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95年9月に開催されたフランクフルトモーターショーで、熱狂的な来場者に向けてスタディモデルを発表
90年代半ば、ラグジュアリーサルーンのA8が発売され、ブランドのポジショニングを高めると同時に、モデルシリーズの名称が徐々に変更され、80はA4に、100はA6となった。94年に導入されたA4は、アウディの新しいデザインランゲージを具現した最初のモデルだった。続く96年には、プレミアムコンパクトモデルのA3が導入され、97年には第2世代のA6が発売。新鮮かつ進歩的なデザインでアウディファンを拡大するなかで、米国人デザイナーのフリーマン・トーマス氏は、当時のデザイン部門責任者であったペーター・シュライヤー氏の指揮のもと、純粋なスポーツカーであるTTクーペをデザインした。
アウディは、95年9月に開催されたフランクフルトモーターショーで、熱狂的な来場者に向けて、このスタディモデルを発表。モデル名のTTは、1907年に初開催された世界で最も古いモータースポーツイベントのひとつであり、NSUとDKWが大きな成功を収めた伝説的なモーターサイクルレース、マン島TT(ツーリスト・トロフィー)レースを連想させる。さらにTTという名称は、60年代のスポーティなモデル NSU TTも想起させる。TTクーペが、その当時のアウディのネーミングのルールを意図的に採用しなかったことは、このモデルの斬新さを強調することが目的だった。
「TTはすべての形状に明確な機能を備えている」
95年12月、TTクーペの量産が決定した。アウディのエクステリアデザイナーで、スタディモデルから市販モデルへの移行に携わったトルステン・ヴェンツェル氏は、次のように回想している。
「市販モデルへの移行に際しては、プロポーションを含む数多くの技術仕様を細かく調整する必要がありました。市販モデルが発表されたとき、メディア各社は、スタディモデルからデザインが大きく変更されていないことを高く評価しました。これは私たちデザイナーにとって、最高の賛辞となりました」
最も顕著なデザイン変更は、リヤサイドウィンドウが設定されたことで、モデルの印象が長くなり、スポーツカーとしてダイナミックに見えるようになった。ヴェンツェル氏にとってTTは「最高品質のボディとラインを備えた走る彫刻作品」そのものだった。「TTのボディは、ひとつの大きな塊から削り出されたように見え、従来のバンパーオーバーハングのないフロントエンドが、そのクリアなフォルムを強調しています」と彼は説明している。
TTクーペ独自のシルエットを形成しているもうひとつのデザイン要素は“円”。ヴェンツェル氏によると、円は「完璧なグラフィック形状」であると言う。このスポーツカーのエクステリアおよびインテリアデザインには、数多くの円形の要素が採用されている。バウハウスにヒントを得たTTのすべてのラインには目的があり、すべての形状には機能がある。「アウディデザインは、常に“レス・イズ・モア(less is more)”の哲学に従っています。TTクーペのデザインでは、本質的なところまで削減することによって、このクルマ特有のユニークなキャラクターを引き出しています。これは、私たちデザイナーにとって大きなチャレンジであり、特別な仕事でした」
1年にふたつの記念日:アウディハンガリーとAudi TT、同時に誕生を祝う
TTクーペは98年に生産が始まり、その1年後にTTロードスターが導入された。TTスタディモデルや、96年に発売されたA3と同様に、このスポーツカーはフォルクスワーゲン・ゴルフIVの横置きエンジンプラットフォームをベースにしていた。
TTは、当初からハンガリーのAudi Hungaria Motor Kft(アウディハンガリー)で生産された。ボディはアウディAGの本社工場であるインゴルシュタットで塗装され、ひと晩をかけてアウディハンガリーの拠点ジェールまで鉄道で運ばれ、そこで最終組み立てが行われた。インゴルシュタットとジェールのふたつの拠点で生産するという方式は、当時の自動車業界ではユニークなものだった。アウディAGの完全子会社であるアウディハンガリーは今年で30周年を迎える。
93年2月に設立されたアウディハンガリーは、当初はエンジンのみを製造する工場だったが、98年にインゴルシュタット工場と連携してTTの組み立てに着手。そして13年、同社は本格的な自動車工場へと進化した。アウディハンガリーは創業以来、4300万基以上のエンジンと200万台近くの車両を製造してきた。
第1世代のTTは、幅広いエンジンラインナップを備えて、当然のことながら非常にスポーティなモデルだった。例えば初代TTには、150~225psの最高出力を発生する直列4気筒ターボエンジンに加え、250psを発生するV型6気筒エンジンが搭載されていた。
エンジンラインナップのハイライトは、240psに強化されたTTクワトロスポーツの4気筒エンジンで、1168台が販売された。初代TTのカスタマーには、数多くのオプション装備の選択肢が提供された。パパイヤオレンジやノガロブルーといった専用カラーに加えて、工場オプションの特別なアクセサリーを装備することができた。例えば、TTロードスターのレザーシートに設定された「ベースボールグローブ」デザインは、当初はショーモデル用に開発されたものだったが、市販モデルにも採用。初代TTクーペは06年半ばまでの8年間で17万8765台が、初代TTロードスターは99年から06年の間に9万733台が生産された。
ラインナップが拡大され第2世代からは直5ターボを積む「TT RS」が登場
第2世代のTTで、デザイナーは「シンプルで本質的なデザインの追求」を基本的なデザイン要素として継承した。この原則は、例えばエクステリアのミニマルなデザインや洗練されたドライバー志向のインテリアに明確に表現されている。丸みを帯びたフォルムと円形のモチーフは典型的なTTのデザインであり、エクステリアとインテリアのデザインを統一する要素でもあった。その一例が、燃料タンクキャップ、円形エアベント、ギヤシフトの縁取り、特徴的なシフトノブなどだ。
この第2世代のTTは、クーペが2006年、ロードスターが2007年に発売。第2世代のA3のプラットフォームがベースとなっていた。このモデルでは、アウディマグネティックライドを備えたアダプティブダンパーを初めて採用。オプション設定されたこのテクノロジーは、ショックアブソーバーを路面状況とドライバーの運転スタイルに合わせて、連続的に可変することが可能だ。
08年には、272psを発生する2.0ℓ直列4気筒ターボエンジンを搭載したスポーツモデル「TTS」が発売され、さらにその1年後には340psを発生する2.5ℓ直列5気筒ターボを搭載した「TT RS」と、出力を360psに引き上げた「TT RSプラス」が追加された。また08年には「TT 2.0 TDIクワトロ」を発売。これは世界で初めてディーゼルエンジンを搭載した市販スポーツカーとなった。
軽量化が施された第3世代のTTは14年に発売。2.0 TFSIエンジンと6速MTを搭載したTTクーペの重量はわずか1230 kgで、先代モデルよりも最大50kg軽量化された。新型TTおよびTT RSの開発にあたり、デザイナーは98年に登場した初代TTの特徴的なラインを現代的に再解釈。典型的な丸い燃料タンクキャップは、世代を超えて受け継がれた。このモデルでは、数多くの詳細なプロフィールも、第1世代のクラシックなデザインを意図的に想起させるように開発された。
第3世代のTTは技術的にいくつかの革新をもたらした。例えば、アナログメーターとMMIモニターに代わり、非常に精細で多用途なディスプレイを備えたフルデジタルメーター「アウディバーチャルコックピット」を初めて採用。そして16年、高性能モデルTT RSの発売とともに自動車のライティング技術の新時代が始まった。アウディは、このTT RSのテールライトにOLED(有機発光ダイオード)を初めて採用したのである。
エンジンラインナップも、発売当初の最上位モデルは310psを発する2.0ℓ直4ターボを搭載したTTSから始まり、16年には、アウディが誇る最もエモーショナルな2.5ℓ直5ターボを搭載したTT RSまで印象的なモデルが続いた。400ps/480Nmを引き出すこの直5ターボはスポーティなサウンドを特徴とし、「インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー」を9回連続で受賞している。
アウディは2023年のアニバーサリーイヤーを祝うために、TTの四半世紀にわたるデザインとテクノロジーのハイライトを結集し、ナルドグレーを纏った100台限定の特別な「TT RSクーペ・アイコニックエディション」を発表している。