ホンダ・シビック タイプR 「+R」ボタンで歴代最高の走りへのこだわりを実感できる

ホンダ・シビック タイプR 車両価格:499万7300円
ニュルブルクリンク北コースFF最速の座を奪還したシビック タイプR。人気も評判も上々(というか歴代最高?)のFL5シビック タイプRをワインディングと街中で試した。「+R」モードの実力やいかに?
TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi)PHOTO:Motor-Fan.jp

まずはルックスに好感

フェンダーの張り出しが、タダ者じゃない感を醸し出している。ボディカラーはチャンピオンシップホワイト

シビック タイプRの評判は良い。サーキットでも街乗りでも、幅広くこなしてくれて、出来がいいと多くの関係者が口を揃える。

正直、先々代でエンジンがターボ化された時には、それまでの切れ味鋭い自然吸気エンジンの良さを失ってしまったばかりではなく、フィーリングにホンダらしさが感じられなかった。力(パワー)は出ているけれど、ちょっと粗い。その粗さが馴染んでくると、クルマと格闘しているようで、走り好きにとっては妙な快感に移っていくが、すぐにため息に変わる。ひと言で言うなら、じゃじゃ馬的乗り味。外観も派手でドン引きした。

これが先々代シビック タイプR
確かに派手ではある。
型式は6BA-FL5

それから二世代の時を経て、磨きをかけた。見た目はどうだ。低くワイドなプロポーションとサイドに伸びる水平基調のキャラクターは地にへばりつくような安定感を見せるし、モリッと膨らんだワイドフェンダーは高いコーナリング性能を期待させるし、見た目の上での高揚感も大きい。

今まで気になっていた大ぶりなリヤスポイラーも細身な上に曲線美を帯びた空力フォルムでボディに馴染む。ドン引きした当時の面影はまったく感じられないのだ。これなら我々おじさん世代でも遠慮なく近寄れる。願わくばサーキットを走ることの少ない世代にとっては、リップスポイラーぐらいに止めてくれるとありがたいが、そこはホンダを代表するスポーツモデル、甘んじて受けるのが潔いだろう。

全長×全幅×全高:4595mm×1890mm×1405mm ホイールベース:2735mm 最小回転半径:5.9m 最低地上高:125mm
トレッド:F1625mm/R1615mm
車両重量:1430kg 前軸軸重890kg 後軸軸重540kg
大きなリヤスポイラーだが、後方視界はまったく遮らない。
タイプR専用シートのホイールド性も優れている。

スポーツモードで充分だが「+R」は驚異的

走りは鮮烈だ。

で、その走りだ。

サーキットでは旋回トラクションの高さと、ライントレース性の良さによって、ビビることなくコーナーに飛び込める。数周に及んで好ラップタイムを刻んだことで実感済み。聞くところによると熱対策も大きな課題だったらしく、ボンネットに開けたエアダクトは、メーカーとしては大英断だったとのこと。あのホンダがまさか、と思うが気合いはあっても品質管理に関しては極めて高いハードルがあるらしい。結果、高い品質と熱対策を両立。暑い盛りの鈴鹿を1日走り続けられたのだから大したものだ。

エンジン 形式:直列4気筒DOHCターボ 型式:K20C 排気量:1995cc ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm 圧縮比:9.8 最高出力:330ps(243kW)/6500rpm 最大トルク:420Nm/2600-4000rpm 燃料供給:DI

今回は街乗りだ。

ワインディングでの試乗はすでに済ませ、市街地でトボトボ走る。シフトはS660のように小気味良くゲートに吸い込まれ、手応えは軽めながらもしっとりと滑らか。手首のスナッチというより、手のひらの返しだけで吸い込まれるような扱いやすさで、ハードさは微塵もない。

加減速中の振動も少なく左右の揺れもないことから、パワーを最大限にかけていっても、シフトゲートに跳ね返されることがなく、加速態勢を維持できる。

当然DCTのように2ペダルではないから、クラッチワークや操作領域の大きさは否定できないが、各操作系の軽さと正確さが、高い精度で仕上がっているので不満は皆無。むしろ、リズムに乗ってドライブする楽しみが味わえて新鮮でもある。

街中ドライブでもシフトワークを無駄に楽しんでしまったり、加減速の力強さに息をのんだり、身近で安全に大パワーを実感できる。

乗り心地は見た目の洗練さ同様に磨きがかかっている。カドがなくてボディが揺れない。コーナーでもワイドトレッドの期待通りロールも少ない。ロールはするけどボディ全体が沈み込むような落ち着いたもので、へばりつくような乗り味。

前後方向の動きも小さく、段差の乗り越えも前後が一体となって上下に小さく動いてピタリと押さえ込む。ボディのしっかり感と前後サスの連携が良くて、足元の動きだけで力を包み込んでしまう。だから、姿勢の変化は少なく硬めなはずなのに、カドのなさと相まって”タイプR”という荒々しさは感じない。スッキリとした乗り味は、欧州車的に言えば粗さが感じ難く快適だ。

このモデルから寄居工場製となってボディは一段と強靱化している。リヤサス周りの作り込みを徹底的にこだわったことで一体感ある乗り味が生まれたと思う。手の込んだフロントサスにおいては旋回中の接地感を極めて、タイトターンから高速コーナーまで高い旋回トラクションをキープ。バブルの頃の日産プリメーラを思い起こさせた。

「+R」を選ぶと、メーター表示はこうなる。

選べる走行モードで「+R」を選べばサーキットでのハイグリップタイヤに対応できるほど、足元が締まり、ワインディングでは少々オーバーワーク気味。パワーをかけていくとフロントタイヤは遠慮なく路面を蹴り続けて、ステアリングもセンター付近に急激に引き寄せられる。接地性の高いフロントサスが最大パワーを効率良く受け止めることで、直進力が強まりドライバーはその反力と格闘する事になる。

足元の動きも抑制されるから、路面の凹凸のひとつひとつをステアリングに伝え、それを押さえ込むことに苦労する。街乗りやサーキットでは路面変化による影響を受けにくく扱いやすかったが、曲率や勾配が複雑なワインディングになると、途端にFF大パワーの路面蹴り出し力に圧倒されてしまう。やはり、シャシーの進化とパワーアップは只者ではなく、その進化を+Rでは遠慮なく演出した。これが本来持つ、最新でホンダを代表するスポーツモデルの、速さを極めたポテンシャルだったのだ。

ドライブモードセレクターで「ECO/COMFORT/SPORT/INDIVIDUALl」が選べる。その上に「+R」ボタンがある。

普段はそんな素振りも見せないが、このボタンひとつで歴代最高の走りへのこだわりを強く実感。走り好きの自分にとっても走行モードはSPORTで充分に満足でき、真のポテンシャルの高さには舌を巻いてしまった。

街乗りでは誰にでも満足できる快適性と走りの良さの両立を見せてくれたが、タイプRが本気を出すとその実力は奥が深く、攻め甲斐もある。上質な走りと同時に志の高さは極めてホンダらしく、今では唯一無二の存在。ドライバーにとっては最大のプレゼントだ。

日常使いからサーキットアタックまで広く使える最新タイプRは、乗るほどにその魅力に取り憑かれてしまいそう。こんなスポーツモデルなら、とことん付き合ってみたくなった。ニュルブルクリンクFF最速の称号を奪還したとのニュースも、そのポテンシャルから納得だ。

ホンダ・シビック タイプR 
全長×全幅×全高:4595mm×1890mm×1405mm 
ホイールベース:2735mm 車重:1430kg 
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/R マルチリンク式 
駆動方式:FF 
エンジン 
形式:直列4気筒DOHCターボ 
型式:K20C 
排気量:1995cc 
ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm 
圧縮比:9.8 
最高出力:330ps(243kW)/6500rpm 
最大トルク:420Nm/2600-4000rpm 
燃料供給:DI 
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:47ℓ 
トランスミッション:6速MT
WLTCモード燃費:12.5km/ℓ 
 市街地モード 8.6km/ℓ 
 郊外モード 13.1km/ℓ 
 高速道路モード 15.0km/ℓ
車両価格:499万7300円

キーワードで検索する

著者プロフィール

瀨在 仁志 近影

瀨在 仁志

子どものころからモータースポーツをこよなく愛し、学生時代にはカート、その後国内外のラリーやレースに…