プリウスPHEV 「プリウスでここまでやっていのか?」と驚愕する走りの秘密をカットモデルから探る

新型プリウスPHEVのカットモデル
新型プリウスのトップレンジは、大容量バッテリーを搭載するプラグインハイブリッド(PHEV)だ。EV走行換算距離が87kmあるから、日常のほぼ全域、EV走行でまかなえるはず。しかも、その走りは鮮烈。HEVのプリウスとはひと味もふた味も違うのだ。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)

先代比5割増しのバッテリー容量

プリウス PHEV Z 車両価格:460万円

トヨタ・プリウスPHEVとHEVの違いは、PHEVのほうが大容量のバッテリーを積んでいること。PHEVの「P(プラグイン)」の文字が示すように、外部電源から充電ができること。エンジンの排気量は同じ2.0Lだが(HEVには1.8L仕様もある)、走行用モーターの出力が高いことなどが挙げられる。HEVが搭載するフロントモーターの最大出力が83kW(113ps)なのに対し、PHEVは120kW(163ps)だ。

モーターとエンジンの出力を合わせたシステム最高出力は2.0L HEV の144kW(196ps)に対し、PHEVは164kW(223ps)だ。横浜みなとみらい周辺の一般道と首都高速道路を走らせる機会を得たが、PHEVの大きな価値は、「静かで力強いこと」だと感じた。「静か」なだけでもなく、「力強い」だけでもない。両方を兼ね備えていることが大きな価値だ。

全長×全幅×全高:4600mm×1780mm×1430mm ホイールベース:2750mm
トレッド:F1560mm/R1570mm 最低地上高:150mm
車両重量はFF同士でPHEVが1570kgに対してHEVは1420kg。150kg重い。

プリウスPHEVは自宅で充電しながら使うのが理想だし、トヨタもそのような使い方を想定している。搭載するリチウムイオンバッテリーの総電力量は先代の8.8kWhに対し、新型は13.6kWhで、5割以上も増えている。国土交通省審査値のEV走行換算距離は87kmだ(先代は50〜60km)。通勤やレジャーで都内から横浜に向かうドライブ程度なら、EV走行のみで往復できそうだ。

アクセルペダルを床まで踏み込むようなシーンでは、システムがドライバーの加速意図を読み取り、エンジンを始動して大きなパワーを発生させる。PHEVは「プリウスでここまでやっていのか?」と驚愕するほどの速さを見せつけるし、エンジンが相応の回転数で回っても以前のプリウスほど騒々しくない。しかし、EV走行時の静けさを知ってしまうと、エンジンはできるだけかかってほしくないと感じる。EV走行でもスポーティな走りは充分に堪能できるので、なおさらだ。

エンジン 2.0L直4DOHC(M20A-FXS) 最高出力:151ps(111klW)/6000rpm 最大トルク:188Nm/4400-5200rpm

プリウスは高いモーター出力を高い効率で運用するためにバッテリー電圧を昇圧しているが、PHEVは高出力を得るために二段昇圧し、HEVの600Vに対して650Vに高電圧化しているという。大容量のバッテリーを積んでいることもあって出力には余裕があり、余力が残っているという。「4WDにするともっと速く走れるんですけどねぇ。そういう話もあったのですが」と技術者は言うが、カットモデルを見れば一目瞭然で、リヤにモーターを搭載するスペースは残っていない。インホイールモーターを適用するくらいしか手はないだろう。

バッテリーは従来ラゲッジ部にあった電池パックをリヤシート下に搭載することでラゲッジスペースの拡大を実現。
床下から見るとこう。
40L(HEVより3L少ない)の燃料タンクはラゲッジスペースの下に配置される。

4輪のタイヤのキャパシティをバランス良く使ってより安心、快適、スポーティに走る能力を付加するのがAWD(全輪駆動)の価値だとすれば、AWD(リヤにモーターを搭載するE-Four)を設定するHEVに対し、PHEVは2WD(前2輪駆動)のみとなる点が、HEVに対する数少ないディスアドバンテージだろうか。

先代プリウスPHEVはバッテリーをラゲッジルームに積んでいたが、新型は後席下に積む。その後方は容量40Lの燃料タンクで、ゆえに、リヤにモーターを搭載するスペースは残っていない。しかし引き換えに、HEVと遜色ないラゲッジスペースを確保している。それに、重量物を後車軸より前の低い位置に搭載することにより、車両運動性能の向上にも寄与する。

脚の仕立てのキモはダンパー

ただし、重量増だけはいかんともしがたい。プリウスPHEVの車両重量は1570kgで、2.0L HEVより150kg重い。カットモデルが示すように、バッテリーなど重量物のほとんどは後席より後方に集中しており、ドライバーのみの1名乗車であっても、後席に2名乗せているような状態だ。それでも力不足を感じないのは、すでに記したとおりである。

PHEVは重さを逆手にとり、重厚感を感じさせるような仕立てにしたという。静かで速いだけがプリウスPHEVの取り柄ではないということだ。リヤのばね定数は重たい重量を支える意味もあってHEV比で1.5倍程度に高めているという。

でも、乗り心地は犠牲にしていない。実際、「硬い」と感じるシーンには遭遇しなかった。先代プリウスPHVと乗り比べると、進化ぶりがよくわかる。あくまで新型との対比だが、先代はロール方向に落ち着きなく揺れがちな印象がある。対照的に新型はドシッと落ち着いており、荒れた路面では微細な振動を上手に遮断している印象。

革の触感や握り心地、手応えも含めて感触のいいステアリングを切り込むと、イメージどおりに向きが変わる。重たい物の向きを変えようとすると応答に遅れが出がちだが、遅れが生じないよう気を配ってチューニングしたという。安定した姿勢で落ち着くので、コーナーを迎えるのが楽しくなる。

プリウスPHEVからはひとつ車格が上がった印象を受けるが、これを実現した理由のひとつはダンパー(ショックアブソーバー)にありそうだ。2018年に発売されたカローラスポーツで初適用し、以後、ヤリスなど、トヨタのBセグメント/Cセグメントに展開を拡げているプロスムース(Prosmooth)の製品名を持つKYB製のダンパーを適用している。

タイヤ:F&R195/50R19 銘柄はヨコハマBluEarth GTを履く。ブリヂストンを標準タイヤだ。
フロントサスペンションの取り付け部
フロントサスペンションを下から見る
リヤサスペンションはダブルウィッシュボーン式

動かないときはビシッと軸力を発生させて安定させ、極微低速域の動き出しは適度な減衰力を発生させる特性を持つ。この特性を実現するため、摩擦力を発生させる摺動部に着目して開発が行なわれた。その結果、乗り心地と操安性を両立する特性を手に入れたとの触れ込みだ。PHEVも含めプリウスの開発では、カローラスポーツやヤリスなどの経験から、プロスムースをより上手に使いこなすことができているという。

サスペンションをよく動かし、状況を問わずタイヤをきちんと接地させる。そのためにボディをしっかりさせるといったことにきちんと手を打ったうえでの話である。荒れた路面をしなやかにいなし、良路では速度域が上がってもドシッと安定して、ステアリングを切り込めば、素直に向きを変えてほどよい姿勢で安定する。そして、静かで力強い。プリウスPHEVは快適に移動できるクルマでもあり、走りを楽しめるクルマでもある。

プリウス PHEV Z 
全長×全幅×全高:4600mm×1780mm×1430mm
ホイールベース:2750mm
車両重量:1570kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/ダブルウィッシュボーン式
駆動方式:FF
エンジン
2.0L直4DOHC(M20A-FXS)
最高出力:151ps(111klW)/6000rpm
最大トルク:188Nm/4400-5200rpm
フロントモーター:1VM型交流同期モーター
最高出力:163ps(120kW)
最大トルク:208Nm
燃料タンク容量:40L
電池容量:13.6kWh
EV走行換算距離:87km
WLTCモード燃費:26.0km/L
 市街地モード23.7km/L
 郊外路モード28.7km/L
 高速道路モード25.5km/L
車両価格:460万円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…