世界の道を制覇したグループA&グループBの王者! ランチア 「デルタHFインテグラーレ16V」「ラリー037」で、公道を走るレーシングカーを日常でも楽しむ!

「ランチア」……それはラリー好きからしてみたら憧れの存在である。古くは「フルビア」「ストラトス」に始まり「ラリー037」や「デルタS4」のグループB、そして「インテグラーレ」を筆頭にした「デルタ」シリーズ……いずれもWRC(世界ラリー選手権)で活躍した珠玉のマシンだ。しかも、同じくランチアの名を掲げサーキットで活躍した「ベータモンテカルロ(グループ5)」や「LC1(グループ6)/LC2(グループC)」と異なり、ラリーで戦ったクルマは市販車であり、手に入れて、公道で乗ることができるのだ。しかも、この日本で。そんな楽しみ方をしているオーナーとその愛車であるランチアを取材する貴重な機会を得た。
REPORT:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi)PHOTO:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi)/MotorFan.jp

20年以上続くランチアオーナーの集い

ゴールデンウイーク前の日曜日、ランチア・デルタを中心としたグループにお誘いを受け、房総半島へのツーリングに参加させていただくことになった。
当日参加した車両はランチアが「デルタHFインテグラーレ16V」「デルタHFエボルツィオーネⅡジアラ」が2台と「ラリー037」。さらにルノー「5ターボⅡ」という顔ぶれ。1980年代のラリーシーンを彷彿とさせるクルマが連なって走る姿は注目の的。コンビニで休憩していると、まるで撮影会のように周囲に人だかりができてしまった。

コンビニで休憩中の「エヴォII」。カラーと相まって目立ちまくり。
コンビニの駐車場にグルーBカーが2台も並ぶというありえない光景。

ちなみにこのグループ、まだインターネットも今ほどには普及していない1999年ごろに、情報交換のために某掲示板サイトに書き込んでいたオーナーが集まり、そこからオーナーズクラブに発展したもの。しかし、メンバーが一人二人とクルマを乗り換え、オーナーズクラブとしては解散。しかし、今も乗り続けているオーナーやその仲間たちが集まってツーリングなどのイベントを行っている、という集まりなのだ。
みなさんイタリア車に長年乗り続けているだけあって、筋金入りのクルマオタクばかり(褒め言葉です)。

ツーリングに参加ラリーランチアの顔ぶれ。HFインテグラーレ16V、“デルトーナ”が並ぶが、やはりラリー037の存在感は異彩を放つ。

1991年式 ランチア デルタHFインテグラーレ16V

今回のツーリングを企画したのは、赤いインテグラーレ16Vを駆る氷室豊さん。氷室さんがデルタに乗るきっかけとなったのは、なんとあの名作ゲームだった。

SEGAがアーケード用に発売した『セガラリーチャンピオンシップ』通称「セガラリー」はWRCをモチーフとしたアーケード用レースゲームで、ナムコの『リッジレーサー』やSEGAの『バーチャレーシング』『デイトナUSA』に続いて1995年からゲームセンターで稼働。複数台のバケットシートが備えられた筐体でタイムアタックを行うゲームで、3Dと2Dを融合したゲーム画面とリアルなクルマの挙動で人気を博していた。ランチアとトヨタに使用許諾を得て、ゲームにはデルタHFインテグラーレとセリカGT-FOUR(ST205)が登場している。

デルタが走るワインディングはまるでWRCのターマックステージを思い起こさせる。1987年、WRCのトップカテゴリーのグループA化に合わせて投入されたHF4WD、1988年にワイド化されたHFインテグラーレ、そして1989年に登場したのがこのHFインテグラーレ16Vだ。

このゲームにハマったことがきっかけではあるものの、その時にはすでに流面系セリカこと、ST162に乗っていたことから、元々ラリー好きだったことがうかがえる。
このデルタを購入したのは1999年。とある日曜日に競馬場へ行った帰り道、ショップに展示されていた真っ赤なデルタにひと目惚れ。その日の競馬で勝っていたこともあり、勢いでそのまま契約してしまったのだとか。勢いって大切ですね(笑)

氷室さんがデルタの前に乗っていたのがトヨタ・セリカGT-R(ST162)。四駆ターボグレードのGT-FOUR(ST165)がWRCで活躍した。(PHOTO:トヨタ自動車)

グループAそのままの形のクルマに乗れるのが嬉しかったという氷室さん。1989年に登場した16Vモデルはエンジンの出力向上とともに大型バンパーやブリスターフェンダーが装着され、ラリーカーとほぼ同じスタイルが与えられている。

氷室さんのデルタHFインテグラーレ16V。16バルブ化したエンジンを収めるため、ボンネットフードにはバルジが設けられたほか、フロントバンパーやヘッドライト周辺にはエンジンルームのクーリングのために多数の通気口を設けている。
「HF」は「High-Fidelity」の略で、「Fidelity」=「忠実」のとおり、ドライバーの意のままに動くことを意味している。
リヤビューは意外とシンプル。ブリスターフェンダーによりトレッドを拡大している。

洗練されているとは言えない200psエンジンは、ラグのあるピーキーなドッカンターボ。それを乗りこなすのも楽しいのだとか。
重整備以外はほとんど自分で行うという氷室さん。パーツも自分で海外から個人輸入している。希少車両を維持していくには、オーナー同士のネットワークが重要なようだ。

エンジンルームには2.0L直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボが隙間が無いくらいに収められている。台頭する日本車勢を退けるべく、1988年のHFインテグラーレまで搭載していた8バルブエンジンからついに16バルブ化。
スパルコのフルバケットシートを装着しているが、インテリアはオリジナルに近い状態。ステアリングにはアバルトのサソリのマークが。
センターコンソールのスイッチ類もラリーカー風に。
オーナーの氷室豊さん。
ランチア デルタHFインテグラーレ16V(1991年式)
Spec
ifications
全長×全幅×全高:3900mm×1690mm×1360mm
ホイールベース:2480mm
車両重量:1250kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ
総排気量:1995cc
最高出力:200ps/5500rpm
最大トルク:31.0kg/3000rpm

1982年式 ランチア ラリー 037

ミッドシップということもあり、走る姿はほとんどレーシングカーのよう。ターマックを得意としたとはいえ、これでラフロードも駆け抜けたとは……。発売当時、ガレーヂ伊太利屋により日本に輸入されたという。その際に販売価格が980万円と言われるが、今となっては安い。

20歳の頃に見たWRCの映像に衝撃を受け、いつか必ず手に入れると心に決めていたというabrse037さん。今から15年前、知り合いからラリー037を手放す人がいることを聞き、前オーナーからこの車両を譲り受けることができた。しかし、当時としても超希少車で値段はかなりの高額だったはず。多少の迷いはあったものの、ここで決めなければ夢は叶わないかもしれないと思い、購入を決意したのだとか。ここ数年で大幅に流通価格が高騰しているので、その決断は大正解だったと言えるだろう。

全幅こそ1.8mを超えるが、全長は4.0mを切るスクエアなディメンジョン。車高も低く、ラリーカーとしては異色のスタイルだ。
巨大なスポイラーが聳り立つリヤビュー。後方視界はゼロに等しい。ミッドシップらしくオーバーハングは短い。

購入して驚いたのは、作りがかなり雑なこと。ホモロゲーション獲得のために150台のみロードカーとして作られた(残りはコンペティション用)車両とは言え、ボディパネルの取り付けや配線の処理、補機類の固定位置など、市販車では考えられないような部分多く、かなり手直しをして乗り続けているそうだ。

モノコックのキャビン前後に鋼管スペースフレームを接続した構造はまさにレーシングカー。ラリー現場でのメンテナンス性を考慮して、前後ともボディパネルが大きく開くようになっている。

古い上に現存台数が少ない車両だけに、パーツの手配が大変。エンジン自体は多くのFIAT(フィアット)に採用されているユニット、通称「ランプレディ・ユニット」だが、スーパーチャージャーなど補機類は専用のものも多く、ZF製のトランスミッションも他車種でも使われているものではあるが、内部のパーツは専用のものも多く、壊してしまったら代わりを手に入れるのは非常に困難だ。

ラリー037のエンジンルーム。リヤサスペンションはダブルウィッシュボーン形式で、ツインショックがラフロードを走るラリーカーらしさを感じさせる。エンジンはミッドシップに縦置きされ、後端には同じく縦置きされたトランスミッションが収まる。
フィアットグループ伝統の1.8L〜2.0L級コンペティションエンジン「ランプレディ・ユニット」。“魔術師”アウレリオ・ランプレディが手がけ、高出力とドライバビリティを兼ね備えた名機。右にタコ足、左奥にルーツ式のスーパーチャージャーが見える。
トランスミッションはZF製。フォードGTなど他車種にも使われるトランスミッションではあるが、中身はほとんど専用品。サスペンションのアッパーアームのトランスミッション側は取り付け位置を変更できるようになっているのがクルマの素性を感じさせる。

クルマを動かす時には常に目に見える部分をチェックし、耳を澄まして異音を聞き分け、匂いの変化を気にしているのだとか。手がかかるクルマではあるものの、戦うために生み出されたラリーカー、そのヒストリーは最大の魅力。機能的なトラスフレームを眺めているだけでも、ランチアマニアにとってはこの上ない至福の時だろう。

コンペティションマシンらしくシンプルなコックピット。しかし、デザインはさすがイタリア、綺麗にまとまっている。
アナログメーターが並ぶインパネ。ステアリングはワークスたるアバルトのマーク。
メーター類はイタ車の定番ブランド「VEGLIA(ヴェリア)」製。
オーナーのabrse037さん。
ランチア ラリー037(1982年式)
Spec
ifications
全長×全幅×全高:3915mm×1850mm×1254mm
ホイールベース:2440mm
車両重量:1170kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHCスーパーチャージャー
総排気量:1995cc
最高出力:205ps/7000rpm
最大トルク:23.0kg/5000rpm

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著者プロフィール

橘祐一 近影

橘祐一

神奈川県川崎市出身。雑誌編集者からフリーランスカメラマンを経て、現在はライター業がメイン。360ccの軽…