変化があるのか? 施工前/施工後の車両を同条件で乗り比べてみた。今回はダンパーの違いを比べるため、ドライブモードセレクトは「インディビデュアル(ドライバーの好みで個別に設定可能)」で、ダンパー以外の設定は固定(パワーユニット:Iモード、ステアリング:ノーマル、AWD:ノーマル)で行なった。
新コンフォートは、より懐深いしなやかな足に
違いを語る前に、ここからは記事での混乱を防ぐために、ノーマル状態は「コンフォート/スポーツ」、e-tuneは「新コンフォート/新スポーツ」と呼ばせていただく。
まずは新コンフォートだ。ダンパーの特性はコンフォートに対して減衰力は縮み側をプラス20%、ストローク速度を低速域がマイナス4~5%(制御領域10%拡大)、中高速域が最大マイナス20%となっている。
常用域では段差を超える時のアタリの優しさはコンフォートでも納得レベルだが、新コンフォートはまるでタイヤの空気圧を落としたかのような“いなし”と途中に薄皮2~3枚挟んだかのような振動の少なさを実感。
この辺りは縮み側の減衰を少し上げた事でタイヤの縦バネをより使えるようになった事も大きいと思われる。ショックの抑え込みは素早い収束ではなく時間をかけて収束させる感じはコンフォートと同じだが、新コンフォートはそれに加えてまるでダンパーストロークが増したと思うくらいのゆったりした足の動きだ。
そんな印象から、「より快適性を求めた仕様なのかな?」と思ったが、速度を上げてビックリ。コンフォートは高速道路などの大きなうねりなどを超える時に、ショックを収えられずバネ上をフラットに保つことができず車体がグラついてしまうが、新コンフォートは大きなうねりを上手に吸収するのでバネ上はフラットなまま……なのだ。
ワインディングではコンフォートは姿勢変化の大きさを活かし、タイトコーナーの進入などは前荷重にしやすいすい分ノーズの入りの良いものの、リアの接地性はノーマルと比べると心もとない……と感じていたが、新コンフォートはリアの接地性が損なわれないので安心感は絶大。おおらかな動きなのにスポーティなフィーリングは、例えるなら「目線の低いフォレスターSTIスポーツ」と言った印象だ。
このように新コンフォートはコンフォートよりも単に快適性を引き上げただけでなく、「しなやかスポーティ」を実現している。個人的にはむしろ「新ノーマル」と呼びたいくらいオールラウンダーに使えるモードだ。
総合バランスよりもトガッた仕様が好みのアナタに
続いて、「新スポーツ」だ。ダンパーの特性はスポーツに対して減衰力は伸び縮み共に最大20%、ストローク速度を低速域がフロント:マイナス11%/リア:プラス14%、中速域がプラス20%となっている。
スポーツの走りはノーマルに対して各部のギャップを詰めたかのようなダイレクト感と姿勢変化を抑えたハンドリングが特徴となっているが、新スポーツの印象を一言で説明すると、ズバリ「後ろを振り向かなければWRX S4」と言っていいくらいのレベルである。
まずステアリングを切った時の応答がよりダイレクトでクルマの動きにもキレが増している。特に印象的なのはリアの追従性の高さだろう。スポーツだと「やっぱりセダンとワゴンは違うよね」と言う印象だが、新スポーツは「これはセダンか?」と勘違いするくらいダイレクトな動きを見せる。
ハンドリングはスポーツよりもピッチ/ロール方向共に無駄な姿勢変化は抑えられているため「Rの厳しいコーナーは苦手かな?」と思いきや、低速域でダンパーストローク速度をマイナス側に振っていることが功を奏してノーズはインにスッと入る。コーナリング中はロールの少なさから来る内輪の接地感アップに加えて旋回中の姿勢もリアにシッカリと荷重が掛かっている印象で、結果的に4つのタイヤを効果的に使い、路面に吸い付くようにピターッと曲がってくれる。
例えるなら、まるで車高を下げてスポーツタイヤに交換したかのような安心感があるのだ。ただ、シャシー性能のレベルアップでサーキットのようなシーンではタイヤ(ヨコハマ・ブルーアースGT)の限界が先に出てしまいそうなので、個人的にはもう少しグリップの高いタイヤ(同じブランドならアドバンV107など)をセレクトすればバランスはより整うような気がしている。
快適性は正直期待していなかったが、想像以上に高いレベルだと感じた。もちろん、硬いか柔らかいかで言えばスポーツより明確に硬くなっているが、凹凸を乗り越える際に硬質な印象を与えない上に乗員を揺さぶらないショックの吸収のさせ方など、しなやかな硬さなので決して不快ではない。むしろスポーツモデルとして考えれば乗り心地は良い。
このように新スポーツはレヴォーグを「スポーツツアラー」から「スポーツワゴン」に変貌させるポテンシャルがプラスされる。
このように記すと、「そんなに良いなら、アップデートではなく年次改良で全車展開すればいいのに」と思う人もいると思う。ただ、上記の印象からも解ると思うが、e-tuneはレヴォーグの世界観を超えた乗り味を備えており、ある意味「総合バランス」よりも「シチュエーションをより楽しんでほしい」と言う考えなのだ。
個人的には他銘柄から乗り換えた人は「新コンフォート」、WRXをはじめとする歴代STIバージョンを乗り継いできた人は「新スポーツ」がお勧めかな……と。
そんなe-tuneはスバル特約店のみでの対応しており、価格は3万3880円+工賃と「アフターメーカー鳴かせ」のコストパフォーマンスである。社外品にもいいサスペンションは存在するが、総合性能となると……コイツを超えるのは難しい。ちなみに仮に施工して乗り味が気にいらなかった場合もノーマルに戻すことはできる(作業工賃の負担は必要)。
ちなみにe-tuneの弱点をあえて言うならば、専用エンブレム以外は「見た目」の変更がない所である。もちろん価格的な問題もあると思うが、個人的にはメーター/センターパネルの表示変更などアップデートを視覚的にアピールできる「プラスα」も欲しい。SUBARU Active Damper e-Tune、まさに新しい時代のチューニングである!!
■商品名 SUBARU Active Damper e-Tune ■適応車種 LEVORG STI Sport各グレード(Aタイプ〜Bタイプ) ■メーカー希望小売価格 33,800円(エンブレム代含む/工賃別) ■発売時期(予定) A、Bタイプ:2023年4月25日