新型スバル・インプレッサ 乗り味もスッキリ、目指したのは動的質感の向上だ

SUBARU インプレッサST-H(AWD)車両本体価格:321万2000円
スバルが「スタンダードモデル」に位置づけるインプレッサがフルモデルチェンジして新型になった。しかし、ただ中庸を狙ったのでは個性的なライバルを前に埋没してしまう。そこで、個性を与えようとした。それは何かといえば、「安心と楽しさ」だという。さらに、「実用性と安全性」に重点を置き、「アクティブさとスポーティさ」も表現したそう。盛りだくさんなスタンダードだ。まずは、クローズドコースで試乗。狙い通りに仕上がっているかチェックした。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

スポーツ色を強めたインプレッサ

全長×全幅×全高:4475mm×1780mm×1515mm ホイールベース:2670mm 車重:1540kg 最低地上高:135mm

車体やパワートレーンにインフォテインメント系や安全装備など、インプレッサを構成する技術はひと足先にデビューしたクロストレックと共有する。有り体にいえばインプレッサの背を高くしたのがクロストレックだし、クロストレックを軸に見れば、背を低くしたのがインプレッサだ。クロストレックの場合、エクステリアデザインは「SUVとしてのわかりやすさ」を重視したという。

いっぽう、インプレッサは「スポーツ色を強めた」という。そのスポーツだが、よくよく話を聞くと、ワインディングロードやサーキットを攻めて楽しむスポーツではなく、アクティビティに出かけたり、楽しんだりするスタイルを指すらしい。実は、クロストレックだけでなくインプレッサも、前型はクルマでアウトドアに出かけるユーザーが多かったのだという。

最小回転半径は5.3m トレッド:F1540mm/R1545mm 試乗車のボディカラーはサンブレイズ・パール(3万3000円のOPカラー)

そんな使われ方を受け、「アウトドアに行ったときにも似合うようにしたい」という思いをエクステリアデザインに込めたとデザイナーは話す。「インプレッサの場合は他のメーカーのお客さまより、クルマを使って遊んでいらっしゃる。そういうお客さまの志向を受けてデザインしました」と。

同時に、「意識してカッチリさせた」とも言う。「(スタンダードモデルに位置づける)乗用車として、意識してカッチリ、しっかりデザインしています。エレガントなライバルもいますし、もっとスポーティなライバルもいる。それと同じにはしたくありませんでした。(新型インプレッサは)派手さはないかもしれませんが、しっかり感は必要なのではないかと考えました。そこで、シャープな感じを強め、フェンダーを張り出し、キャビンを小さく見えるようにしました(小さく見えるだけで、狭くなってはいない)」

室内長×幅×高:1930mm×1505mm×1200mm 電動パワーステアリングはデュアルピニオンタイプになった。
後席は6:4の分割可倒式
人体構造に基づいた新たなアプローチによって生まれた新開発フロントシート
最新のスバルらしい縦型センターディスプレイを採用。トランスミッションはリニアトロニック(チェーン式CVT)だ。

デザイナーのこだわりのひとつが、バックドアだ。前型は六連星バッジの下側にバックドアの開閉ノブ機構などを収めるため、この部分だけ後付けの樹脂パネルが付いている。そうと分かった途端に後付け感満々であることに気づいてしまうのだが、新型は樹脂パネルの範囲をリヤコンビネーションランプ(この複雑な造形もこだわりのひとつ)側いっぱいに拡げることで、後付け感をなくした。新型インプレッサがスッキリして見える要因のひとつだ。

乗り味もスッキリしている。適用した開発手法や技術はクロストレックと同じで、目指したのは動的質感の向上だ。開発に携わる技術者は、開発手法の変革について次のように話す。

「振動レベルは欧州メーカーさんと変わらないレベルまで行ったのですが、乗ると違うよねと。それはなんだろうと。研究に取り組んだ結果、技術的にわかったことがありました。ひとつは医学的なアプローチで、人間を科学する考え方です。今まではクルマの応答や加速度などで評価していましたが、人間にとってクルマはどうあるべきかの視点で見るようになりました」

荷室フロア長は814mm。容量は315Lだ。

人が感じる乗り心地は、それまで重視してきた車体そのものの振動に加え、頭部の揺れによる視覚情報の変化や、聞こえる音に影響を受けることがわかった。耳には音を感じるセンサーだけでなく、体の動きを感じるセンサーが集中している。いい乗り心地を実現するには、運転中の頭部の揺れを抑えればいいことにスバルは気づいた。頭の揺れを抑えるには、腰の動きを抑えることが肝要であることに気づき、仙骨を押さえて骨盤をサポートする構造にすればいいとの結論に達した。そのコンセプトを実現すべく、新構造のシートを採用。シートの固定方法を変更して剛性を上げ、振動収束性を向上させた。

また、乗り心地に影響を与える特定の音を抑制するため、振動の吸収性が高く、制振性に優れた高減衰マスチック(弾性接着剤)をルーフパネルとブレースの間に採用した。これによってルーフの振動を抑えるとともに音の収束を早めた。音の収束が早まると、揺れが短くなったように錯覚するのだそう。その結果、乗り心地が良くなったように感じるのだという。

新旧乗り比べ スッキリ感が際立つ

クローズドのコースで新旧インプレッサを乗り比べたが、違いは歴然としている。揺れが短くなったように感じるのは錯覚かもしれないが、スッキリ感が増しているのは錯覚ではなく事実だ。新開発のシートやルーフだけでなく、電動パワーステアリングの変更(1ピニオン→2ピニオン)とそのチューニング、それにパワートレーンの進化がスッキリ感のアップに効いている。

エンジン 形式:水平対向4気筒DOHC+モーター 型式:FB20 排気量:1995cc ボア×ストローク:84.0mm×90.0mm 圧縮比:12.5 最高出力:145ps(107kW)/6000pm 最大トルク:188Nm/4000rpm 燃料供給:DI 燃料:レギュラー 燃料タンク:48ℓ モーター:MA1型交流同期モーター 最高出力:13.6ps(10kW) 最大トルク:65Nm トランスミッション:リニアトロニックCVT
リヤサスペンションはダブルウィッシュボーン式
フロントサスペンションはストラット式
AWDはカップリングユニットを使うオンデマンドタイプ

パワートレーンの構成は従来と同じ。すなわち、FB型の2.0L水平対向4気筒自然吸気エンジンに、リニアトロニックと呼ぶチェーン式CVTの組み合わせである。3つあるグレードのうち上2つはモーターを組み合わせたe-BOXERだ。駆動方式はAWD(常時全輪駆動)とFWD(前輪駆動)の2種類を設定する。

e-BOXERのエンジンはスッキリ気持ち良く回るし、トランスミッションは耳障りなノイズを発しなく(聞こえなく)なっている。「なぜ?」と問えば、「エンジンに入れたオイルパンの補剛が効いて、パワーユニット全体のねじれが抑えられている」効果が大きいという。「ミクロの部分で(エンジン部品の)メタルタッチがなくなって、雑味がなくなり、機械としてスムーズに動くようになっています」

エンジンマウントはハウジングを樹脂からアルミに変更。「振動の大きさ自体は変わらないが、周波数帯を制限」することで、スッキリしたエンジンフィールの実現に貢献しているという。人が不快に感じる要素を取り除き、心地良く感じる味だけ残したのが新型のインプレッサというわけだ。実によく仕上がっている。

SUBARU インプレッサST-H
全長×全幅×全高:4475mm×1780mm×1515mm
ホイールベース:2670mm
車重:1540kg
サスペンション:Fストラット式/Rダブルウィッシュボーン式
駆動方式:4WD
エンジン
形式:水平対向4気筒DOHC+モーター
型式:FB20
排気量:1995cc
ボア×ストローク:84.0mm×90.0mm
圧縮比:12.5
最高出力:145ps(107kW)/6000pm
最大トルク:188Nm/4000rpm
燃料供給:DI
燃料:レギュラー
燃料タンク:48ℓ
モーター:MA1型交流同期モーター
最高出力:13.6ps(10kW)
最大トルク:65Nm
トランスミッション:リニアトロニックCVT
燃費:WLTCモード 16.6m/ℓ
 市街地モード13.4km/ℓ
 郊外モード:17.0km/ℓ
 高速道路:18.2km/ℓ
車両本体価格:321万2000円

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…