1万3000ccの直6SOHCターボディーゼルで530ps/265kgmのモンスターに乗る! 最新大型トラック「Quon(クオン)」のパワーを体感!【UDトラックス試乗記・前編】

日本の物流を支えるトラック。小は軽トラックから大は大型トレーラーまで、日本全国を所狭しと走り回っている。軽トラやトン、4トン車くらいまでであれば街中でもよく見かけるし、自動車免許を持っていれば運転する機会もあるだろう。しかし、大型免許、まして牽引免許が必要な大型トラックやトレーラーを運転する機会はなかなかあるものではない。モータージャーナリストの大音安弘氏がそんな大型トラックを試乗! UDトラックスの最新フラッグシップモデル「Quon(クオン)」のスゴさに迫る!
PHOTO:大音安弘

日本の物流を支えるトラックに、UDトラックスの6×4トラクターが、今春、13年振りに復活を果たした。それがフラッグシップトラクター「クオンGW(6×4)」だ。
今回は、そのトラクターに、クローズドコースで試乗できるということで、中型自動車運転免許(8トン限定)を所持するものの、全くトラックの運転をしたことのない筆者が体当たりでトラクターに挑戦してきた。

日産ディーゼルからボルボ、そしていすゞ……UDトラックスの歴史
そもそも「UD」って何?

まずはUDトラックスについて、簡単に紹介したい。その創業は、1935年まで遡り、設立時は「日本デイゼル工業」を名乗った。その後、幾度か会社変更しているが、1960年に日産自動車傘下となったことで、お馴染みの「日産ディーゼル工業」に。2007年にスウェーデンの「ABボルボ」に売却された後、2010年から「UDトラックス」を名乗るようになった。

UDトラックスのエンブレム。「UD」は日産ディーゼル時代からの名称だ。

しかし、なぜ「UD」なのだろうか?そもそも日産ディーゼル時代から、UDのエンブレムが使われてきた。その理由は、同社のエンジンにある。
1955年に開発した高性能エンジンの名称が「UDエンジン」で、ユニフロー掃気ディーゼルエンジン(Uniflow scavenging Diesel engine)の頭文字を取ったものだった。ハイパワーな2サイクルエンジンの強みを活かしつつ、単流掃気方式を採用することで、排気効率の改善と低騒音化。さらに小型軽量化まで成し遂げた。

2サイクルディーゼルは大型モビリティの機関に最適で、陸上自衛隊の74式戦車も2サイクルディーゼルを採用している。また、船舶用の大型機関としては今もなお現役だ。(PHOTO:貝方士英樹)

陸上自衛隊:油気圧式サスで姿勢を変える「74式戦車」、日本の戦車乗りを育てた名戦車は退役中

前回は90式戦車を紹介したが、今回は時代を遡ってその前代にあたる74(ナナヨン)式戦車を見てみたい。油気圧式懸架装置(サスペンション)をその脚周りに取り付け、前後左右、自在に姿勢を変える。地形に合わせて潜み迎え撃つ姿は独特の凄みがある。マニュアルの操作系で日本の戦車乗りを育て、現在退役が進む。 TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

もちろん、2サイクルディーゼルエンジンは、時代の流れで姿を消すが、その後も高性能エンジン車の証として、UDのマークが車体に付けられており、その名が会社名となった。

ヘッドカバーに「UD」のエンブレムが輝くクオンのエンジン。

人気の6輪4WDの「6×4」モデルがUDトラックスに復活!

そのUDトラックスだが、元々は大型トラクターを得意としており、特に輸送力の高い6輪の4輪駆動車である「6×4」の人気が高かったが、当時の親会社ボルボのモデルとの競合を避けるべく、惜しまれつつも展開を終了していた。
しかし、2021年にいすゞ傘下となったことで、「いすゞギガ」との共有化が図られ、再び6×4モデルが投入されることになった。これが今回の「クオンGW(6×4)」復活の簡単なストーリーである。

このトラクターヘッドだけで全長6915mm×全幅2490mm×全高3375mmの巨大サイズ。

クオンGWのボディサイズは、全長6915mm×全幅2490mm×全高3375mm。もちろん、トラクターヘッドだけの大きさであり、モンスターと呼びたくなる迫力を放つ。
ちなみに、私が最近乗った一番巨大なクルマは、ピックアップトラック「ジープ グラディエーター」であるが、その5600mmの全長が可愛く思えるほど。

ジープ・グラディエーター。右のラングラーと比べてその長さの違いは歴然。しかし、クオンのサイズは比べものにならない。(PHOTO:FCA)

更なる衝撃はエンジンの巨大さで、エンジンとトランスミッションの組み合わせだけで、大型バイク並みの大きさなのだ。
搭載されるGH13TCエンジンは、なんと13L(1万3000cc)の直列6気筒SOHCインタークーラーターボディーゼルで、最高出力530ps(390kW)/1431~1700rpm、最大トルク2601Nm/990~1431rpmを発揮する。
仕事柄、高出力のスーパーカーをドライブすることもあるが、流石に4ケタのトルクを出す乗り物なんて初めてだ。

GH13TC型13L直列6気筒SOHCインタークーラーターボディーゼル。
タービンはボルグワーナー製を装着。
エンジンに連結されるトランスミッションは12段電子制御式トランスミッションの「ESCOT-Ⅶ」。

フラッグシップにふさわしいエクステリア

UDトラックスのフラッグシップモデルだけに、高級感溢れるクロームメッキグリルが奢られる。ボディカラーは、シブいガングレーメタリックだが、これはPR車両のために用意された特別色だそう。標準車は白となるが、顧客のオーダーに合わせて、様々な色が塗装可能とのこと。もちろん、このガンメタをオーダーすることもできるそうだ。

そのクオンGWに乗り込むべく、大きなドアを開く。身長170cmちょっとの私の視線でも目に入るのは、運転席の足元だけ。巨大なクオンGWに乗り込むためには2段ものステップを登ることが必要。そのため、ドア開口部の左右に、巨大な手すりも備わる。うっかり足を滑らせたら、怪我にも繋がる高さだ。毎日、何度も乗降するトラックドライバーにとっては、これだけでもひと仕事だろう。

運転台は非常に高い。シート座面が目線の高さくらい。
フロントグリルを開いた状態。

ちなみに、フロントグリル上にあるパネルは、開閉が可能で、ウォッシャー液のタンクなどがある。その奥には、巨大なエンジンが鎮座する。そのメンテンスのために、「キャブチルト」と呼ぶ機能が備わり、スイッチ操作ひとつでゆっくりとキャビンが持ち上げられていく光景は、圧巻だ。

キャブチルトのスイッチレバー。
キャビンがゆっくりと持ち上がる。
エンジンルームが全開に。

快適なキャビンと各種ドライバーエイドが安全な運行をサポート

寝かされたステアリングこそ“トラック”を感じるが、全体的なデザインはスポーティで乗用車ライク。オーディオスペースはDINサイズが2つ。用意された車両はCDラジオが装着されていた。

ドライバーを支える運転席は、サポート性の良いスポーティなデザインのもの。試乗車は、シートにもエアサスが備わり、乗り味を調整できた。運転席周りは、メーターパネルやエアコン、CDラジオなど乗用車のお馴染みの装備に加え、様々なスイッチが備わっており、まさにプロの仕事場という雰囲気。

シートのデザインもスポーティ。シート後方は仮眠のためのベッドスペースになっている。

巨大なキャビンは2名乗車仕様なため、助手席との距離もあり、かなり広々。そして、前席の後ろには、仮眠用のベッドスペースがあり、ドライバーの荷物置き場や休憩場所として利用される。

意外とシンプルなメーター。中央にはカラー液晶のマルチディスプレイが配置されている。その下がモノクロのサブディスプレイ。
アイドリングストップOFFなどの各種スイッチ類がメータークラスター左右にまとめられている。写真は右側。

運転機能に話を戻すと、ステアリング周りでは、左側レバーには、回転式のワイパー操作機能に加え、トラックに必須となる補助ブレーキ操作が備わる。

シフトレバーとその後方はパーキングブレーキ。写真中央上には24V5Aのコンセント、12Vソケット、シガーライター。その下にはETC車載器がビルトインされている。
ワイパーレバーには補助ブレーキの操作系も集約されている。奥にはさまざまなスイッチが並ぶ。

これはトラックやバスが下り坂などで、フットブレーキを多用することで生じるフェード現象を防ぐべく、エンジンブレーキと兼用して使うブレーキ機能のこと。クオンGWの補助ブレーキは、排気ブレーキに加え、大容量流体式リターダーが装備でき、エンジンブレーキ(1495Nm)の約2倍となる3250Nmのブレーキ効力を発生できる。

もちろん、エンジンブレーキを兼用できるので、かなり強力な減速力となることが分かるだろう。乗用車には必要ないが、多くの人や荷物などを安全に運ぶバスやトラクターの必須アイテムなのだ。今回は、その補助ブレーキの操作と調整を体験できたのも、ちょっとした収穫だった。

さて次回は、このモンスターとのドライブに挑むのでお楽しみに……。

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著者プロフィール

大音安弘 近影

大音安弘

1980年生まれ、埼玉県出身。幼き頃からのクルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後…