目次
MTは前型流用だが、徹底したシフトフィール向上策が効いている
6速MTの本体は前型をほぼ流用しているというが、「ちょっと渋いというか、今までのシフトが『う〜ん』というところがあったので、山谷を変えました。もっとクイクイと気持ち良く走る演出をしたつもりです」と、田村氏は語る。
山谷とは、シフトロッド溝のプロファイル(断面形状)が示す山谷であり、シフト操作時のストロークと荷重(操作力)の関係が示す山谷のことだ。シフトフィールを作り込む要の部位にディテントがある。ロッドの球面部分がこのディテントを乗り越える際にシフトフィールが生まれる。現行段からギヤを抜いてニュートラルを通過し、別の段にシフトする際の、抜くときの谷とニュートラル付近の山、さらに別の段に入るときの谷を見直し、別の段に自然に吸い込まれるようチューニングした。吸い込まれ感の向上には、シフトレバーを押さえつける力を発生させるチェックスプリングの荷重を50%増やしたのも効いているという。
ストロークと荷重の関係も同様だ。シフト前半の荷重(山)は前型をほぼキープしつつ(山の高さはほぼ同等だが、稜線の形状は異なる)、後半は谷を深く広くし、レバーが自ら進んで吸い込まれていくようなフィーリングを作り出した。
また、クラッチの容量アップを行なったほか、1速と2速のシンクロナイザーはリングの肉厚を薄くし、シンクロ性能を約5%向上させている。クラッチのレリーズは従来、レリーズベアリングを油圧で直接操作するコンセントリックスレーブシリンダー(CSC)を採用していたが、信頼性向上のため、新型Zはコンベンショナルなレバー式に変更。高G加速時のオイルの偏りを抑制するため、オイルパンバッフルプレートを改良した。
シフトフィールは、ドライバーがヒップポイントを決めてシフトノブに手をかけたとき、いかに自然な位置にあるか。操作するときにいかに無駄な力を必要とせず、節度良く、ポジションがわかるように操作できるかが重要だ。まず、自分に合ったドライビングポジションを決めるにあたり、新型Zでは前型になかったテレスコピック機構(25mm)が加わったのが朗報である。これにより、ステアリングの位置に合わせてシート前後位置やリクライニングの角度を妥協する必要がなくなった。
シフトレバーの佇まいがいい。ノブは見てのとおり球体だが、日産の標準サイズより大きなサイズで、前後(54mm)に対して幅がわずかに短い(52mm)。真円ではなく縦長形状としたのは、手のひらにフィットさせるためだ。本革巻きのノブは違和感となる凹凸を排除。糸の縫い目をなくした一枚革とした。シフトフィーリング向上の観点から、スチール製ウエイトを入れることで前型より重量を25%増やしたという。
同じく手に触れる部分であるステアリングホイールとの統一感も意識されており、新型Z向けに新設計。グリップの断面形状はR35 GT-Rと同じだという。ステアリングは骨太でシフトは華奢だとか、ステアリングとシフトノブで触感が異なるということはなく、統一感がある。
シフトノブの握り心地はいいし、シフト(前後)、セレクト(左右)方向に動かした際のフィーリングもいい。ワイヤーではなくロッドを動かす縦置きトランスミッションに特有の剛性感がしっかりとあるいっぽうで、長時間操作していると苦になってくるような重さはないし、気になる引っかかりもない。アイドリング時にニュートラルにしているとシフトノブがブルブル振動しているのが目でわかるクルマもあるが(「それがいいんだ」という気持ちもわかる)、新型Zのシフトノブは静かに佇んで次の操作を待っている。
3.0L V6ツインターボが、イイ
エンジンがまたいい。先代ZがVQ37VHR型の3.7LV6自然吸気を積んでいたのに対し、新型ZはVR30DDTT型の3.0LV6ツインターボを搭載する。新型の最高出力は298kW(405ps)/6400rpm、最大トルクは475Nm/1600-5600rpmだ。前型はそれぞれ247kW(336ps)/7000rpm、365Nm/5200rpmである。蹴り出しに効くトルク、加速力に効く最高出力ともに大幅に向上している。
試乗車のバージョンSTを含め、19インチタイヤ装着車はリヤに前型と同じ275/35R19サイズを履く(フロントはワンサイズワイドな255/40R19を装着)。いかにワイドなリヤタイヤを装着していても405馬力はいささかトゥーマッチで、発進時に強い加速を試みると、トラクションコントロールが介入する。
タイヤのグリップ限界をパワー/トルクが上回っているのは開発側の狙いどおりで、有り余るパワーを上手にコントロールするのが、Zを乗りこなす醍醐味のひとつという考えだ。ただ、現代のクルマらしく制御によるセーフティネットで守られているので、神経を尖らせながら運転する必要はまったくない。ただ、有り余るパワーとトルクを実感しながら、快適にドライブを楽しめる。
低回転では物足りなくて、モヤモヤしながら我慢してアクセルペダルを踏み込んでいるとあるところから急に力が盛り上がってくるというような、昔のターボエンジンのような極端な振る舞いは、新型Zのエンジンはまったく見せない。太くくぐもった特有のサウンドで6気筒ターボエンジンらしさを感じさせはするが、力の湧き具合は大排気量自然吸気エンジンに近い。低い回転域で踏み込んだ際の反応がいい。
圧巻は高回転まで引っ張って加速するシーンで、7000rpmまで不快な音や振動を伴わずきれいに回るし、強い加速と、太くて抜けのいいサウンドがシンクロして陶酔感を覚える。歴代最高を目指す新型Zのコンセプトは「カッコ良くて、速くて、いい音」だそうだが、「いい音」は間違いなく、新型Zの大きな魅力のひとつだ。クルマ任せにしておくと低い回転域を使いがちなATより、ドライバーの意思で回転域をコントロールしやすいMTのほうが、いい音と濃く、深く付き合うことができる。
なお、MT仕様には、ダウンシフト時にエンジンの回転合わせをクルマ側が自動で行なう「MTシンクロレブコントロール」が装備されており、シフトレバーの左前方にあるスイッチでオンオフを切り換えることができる。この手の制御でダントツによくできているのはホンダ・シビック・タイプRで、「これならクルマ任せにしたほうがスムーズだし、気持ちいい」と感じる。
Zの場合はクルマ側がエンジン回転を上げるのを待ってから変速操作をしてあげないとギクシャクする動きが出がちだ。人それぞれかもしれないが、筆者とはリズムが合わなかった。「これなら自分で回転合わせしたほうがいいかな」と感じる人がいるかもしれない。ちなみに、5日間で約430km走り、平均車速は49km/hで、その間の燃費は11.5km/Lだった。
日産フェアレディZ version ST (6MT) 全長×全幅×全高:4380mm×1845mm×1315mm ホイールベース:2550mm 車重:1590kg サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rマルチリンク式 エンジン形式:V型6気筒DOHCツインターボ エンジン型式:VR30DDTT 排気量:2997cc ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm 圧縮比:10.3 最高出力:405ps(298kW)/6400rpm 最大トルク:475Nm/1600-5600rpm 過給機:ターボ 燃料供給:DI 使用燃料:プレミアム 燃料タンク容量:62L トランスミッション:6速MT 駆動方式:RWD WLTCモード燃費:9.5km/ℓ 市街地モード6.4km/ℓ 郊外モード9.9km/ℓ 高速道路モード11.6km/ℓ 車両価格:646万2500円 メーカーオプションオプション(イカズチイエロー/スーパーブラックの特別塗装色8万8000円)