この頑固なまでの“フツウさ”は、やっぱりスバルの魅力なのだ! 【新型クロストレック公道試乗】

新型クロストレックについに公道で乗ることができた。パワートレーンは2.0Lマイルドハイブリッドのe-BOXERのみとシンプルで、駆動方式はAWDのほか、先代のXVにはなかったFWDもある。スバルNo.1の量販が期待されるコンパクトSUVの実力はいかに!
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/SUBARU

非降雪地ならむしろFWDのコスパが光る!

クロスレック Limited(FWD)

昨年秋にクローズドコース(伊豆サイクルスポーツセンター)でプロトタイプを試乗したクロストレック。その正式なプロダクトモデルを、ようやく公道で試乗することができた。

おさらいをすればクロストレックはスバルのベーシックカー「インプレッサ」から派生したクロスオーバーであり、先代は「XV」として人気を博したモデル。現行型では北米仕様と統一車名となり、インプレッサを差し置いての先行デビューとなった。

今回試乗したのはそんなクロストレックの上級仕様となる「Limited」で、FWDモデルとAWDモデルの両方で乗り比べた。

クロスレック Limited(FWD)ボディカラーはピュアレッド。

千葉県袖ケ浦市の「袖ケ浦フォレストレースウェイ」をベースに、片道約80kmのショートトリップで、乗り換え場所となる鹿野山九十九谷展望公園を目指す。往路で試乗したのは、これまでXVではラインナップされなかったFWDモデルだ。

そんなFWDモデルを走らせてまず感じた第一印象は、出足の軽さ。決してパワフルだったりトルクフルというわけではないのだが、アクセルを軽く踏み込んだ瞬間から、クルマが“スーッ”と応答遅れなく走り出す。

パワーユニットは、2リッター自然吸気の水平対向4気筒(145PS/188Nm)に、モーター(10kW:13.6PS)とバッテリー(4.8Ah)を組み合わせた“e-BOXER”。奇しくもそれは先代XVから投入されたマイルドハイブリッドシステムだが、記憶にあるXVはもちろん、これまでのスバル車のなかでもクロストレックのe-BOXERが一番、モーターのアシストを体感できた。

パワーユニットは1種類で、2.0LDOHC直噴エンジンにモーターを組み合わせたマイルドハイブリッド仕様(e-BOXER)の1択。エンジンは最高出力145ps、最大トルク188Nmのスペック。モーターは、それぞれ10ps、65Nmと控えめだ。WLTCモード燃費は、FWDが16.4km/l、AWDが15.8km/l。

そして筆者はこの理由が、最初はFWDモデルの軽さがもたらしていると思ったのだが、どうやらそれは早合点のようだった。

というのもFWDモデルの車重は1580kgと、先代XV 2リッターのAWDモデル(1560kg ※Advance)よりも実は重たいのだ。参考ついでに言うと、クロストレックのAWDモデルは1620kg。つまりフルインナーフレーム化やボンド塗布量を増やしたSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)は、剛性こそ従来より10%上がってはいるけれど、車重は重たくなっているのだ。

すっかり定着した11.6インチセンターディスプレイ。アウトバックやレヴォーグと同サイズだが、相対的に大きく見える。Touringの場合は、メーカー装着オプションとなる。

そして肝心なパワートレインは、従来から数値に変更が見られない。またこれを試乗後に開発陣に確認すると、エンジンとトランスミッションの間に挟み込まれるモーターや、バッテリー容量だけでなく、その制御にも変更は加えられていないとのことだった。

では一体何がe-BOXERのフィーリングに違いをもたらしたのか? エンジニア氏によればそれは、FB20エンジンの「トルク精度の向上」だという。

具体的にはエンジンの制御を刷新することで、燃焼率を向上させた。かつエンジンとオイルパンの間に挟まる構造部材、オイルパンアッパーの設計を最適化することで、爆発時におけるクランクシャフトのねじれを軽減。これによってエンジンはトルクの効率を高めることが可能になり、モーターのアシスト効率も上がったのだという。

幾何学模様が施されたトリコットシートがTouringに標準装着。Limitedはファブリックが標準だが、いずれのグレードでもブラック/グレーの本革シートを選択することができる。

実際インジケーターごしに観察してみると、確かにハイブリッド制御は相変わらずエンジンが主体だった。たとえば信号待ちからのゼロ発進をしても、まずはエンジンがトルクを出してから、モーターが追従する。また登り坂のような負荷が大きく掛かる場面でも、モーターは初速をアシストしていなかった。

後席空間も大人に二人がゆったり座ることができる。

外野的にはこうした負荷の大きな状況こそモーターを使うべきでは? と思ってしまうが、より燃費に貢献する場面で電力を使っているというのがスバルの言い分だ。e-BOXERはバッテリー容量が少ないマイルドハイブリッドだから、こうした制御になるわけである。

本音を言えばこれだけF20型の水平対向エンジンがスムーズに回ってくれるのだから、ここにストロングハイブリッドが組み合わさればなお良いだろうな、とは思う。

この高効率化は、高速道路の合流や追い越しでも効果を発揮した。加速時は滑らかなトルク上昇と共に速度を乗せてくれるから、運転がしやすい。一気に加速するような状況だと、高回転ではパンチが足りない。しかしそれにも増して常用域での使いやすさと心地良さが勝る、実直なパワーユニットだと感じた。

実はFWDこそ、他では得がたい独特のレイアウト

対してシャシーは、まず乗り味がとても気持ち良い。

クロスオーバーらしくサスペンションストロークは十分に取られており、路面からの入力がスッキリとダンピングされる。またその剛性も柔らか過ぎず硬すぎずバランスしており、加減速でも不快なピッチが起こらない。

骨盤を支えるというシートの硬さもこの乗り味にマッチしており、車高の高さや視界の良さと合わせて、終始心地良く走ることができる。

ひとつ気になるのは、初期操舵の手応えがやや希薄なこと。車体そのものは操舵に対して反応しているのだが、その際、手の平に伝わるグリップ感が薄いのだ。2ピニオン式となったEPS(電動パワーステアリング)と、足周りにFWD車専用のセッティングが施されたとのことだったが、まだEPS制御や初期ダンピングの味付けが、こなれていないように感じた。

ただしロールが深まれば感度は増すし、その際のボディコントロールも見事だ。スバル車を選ぶならAWDというイメージはあるけれど、実はFWDこそ、他では得がたいレイアウトだと思う。低重心かつコンパクトな水平対向4気筒でトランスミッションを縦型配置したその操縦性は、他とはひと味違う。

ルーフレールは、全車メーカー装着オプション。Touringはブラック塗装でLimitedはダークグレー塗装だ。クロストレックの標準車高は1575mmで、ルーフレール装着車は+5mmの1580mmとなる。Touringでシャークフィンアンテナ非装着の場合は、標準車高−25mmのため、車高は1550mmに収まる。(ルーフレール無しの場合)

CセグメントのコンパクトSUVとしてフラットに見れば、Limitedが税込みで306.9万円~というのも、かなり魅力的な価格設定だ。非降雪地域ではむしろAWDよりも、コストパフォーマンスが高いのではないかと筆者は感じた。

現代のスタンダードとしてのコンパクトSUV

従来のステレオカメラに加えて広角単眼カメラが追加され、三眼仕様となったアイサイトも新型エクストレイルのトピックだ。見通しの悪い場所や出会い頭など、より検知できる可能性が広がった。

往路で乗り換えたAWDは、FWDモデルにと比較して、落ち着きのある乗り味が印象的だった。フルタイム4WDがもたらす後輪のトルクが、日常域からその走りに、じわりと安定感を与えていた。

またそのトルク追従性が四輪に分散されてリニアになる分だけ、FWDモデルと比べてモーターの存在感がさらに希薄になっていると感じた。そういう意味ではAWDにこそ、ストロングハイブリッドが欲しい。ちなみに両車の車重差は40kgだから、クルマの重さよりもAWDの出足の良さが、モーターの存在感を消してしまっているのではないかと思う。

写真はTouringの17インチホイール。タイヤサイズは225/60R17。Limitedは225/55R 18とサイズアップし、切削光輝仕様になる。タイヤはいずれもオールシーズンだ。

その燃費性能は、カタログ値で15.8km/ℓ。往路の起点から平均燃費計をリセットした値は13.1km/ℓで、メーター読みという甘さはあるものの、一般道から高速道路、軽いワインディングまで挟んだ走りとしてはまずまず乖離が少ない。しかし同じセグメントの国産ハイブリッドたちと比べると、数値そのものが高いとは言えないのが痛いところだ。

そんなクロストレックの良さはひとえに、ベーシックカーとしての実直さだろう。ベーシックカーというとスバルの場合は形式的にはインプレッサが該当する。しかし昨今の状況を考えれば、コンパクトSUVは憧れも含めた現代のスタンダードであり、そのなかでクロストレックAWDには、ベーシックな良さがある。

クロストレックには、ナビの目的地入力方法として、「what3words」が採用されている。これは、世界のあらゆる地点を3m四方に区切り、3ワードからなる「住所」が割り当てられるというもの。例えば広大な草原のような場所でも、ピンポイントである地点を特定、共有できるという優れもので、旅行、物流、配車サービスなどですでに多くに企業が導入しているという。写真のように目的地設定画面にアイコンがインストールされている。
今回の場合、目的地地点に割り当てられているのは、「どれか・くろごま・おおめ」の3ワード。これを順に入力していく。
すると、特定の地点が表示されて案内を開始するという具合だ。施設名称で目的地を簡単に検索できる場所であれば普通に検察して方が早いかもしれないが、建物の名称がない、狭い範囲を特定して誰かと待ち合わせしたいという用途であれば、便利に使えるだろう。

60:40の前後トルク配分を基本に、走行状態や路面状況によってトルクを50:50まで可変させるアクティブトルクスプリット式AWDの制御は極めて穏やかで、レヴォーグやWRX系で採用されるセンターデフ式AWDのように、積極的にコーナーへと切れ込んでいくような動きはしない。

しかしだからこそ、先代よりもしなやかになったサスペンションが巧みにバネ上のボディを動かしても、足下でその挙動を実直に安定させてくれる。

軽快感が欲しいなら断然FWDをお勧めするが、この頑固なまでの普通さは、やっぱりスバルの魅力。降雪地域での日常を支える足としてはもちろん、様々な場所へと出かけるためのタフギアとしても、クロストレックAWDは、長く連れ添ってくれることだろう。

LINE UP

グレード   駆動方式  価格
Touring   FWD    2,662,000円
Touring   AWD    2,882,000円
Limited    FWD    3,069,000円
Limited    AWD    3,289,000円
 
SUBARU クロストレック Limited(FWD)


全長×全幅×全高 4480mm×1800mm×1575mm
ホイールベース 2670mm
最低地上高 200mm
最小回転半径 5.4m
車両重量 1560kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:ストラット R:ダブルウイッシュボーン
タイヤサイズ 225/55R18

エンジン型式 FB20
エンジン種類 水平対向4気筒DOHC 直噴
総排気量 1995cc
最高出力 107kW(145ps)/6000rpm
最大トルク 188Nm(19.2kgm)/4000rpm

モーター型式 MA1
モーター種類 交流同期電動機
最高出力 10kW(13.6ps)
最大トルク 65Nm(6.6kgm)

燃費消費率(WLTC) 16.4km/l

価格 3,069,000円
SUBARU クロストレック Limited(AWD)


全長×全幅×全高 4480mm×1800mm×1575mm
ホイールベース 2670mm
最低地上高 200mm
最小回転半径 5.4m
車両重量 1610kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:ストラット R:ダブルウイッシュボーン
タイヤサイズ 225/55R18

エンジン型式 FB20
エンジン種類 水平対向4気筒DOHC 直噴
総排気量 1995cc
最高出力 107kW(145ps)/6000rpm
最大トルク 188Nm(19.2kgm)/4000rpm

モーター型式 MA1
モーター種類 交流同期電動機
最高出力 10kW(13.6ps)
最大トルク 65Nm(6.6kgm)

燃費消費率(WLTC) 15.8km/l

価格 3,289,000円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…