ホンダの日本国内におけるニューモデルラッシュならぬモデル廃止ラッシュが止まらない。
昨年を振り返るだけでも、フルモデルチェンジせず後継モデルも現れないまま生産終了したモデルは、N-BOXスラッシュ(2020年2月)、グレイス(2020年7月)、ジェイド(2020年7月)、シビックセダン(2020年8月)の4車種にのぼる。
そして今後は、2021年末の埼玉製作所狭山完成車工場の閉鎖に伴い、今回採り上げるオデッセイのほか、レジェンドとクラリティも生産終了(注:ステップワゴンも生産終了するが2022年内にフルモデルチェンジされる可能性が高い)。2022年春にはS660、同年末にはNSXも生産終了が公式発表されているうえ、同年内には他にもいくつかモデル廃止となる見込みだ。
そのなかでもオデッセイは、2020年11月に二度目のフェイスリフトを受け、2021年2月の販売台数は毎月2000台前後にまで回復している。にも関わらず、大規模なマイナーチェンジからわずか1年ほどで生産終了するのは、生産拠点の閉鎖、そして長年続く四輪車事業の利益率低迷という根本的な問題はあるにせよ、ホンダファンならずとも「はいそうですか」とは納得しかねるところだろう。
なぜならオデッセイ、とりわけ1994年10月に発売された初代は、バブル経済崩壊などの影響を受けて倒産の危機に瀕していた1990年代中頃のホンダを復活させた救世主であると同時に、日本にFF乗用車ベースのミニバン市場を形成するとともにRVブームを巻き起こした立役者であった。
さらに1999年12月デビューの二代目以降は「走りのミニバン」を世に問い続けてきた、ホンダのチャレンジングスピリットを象徴するモデルでもあったからだ。それを象徴するのが、2001年11月のマイナーチェンジで追加されたスポーティグレード「アブソルート」だろう。やがてこれが、オデッセイの中核をなす存在へと成長していく。
とはいえ、2003年10月デビューの三代目、2008年10月登場の四代目は、立体駐車場にも入庫可能なほどの低全高パッケージが結果的に裏目に出て、販売も徐々に低空飛行に。
2013年10月に発表された現行五代目は、オデッセイというよりはむしろ、2004年5月に発売されたエリシオンの全高を約100mm下げた後継モデルというべき、やや背の高いボディに押し出しの強いマスクとリヤ両側スライドドアを備えたモデルへと宗旨替えされていた。
また、2008年のリーマンショック後に開発がスタートした影響は大きく、四代目以上にコストカットが随所に目立つ仕上がりに。加えてデザインは押し出しの強さを重視したもので、五代目オデッセイを示唆した「コンセプトM」は2013年4月の上海モーターショーが世界初公開の場となったことからも、日本ではなく中国市場を主眼として開発されたことが容易に想像できる。
筆者が五代目オデッセイに初めて試乗したのは、2015年1月の一部改良でADAS「ホンダセンシング」が初めて設定された後だったが、内外装のみならず走りもADASの制御もラフで、「これは果たしてオデッセイと言えるのだろうか」とひどく失望したことを、今でもよく憶えている。これは、翌2016年2月に追加された2モーター式「スポーツハイブリッドi-MMD」搭載車も残念ながら同様だった。
そうした経緯もあり、2020年11月に二度目のフェイスリフトを受けた後の現行オデッセイに対しても、率直に言えばほとんど期待していなかったのだが……その予想は良い意味で大きく裏切られた。
前後とも大幅に手が加えられたエクステリアは、ボンネット前端が80mmかさ上げされたことで、それまでのワンモーションフォルムは失われてしまったものの、デザイン要素が若干ながら減ったことでスッキリとした印象に。そのうえ運転席からノーズが見えるようになり、車両感覚が掴みやすくなったことも、大きな進化と言えるだろう。
その運転席まわりも、インパネアッパーパネルやメーターパネルのデザインが全面的に変更されるとともに収納が増え、ナビは10インチのディーラーオプション品に一本化されるなど、質感とともに視認性と使い勝手も大幅に改善された。
しかしながら、ハイブリッド車に標準装備されるEPB(電子制御パーキングブレーキ)のスイッチがインパネ右下に配置されているうえ、作動時にランプが点灯しないため操作性も視認性も悪い点は一切改良されていない。
2017年11月のマイナーチェンジでハイブリッド車のACC(アダプティブクルーズコントロール)が渋滞追従機能付きとなったことに伴い後付けされたもので、この使い勝手の悪さを味わうたびに設計年次の古さを感じてしまう。
古さを感じさせるという点では、3列とも背もたれが小ぶりなシートも相変わらずだが、座面は充分な長さがありクッションも厚めなためフィット感は上々。
8人乗り2列目ベンチシート仕様がない「e:HEVアブソルートEX」には強制的に装着される「2列目プレミアムクレードルシート」はシートベルト内蔵式で、オットマンやボトルホルダー、角度調整式両側アームレストに加え、背もたれに中折れ機構を備え、かつ背もたれを倒すと連動して座面前部が持ち上がるようになっている。そのうえ3列目を格納すれば740mmのロングスライドも可能になるため、移動中でもリラックスした姿勢で寛げるのが大きな美点だ。
一方で3列目は、四代目より全高が150mmアップされた恩恵をほとんど受けておらず、シートさいず、レッグルーム、ヘッドルームとも決して充分とは言えず、「大人が座れなくもないが決して快適ではない」という域を出ていない。長旅では子供用と割り切るべきだろう。
だが3列目が床下格納を優先した設計となっているおかげで、そのシートアレンジは極めて容易。また格納すればフロアと地続きのフラットな荷室が得られる。とはいえ、テスト車両の「2列目プレミアムクレードルシート」が掛け心地最優先のため前後スライド以外にシートアレンジできないのは当然としても、8人乗り2列目ベンチシート仕様に座面のチップアップ機構がなく、奥行きを稼げなくなったのは大いに疑問が残る。