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スポーツ自転車の本場欧州では、eBikeは主流になりつつある
「ママチャリ」が多く普及している日本で「電動アシスト」と言えば、子供乗せ自転車が主流だろう。実際に電動アシスト自転車のパイオニアはYAMAHAである。93年に「PAS」を発売し、現在までロングヒットを続けていることはご存じのとおりだ。
逆に、古くからスポーツ自転車の文化が根付いている欧州では、スポーツ自転車の電動化が早期に進み、中でもBOSCHはそのパイオニアとして初めて参入。今では、YAMAHA、SHIMANO、PANASONICなども、スポーツ自転車用の電動アシストユニットを供給している。
欧州では、2012年頃からスポーツタイプの電動アシスト自転車(=eBike)が出てきており、2018年頃には、日本にも入ってくるようになった。
ママチャリタイプの電動自転車は、前や後ろに子どもを乗せて、ふらつかずに坂道を10km/h以下くらいで走れることが目的のため、いわゆる低速トルク型。それに対してスポーツタイプの場合は長距離を速く快適に走ることが目的のため、目的に即したモーターやバッテリーが採用されている。
ペダルを回す速度をケイデンスという(エンジンの回転数のようなもの)が、ママチャリタイプの場合10rpmから30rpm(1分間に10回転から30回転)、止まった状態から出だしまででよりパワーが出るセッティングになっている。それに対してスポーツタイプ(=eBike)の場合は、70rpmから80rpmでもっともパワーが出るセッティングになっている。自転車を70回転から80回転で漕ぐのが、パワー伝達上最も効率が良いと言われているためだ。
さらにeBikeは、低速から高速まで、速度に応じてチェーン駆動の多段ギヤを駆使することで、パワー伝達効率の良いペダル回転数を保って走りやすいように出来ている。つまり、ママチャリのようなズボラな運転では良さを生かしきれない。
ちなみに日本では電動アシスト自転車は、法律上24km/hまでしかアシストができない。これはeBikeの場合も同様で、24km/hを超えた時点でアシストなしでの走行になる。そこから先の速度域で効いてくるのは、効率的に踏み込みトルクをタイヤの回転に伝えていける、自転車そのものとしての出来の良さだ。
最大駆動トルクは50Nmと85Nmの二種類をラインナップ
今回用意されたMTBは、TREK、SCOTT、ROCKY MOUNTAIN製の完成車、そして、BOSCHがプロモーション用にオリジナルで組み上げたeBikeなど。ちなみにMTBの完成車メーカーはそれぞれ本格的な競技用モデルでコンペティションに参加しているか、そうしたレースシーンでも、4年ほど前から、eBike=eMTBのカテゴリーがあるそうで、トップカテゴリーの公式戦もすでに行われているという。
MTBはサスペンションや多段ギヤなど、装備が良くなるほど速くなる。それと引き換えに車体はどんどん重くなってしまうので、eBike化はそれの打開策として人気が出てきたという経緯がある。「将来的にはMTBの50%はeBikeになるだろう」というシンクタンクの予測も出ているという
BOSCHが供給する電動アシストユニットはメインで2種類。ベースモデルが、「アクティブライン プラス」。普段使いから週末のレジャー用のモーターで、最大可能駆動トルクは50Nmだ。上級版と言えるのが、「パフォーマンスラインCX」。山道での遊びに特化したパワーのあるモデルで、85Nmの最大トルクを発揮する。
富士の麓に抱かれたテクニカルなトレイルコース
今回、試乗取材が行われたのは、中央高速河口湖インターからほど近い「トレイルアドベンチャー・フジ」という施設。テクニカルで起伏に富んだトレイルコースが多数用意され、持ち込みはもちろん、MTBやeMTBなどをレンタルして楽しむことができる本格的な専用コースだ。ICからのアクセスの良さや、富士の麓に抱かれたローケーションの良さは特に印象的だった。
さっそく、グリーン、ブルー、レッドと、3レベルに分かれたコースのうち、初心者向けのグリーンよりコースイン。MTBを初めて本格的な専用コースで体験した。
今回はeBikeの体験試乗だが、その効果を実感するため、まずは電動アシストなしのMTBでコースインする。先導のインストラクターはゆっくり走ってくれるので、付いていくのは問題ない。まずは徐々にコースに慣れていく。
トレイルアドベンチャー・フジは、コース全体の面積がそこまで巨大という印象ではないけれど、自然の地形を活かしながらよくここまで作り込んだと思えるような、バラエティに富んだレイアウトが楽しい。タイトコーナー、多くのバンプ、スピードの乗るコーナーなど、あらゆるシチュエーションが楽しめる。
コースの種類やルートが多いので、しっかり走り込んで攻略法をマスターしていくと、さらに楽しみが広がるだろう。今回は「走り込む」というところまではいかなかったが、コースを覚え、調子に乗ってペースアップしてきた頃がキケンそうだな、とも感じだ。MTBには転倒はつきものだし、運動不足の中年初心者ライダーにとって、無理は禁物だろう。
電動アシストなしMTBでも、軽快だし、十分に楽しい。ただ、コースの高低差がわりと大きいため、登り勾配を繰り返していると、けっこう身体に堪える。ちなみに本格MTBはハンドル幅が非常に広く、タイトコーナーなどで操作がしづらい。上級者のダウンヒルには抑えが効いて最適だろうが、初心者のスロー走行には、もう少し細幅の方が扱いやすいと感じた。
続いて、電動アシスト付きMTBに乗り換えてみる。軽い、楽チン、ちょっとした登り勾配をものともせずに登っていく。これは感動! 電動アシストユニットはアシストモードを切り替えられるが、「パフォーマンスラインCX」に付いている「EMTB」モードが、今回のような“にわか”ライダーには非常に便利だ。にわかライダーの場合、自転車自体やコースや、シフト操作など、走りながら覚えて操作しなければいけないことが多い。EMTBモードは走行状況に合わせて最適なアシスト量を自動的に判断してくれるから、たとえばタイトコーナーで踏み込んだときなどに、トルクがかかり過ぎてオーバーランということ状況もかなり防いでくれることがわかった。
電動アシストが付くと当然重量が増すわけで、スポーツライドには少なからずネガがありそうだが、新発見だったのは、そうしたネガをそれほど感じなかったことだ。MTBは、フレーム、タイヤ、サスなど、元々ある程度の重さや強さが必要で、さらに重さが増したところで、大した悪さをしないのかもしれない。ロードレーサーとは目的が違う。
電動アシストなしMTBで3周走れたとすると、アシスト付きなら5周か6周楽しめる。多くの中年ライダーにとっては、より優しく、よりたくさん楽しめる心強い味方であることは間違いないだろう。
もう一点、BOSCHデモカーに装着されていた電動シフトや電動シートポストなど、電動アシスト車は上級装備との親和性も高く、“お高く”なるという欠点はあるものの、所有欲を満たす、自分だけの「いいバイク」を組み立てやすい。そうした意味でも、多くのファンを惹きつけているのだと感じた。