HVO燃料とはなにか? マツダがカーボンニュートラルに向けてMAZDA3を使ってレースの現場で検証中

スーパー耐久のST-Qクラスに参戦するMAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept(55号車)
カーボンニュートラル(CN)な世界に向けて、カーメーカーもさまざまな取り組みを行なっているが、マツダのモビリティCNに向けた取り組みが、次のフェーズに移行したのでお伝えしよう。キーワードは「HVO燃料」である。
TEXT:高橋アキラ(TAKAHASHI Akira)

サステオHVOとはなにか?

マツダは2022年からCN燃料を使ったレースカーでスーパー耐久選手権に「MAZDA SPIRIT RACING」として参戦している。トヨタやSUBARUも同様に参戦し、さまざまな実証実験を兼ねてレースに参戦しているが、マツダはマツダ2のディーゼルエンジンにサステオというCN燃料を使って参戦していた。

その活動はさまざまなメディアでレポートされているので、ご存知の方も多いだろう。ユーグレナ社と共同で廃食油と藻類から生成するディーゼルエンジン用燃料で、軽油のJISに合わせた仕様になっている。その燃料でレース活動をし、トラブルもなく使用することが確認できたことから、今年は次のフェーズへと移行することになった。

次のフェーズとは、スーパー耐久の2023年シーズンは車両をマツダ3に変更し、エンジンも2.2Lのディーゼルに変更。車名は「MAZDA 3 Bio concept」で、ゼッケン55で走る。これに新燃料となるHVOと呼ばれるバイオ燃料を使用してレース参戦し、実証実験をする。このHVOバイオ燃料は「サステオHVO」の名称なのだが、2022年に使っていた燃料とは製造方法や原料が異なっており、バイオマス(生物資源)由来の水素化処理した燃料であり、Hydrotreated Vegetable Oilで、日本語では水素化処理植物油と呼ばれている。

このサスティオHVOは、ユーグレナ社がドイツの燃料メーカーから輸入したもので、それをレースで使用し、検証している。欧州では、HVOは大手燃料メーカーが製造に乗り出しており、すでに数社が生産している。それを市中のガソリンスタンドで販売というレベルまで普及している燃料なのだ。またEUではこのHVOの燃料規格はすでに存在していて、軽油とは別の規格の新燃料として流通していることになる。

PHOTO:Eni SpA

そのHVOの特徴としては軽油よりセタン価が高いことがある。昨年までのサステオもセタン価が軽油より高かったが、それよりさらにセタン価が高いという。セタン価とは自己着火のしやすさを示すもので耐ディーゼルノック性を示す数値で、セタン価が高いというのは、自己着火しやすいことになる。

燃焼しやすいとなるとNOxが多く発生すると思うが、筒内の熱発生が軽油と同等であればNOxの生成量は変わらない。マツダはEGRの調整などで、同等のNOxになっていると説明している。つまり、マツダのディーゼルはSCR(AdBlue=尿素水)などの後処理装置を使用しないで、多段燃焼させることでNOxを抑えている特徴があり、その優位性は活かされたままということになる。

したがって、HVOは軽油とはスペックが外れているため、どのような対策がエンジンに必要かということも含めてスーパー耐久で検証することになる。これが次世代燃料の次のフェーズという中身でもある。100%HVOを使用し、レースという過酷な条件で使用してみて、トラブルの発生などの検証を行なっているのだ。

SKYACTIV-D3.3(直6ディーゼル)はすでに対応

右がユーグレナ(ミドリムシ)から抽出したユーグレナ油脂、中が食用油の廃油、そして左が「サステオ」である。
CX-60が搭載するSKYACTIV-D3.3。直列6気筒DOHCディーゼルターボはすでにHVO20%の軽油に対応している。
マツダCX-60 SKYACTIV-D3.3

またラージ商品群用に新規開発された3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンは、こうしたCN燃料が出てくることを想定したエンジンになっており、HVOを20%軽油に混ぜたHVO+軽油でも問題ないとしている。3.3Lのディーゼル・エンジンはハードも制御ソフトも、さらにキャリブレーションも行なわずに使用できるのだ。

20%混合に関しては国内の地方税が影響しており、20%以上含めると税金の問題が発生するため、国内でHVOを販売する場合は、20%混合ということになってしまう。これは政府・行政が解決しないといけない課題であり、100%HVOがCN燃料であるわけで、ミックスした状態ではカーボンニュートラルへの貢献度も下がってしまうことになる。

左がバイオ燃料、右が通常の軽油を使った際の燃焼の様子。

また、マツダとしては今後、さまざまなCN燃料が出てくることを想定しており、それらの燃料に対して3.3Lディーゼルはそのまま使用でき、またユーザーが今乗っているスモール商品群のSKYACTIV-Dでも使用が可能か、という検証も行なっている。レース参戦と合わせてさまざまな実証実験、取り組みをやっているわけだ。

一方で、CN燃料に関する課題は山積している。EU委員会が進めていた2035年にICE搭載車の販売禁止という草案に対し、ドイツから提案のあったe-Fuelも認めるように訴えたところ、承認されICEの延命となったことがつい先ごろ報道された。国内でもNHKを始め「合成燃料」を使えばエンジン車はOKという報道になっているが、e-Fuelイコール合成燃料ではないので、注意が必要だ。

EU委員会が言うe-Fuelとは生成方法が指定されており、風力や太陽光発電での余剰電力で水の電気分解を行ない、グリーン水素と大気中、あるいは工場等の排出されるCO₂と反応させてCH₄(メタン)を生成し、その後液化燃料にしたものをe-Fuelとしている。日本語の合成燃料は広義であり、バイオマス由来も、エタノールやアルコールを使ったものも合成燃料としているが、それらをEU委員会では認めていない。

イタリア政府からはバイオマス由来の燃料もCN燃料として認めるよう要望したが、承認されなかった経緯もある。そうなるとHVOも承認されない燃料ということになるが、この問題は近い将来議論され、e-Fuelの定義も間違いなく変化してくると想像している。

よくよく考えてみれば植物由来のものは光合成によってCO₂を吸収し、その総量は算出できるわけで、燃焼して排気されるCO₂量との相殺は計算で成り立つことになる。とうもろこしなどの食物からの燃料は課題とされるが、廃食油であればそうした課題もなくCNに貢献できることになる。

また廃食油の総量には限界もあり、軽油の代替とするには総量が少ない。そうしたことも踏まえてマツダは藻類からの生成技術を研究し、確立したのが昨年までのサステオということになる。廃食油を使わず藻類と何かで生成するCN燃料もいずれ出てくるのだろう。

マツダではEV化することを第一義的に考えた政策はとらず、課題はCO₂をいかに増やさないか、自然界の中でループする世界に留めることが重要と捉えているのだ。マツダのエンジニアによれば、地球の生態系はCO₂を使ってできているわけで、地中にある石油や石炭、天然ガスなどを掘り出し、必要以上に燃やすからCO₂が増えているという事実を認識する必要があるという。

地中にある化石燃料を使うことを止めればCO₂削減は可能であり、ICEで使う燃料がさまざまな生成方法であってもCNにつながっていくという理解を世界に求めているのだ。

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著者プロフィール

高橋 アキラ 近影

高橋 アキラ

チューニング雑誌OPTION編集部出身。現在はラジオパーソナリティ、ジャーナリスト。FMヨコハマ『ザ・モー…