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100%カーボンニュートラル燃料(CNF)が復帰のトリガー
ホンダが2026年からエンジンサプライヤーとしてF1に復帰する。パートナーはイギリス・シルバーストンに本拠を置くアストンマーティンだ。ホンダが開発したパワーユニットを単にチームに供給するカスタマー契約ではなく、アストンマーティンが設計するシャシーに合わせて専用にパワーユニットを設計するワークス契約を結んだ。
5月24日11時からHonda青山ビルで行なった記者会見の場で三部敏宏社長(本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長)は、2026年に導入されるF1の新しいレギュレーションが復帰の決断を後押ししたと説明した。「自分たちの技術を正面からぶつけられる」と。
2026年に導入されるF1の新しいレギュレーションは、100%カーボンニュートラル燃料(CNF)の使用を義務づける。また、電動化の比率が大きく高まるのも特徴だ。現在はシステム総合出力のうちおよそ8割がエンジン、2割をモーターが占めるが、26年からはエンジンが5割、モーターの出力が大きくなって5割になる(1.6LV6直噴ターボエンジンを搭載することに変わりはない)。
この枠組みは、電動化を中心にホンダが進めるカーボンニュートラルへの取り組みと合致するというわけだ。三部社長は、「電動フラッグシップスポーツを含め、これからのホンダの電動車技術に生かせる」と評価する。また、現在研究開発を進めているeVTOL(電動垂直離着陸機)の開発にも生かせると説明した。
ホンダは電動化技術の開発を進めるいっぽうでエネルギーマルチパスの観点からCNFの研究開発に取り組んでおり、この点でもF1が進む方向性と合致する。CNFの開発技術はSAF(持続可能な航空燃料)に転用が可能な点も歓迎しているようだ。
実質的に2015年からF1活動は継続している
ホンダはマクラーレンにパワーユニットを供給する形で2015年にF1に復帰した。2018年にトロロッソ(現アルファタウリ)に供給先をスイッチすると、2019年にレッドブルをパートナーに加え、この年のオーストリアGPで復帰後初優勝を果たしている。ところが、電動化を中心としたカーボンニュートラルに開発のリソースを振り向けることを理由に、2020年に2021年シーズン限りでの撤退を発表する。
2021年には計画を前倒しして開発した新骨格エンジンを投入したのが功を奏し、レッドブルのマックス・フェルスタッペン選手がドライバーズチャンピオンを獲得。これをもって、「ホンダ」としての公式的なF1参戦活動は終了した。しかし以後も、ホンダが開発したパワーユニットはレッドブルのマシンに載っている。
2022年以降はパワーユニットコンストラクターのレッドブルパワートレーンズ(RBPT)に対し、ホンダのモータースポーツ活動を一手に担う株式会社ホンダ・レーシング(HRC)が技術支援を行なっている。RBPTのパワーユニットは実質的にホンダ製だ。2022年はレッドブルがコンストラクターズタイトルを獲得、フェルスタッペン選手が2年連続でドライバーズタイトルを獲得した。2023年シーズンは昨シーズンを上回る勢いで両チャンピオンシップをリードしている。
アストンマーティンF1チームとは?
F1コンストラクターとしてのアストンマーティンは、レーシング・ポイント(その前身はフォース・インディア、そのまた前身はジョーダン)を買収することで、2021年に誕生。ローレンス・ストロール会長の肝いりでファクトリーの近代化を進めているところだ。会見に出席したストロール会長は、「ホンダはモータースポーツの巨人であり、我々とは多くの共通項がある」と語り、次のように続けた。
「それは“勝利への情熱”だ。レースはホンダのDNAだが、アストンマーティンも同じDNAを持っている。我々にとってホンダは、チャンピオンを獲るための最後のピース。ワークスのパワーユニットを手に入れることは重要な一歩となる。ホンダのワークス・パワーユニットで成功を収めることを心から楽しみにしている」
メルセデスAMGのパワーユニットを搭載するアストンマーティンは今季、ローレンス氏の息子ランス選手とフェルナンド・アロンソ選手のコンビでシーズンに臨んでおり、アロンソ選手が5戦中4度の3位表彰台に上がるなど好調を維持。第5戦終了時点でレッドブルに次ぐコンストラクターズ選手権2位につけている(つまり、メルセデスやフェラーリより上位)。
2026年に誕生するアストンマーティン・アラムコ・ホンダ(アラムコはタイトルスポンサー)については、アストンマーティンが車体の設計・開発とチーム運営を行ない、HRCがパワーユニットの開発を行なう。2026年に導入される新しいレギュレーションは厳しいコストキャップが課されており、かつてのような金食い虫ではなくなっているのもホンダのF1復帰を後押しした要素のひとつ。
「長期的な継続が容易」だと三部社長。かつては、F1はF1、量産車は量産車で技術はかけ離れていたが、2026年以降は電動化技術に関し「F1のテクノロジーをダイレクトに量産車に生かしていきたい」と意気込みを語る。ホンダの新たな挑戦に期待したい。