新型トヨタ・クラウンセダンのターゲットは「B to G」同じFCEVのMIRAIはより「パーソナル」な方向へ

スーパー耐久シリーズ第2戦の富士24時間に現れた新型クラウンセダン。左ハンドルの実車である。
「ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 第2戦 NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース(富士24時間)」が行なわれた富士スピードウェイのイベント広場には、カーボンニュートラルをテーマにした車両や技術が数多く展示されていた。その一角に展示されていたのは、トヨタMIRAI(ミライ)スポーツコンセプトとクラウンセダンである。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

クラウンセダンの狙いは公用車?

奥がMIRAIスポーツコンセプト、手前がクラウンセダン。2台が並べられるには理由がある。

2022年7月のワールドプレミアをはじめ、過去に公開されたクラウンセダンはデザインモックアップだった。富士スピードウェイに展示されたクラウンセダンは実車(左ハンドルの輸出仕様)で、世界初公開となる。MIRAIスポーツコンセプトも世界初公開だ。

クラウンのワールドプレミアではクロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートの4タイプが公開された。このうち、クロスオーバーは2022年に発売。スポーツは2023年にプロトタイプが公開され、メディアに試乗の機会が与えられた。第3のクラウンがセダンというわけである。

セダンとはいえ、ファストバック風のリヤ。ただし、しっかりトランクは用意されている(ハッチゲートではない)。
クラウンセダンの全長×全幅×全高は5030×1890×1470mm
クラウンセダンのヘッドランプはクロスオーバーと同様に4眼のLEDがDRLの下に配置される。

クラウンセダンがMIRAIスポーツコンセプトと並んで展示されていたのには意味がある。まずMIRAIスポーツコンセプトについて説明しておくと、オリジナルのMIRAIに対して「よりパーソナルな方向にキャラクターを尖らせてFCEV(燃料電池車)の新たな可能性を追求する」コンセプトをもとに仕立てられた。フロントバンパーとリヤバンパー、ホイールのデザインをスポーティに仕上げているのが特徴だ。その効果はてきめんで、精悍でスポーティなルックスを手に入れている。

MIRAIをパーソナルに振ったのにはワケがあり、それが、クラウンセダンと並んで展示されている理由だ。クラウンスポーツにはHEV(ハイブリッド車)とFCEVの2種類のパワートレーンが設定されているが、展示車両はFCEVだ。水素を燃料にして発電を行なう燃料電池はフロントに搭載し、リヤに搭載するモーターで後輪を駆動するパワートレーンのレイアウトはMIRAIから流用している。つまり、クラウンセダンはMIRAIから派生したバリエーションと捉えることもできる。

MIRAIスポーツコンセプト

MIRAIスポーツコンセプト
MIRAIスポーツコンセプト
これが市販版のMIRAI
MIRAIスポーツコンセプトは、より精悍な印象だ。
MIRAIスポーツコンセプトは、ミシュランのスポーツタイヤPILOT SPORT S⁵を履く。サイズは245/40R21。

クラウンセダンという新たなバリエーションを生み出すことによって、MIRAIをパーソナルな方向に振ることができるようになった。では、クラウンセダンのテーマは何かといえば、それはフォーマルだ。フォーマルで王道のセダンを狙った。

クラウンセダンの全長×全幅×全高は5030×1890×1470mm、ホイールベースは3000mmである。MIRAIのボディサイズは4975×1875×1470mm、ホイールベースは2920mmだ。クラウンセダンのホイールベースが80mm長いのがポイントで、延長した80mmはすべて後席の居住性向上に充てたという。足元がこぶし1個分ほど広くなっていることになる。

クラウンセダンの後席。確かに足元の余裕は大きそうだ。

トヨタはクラウンセダンの想定ユーザーとしてB to G(Business to Government:行政、自治体を相手にしたビジネス)を考えている模様。政府、自治体の公用車がターゲットだ。さらには、法人向けやハイヤーの需要を見込んでいる。

いずれ役所に水素ステーションが整備されるようになれば、FCEVとの親和性は高くなる。公用車は離れた場所にある水素ステーションに出向いて給水素する必要はなく、自らの拠点で走行に必要なエネルギーの充填することが可能。そうなれば、給水素の手間に頭を悩ませる必要がなくなる。

新型クラウンセダン。開いた窓から室内を覗き込んでみたところ、インテリアのデザイン構成はクラウンクロスオーバーと共通のようだ。
後席重視でショーファードリブンのニーズに対応する

開いた窓から室内を覗き込んでみたところ、インテリアのデザイン構成はクラウンクロスオーバーと共通のよう。クロスオーバーはインストルメントパネルからドアトリム、センターコンソールにかけてモダンな仕立てとしているが、セダンは木目も鮮やかなウッドをあしらっており、より落ち着いた印象だ。

前席のシートスライド位置が確認できなかったので断言はできないが、ホイールベース延長分の80mmをすべて後席の居住性向上に使っているというなら、足元空間が広くなっているのは間違いない。ただし、高圧水素タンクを搭載している都合上、センターコンソールの存在感が強めなのはミライと同じ。乗車定員は5名だが、後席中央の乗員は足の置き場に困りそう。後席中央は実質的に非常用になるだろう。

パーソナルなMIRAIスポーツコンセプトとフォーマルなクラウンセダンが並べて展示されていると、2車のキャラクターの違いがよくわかる。クラウンセダンは2023年秋頃に発売が予定されているが、MIRAIスポーツコンセプトに関しては何の情報も開示されていない。反応が良ければ量産化に一歩近づくということだが、果たして……。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…