目次
最上級グレード「ルキシオン」にはプロパイロット2.0が標準
今回用意されたグレードは上級仕様となる「ルキシオン」(LUXION)と、「ハイウェイスターV」の2台。ハンズオフ機能を有する「プロパイロット2.0」がルキシオンの専用装備となることから、前者を高速道路主体、そして後者を街中からワインディングで走らせてみた。その駆動方式は、どちらもFWDだ。
というわけでまずルキシオンだが、何より特徴的なのはその静粛性だ。ご存じ日産の「e-POWER」は、エンジンを発電機と位置づけて、モーターのみで駆動するシリーズハイブリッド。第二世代となった現行型ではこれがe-POWER専用の「HR14DDe」ユニット(98PS/123Nm)となったわけだが、その完成度は非常に高い。
具体的には従来の1.2直列3気筒「HR12DE」(84PS/103Nm)の排気量を、ストローク方向に拡大して1.4リッター化。その最良燃費点を、使用頻度の高い2000rpmへと定めることで、この状況での燃費効率を6%高めた上で、エンジンの低回転化を促進した。
そしてこのロングストローク化に伴う、3気筒エンジンの振動増加に対しては、日産として初めて一次バランサーシャフトを採用した。なおかつフライホイールには剛性の低いフレキシブルプレートを追加して、クランクシャフトの曲げ共振を逃がしながら、その振動を低減。加えてエンジンがe-POWER専用となったことでスターターモーターが必要なくなり、その空いたスペースの形状設計を見直してエンジン本体の剛性を向上させることができた。
こうした磨き上げによって、タウンスピードでは“ほぼEV”。モーターライドの出足は滑らかで、車内はとても快適かつ静かだ。
また信号からのゼロスタートでアクセルを踏み込んだときや、高速巡航で加速を要したときなど、発電のためにエンジンが稼働する状況でも、それが不快に感じられないことにも大いに感心した。アクセル開度に対するエンジン回転上昇の同調具合が自然で、加速時の違和感がない。
ちなみに車内の遮音対策としては、ダッシュインシュレーターの採用や吸音材の厚みアップ、車体側の穴を徹底的に塞いで空気の流れを遮断するなど、これまで以上に地道な作業が徹底されたようだ。またフロント及び、運転席/助手席のドアガラス(ルキシオンのみ)には、遮音ガラスが採用された。
高速巡航時のハイライトといえばプロパイロット2.0だが、目玉のハンズオフ機能は、割と早い段階ですんなりアクティベートしてくれた。とはいえ試乗に使った東名高速道路 御殿場~沼津間の道程は緩やかなカーブが多く、その自立操舵性能を十分に確かめられるほどではななかった。簡単に言えば、危なげなく運転してくれたといえる。
ただ正直なことを言えば乗り手の意識レベルもまだ「手放しできること」への新鮮さにはしゃいでいる状態で、リラックスするためにこれを活用するほどには、ハンズフリーに習熟していないとも実感した。もちろん経験を重ねるほどにドライバーにも落ち着きが増し、その良さを実感できてくるのだろう。しかし現状は、レベル2として状況を監視しながらの運転としては、より低速な渋滞路の方が、リラックスできるように感じる。
ちなみに前方の車両が自車よりも遅かった際にプロパイロット2.0は追い越しを提案してくれるが、その際ドライバーは車線変更用のスイッチを押すだけでなく、軽くでもステアリングに手を添えている必要がある。また当然ながらナビで目的地を設定しない限りは、ジャンクションへの誘導や、高速出口レーンへの分岐サポートは適用されない。
フロントサス周りの刷新でシャシーバランスも向上
さて肝心なルキシオンの高速巡航性能だが、運転席に座る限りそのドライバビリティは、先代よりも確実に向上していると感じた。
個人的には特に上下方向のバウンスがほぼなくなり、先代に比べて酔いにくいミニバンになったと感じた。
車体側の改良点としては、フロントサス周りを刷新して剛性を向上。またロールスピードを抑えることで、車体の揺れが抑えられたようだ。通常ロールスピードを抑えるためにダンパーを中心に足周りを固める方向になるはずだが、乗り心地が荒くなっていないことにも感心した。
ちなみにルキシオンとハイウェイスターVには、同じ16インチでもサイド剛性を高めたタイヤが与えられているのだという。またフロントバンパーに備えられたエアスクープはボディ側面に空気の流れを作り、直進安定性を高めるだけでなく、横風の影響をも抑えている。つまり足周りだけでなく総合的に車体をコントロールして、この滑らかな乗り味が造り出されたのだろう。
こうしたシャシーバランスの良さは、街中からワインディングにかけて試乗した「ハイウェイスターV」でも確かめることができた。
プロパイロットの操舵支援も見越して今回からラックアシスト式となった電動パワーステアリングは、その剛性が40%ほど高められている。そのおかげだろう、レスポンスがとりわけスポーティというわけではないのだが、素直な操舵追従性が得られている。加えて電子制御式ブースターとなったブレーキのタッチ及びコントロール性が良好だから、穏やかな応答性でも荷重移動を使って、スムーズにクルマを曲げていくことができた。
ワインディングでミニバンを走らせ、その身のこなしを評価することは一見あまり意味がないことのようにも思えるかもしれない。しかしこうしたステージではそのシャシー性能と同時に、e-POWERのピックアップの良さをかなり明確に確認することができた。
登り坂でもアクセルを少し踏み込むだけで、ラグなく加速するモーターの力強さ。狭い下り坂でも、強めの回生ブレーキを併用して減速できる安心感。そしてこのコンビネーションを、滑らかに使いこなせる操作性の良さ。操作に対して急激なトルク変動や荷重変動が起きないから、ワインディングでも安心してミニバンを走らせることができる。
ひとつ惜しいのは、二列目シートの乗り味が若干コンフォートさに欠けていることだ。平坦路だとわかりにくいが、路面が荒れているとフロアが、微かに振動し続けているのがわかる。
ちなみに三列目シートは膝周りが広く、頭回りも握りこぶし縦ひとつ分のクリアランスを確保している。なおかつリクライニングやスライド機構まで備えているから、二列目シートを押し込んで、こちらを常用した方がよいのか? とも一瞬考えた。しかしそれは、やっぱりトリッキーな解決策だ。
なぜなら三列目シートはリアアクスルの近くにあるため、ハーシュネスには弱い。かつ跳ね上げ式シートゆえ二列目に比べてクッションが薄く、フロアへの取り付け剛性も高くない。エマージェンシーシートとしてはとても優秀だが、二列目シートの代わりになるかといえば、そうではない。
日産いわく、前述したルキシオンとハイウェイスターV用に誂えられた高速巡航用タイヤの剛性が、荒れた路面だと不利に働く面はあるかもしれないとのことだった。だが根本的には、二列目以降のフロア剛性及びリアサス周りの剛性が、やや足りないのだと思う。
裏を返せばこのフロア剛性にして、穏やかで破綻のない操縦性を与えたテストドライバーたちのバランス能力の高さには驚かされる。
プロパイロット2.0を筆頭とした電動化のコストが、高くついているだろうことは想像できる。そして三世代使い続けたプラットフォームを、闇雲に古いと言い放つ気も無い。セレナはこれまで価格の安さで勝負してきたミニバンであり、それを歴代でコツコツと改善してきているのも承知している。
ただ最上級仕様のルキシオンが480万円近い価格になってことを考えると、厳しい言い方だがこうした部分は手を抜かないで欲しい。もう少し価格設定が上がったとしても、ボディの質感を高めてLクラスミニバンからのダウンサイザー組に相対して欲しいと感じた。日本の平均速度は低く、路面の舗装レベルも高い。だから筆者がいうほどその質感が気にならないと感じるユーザーも当然いるだろう。だからもしあなたがセレナをターゲットとしているなら、ぜひ家族を連れて、その乗り味をディーラーまで確かめに行ってみて欲しい。
日産セレナ e-POWER LUXION 全長×全幅×全高 4765mm×1715mm×1885mm ホイールベース 2870mm 最小回転半径 5.7m 車両重量 1850kg 駆動方式 前輪駆動 乗車定員 7名 サスペンション F:ストラット式 R:トーションビーム式 タイヤ 205/65R16 エンジン 水冷直列3気筒DOHC 総排気量 1433cc 最高出力 72kW(98ps)/5600rpm 最大トルク 123Nm(12.5kgm)/5600rpm モーター 交流同期電動機 最高出力 120kW(163ps) 最大トルク 315Nm(32.1kgm) 燃費消費率(WLTC) 18.4km/l 価格 4,798,200円
日産セレナ e-POWER ハイウェイスターV 全長×全幅×全高 4765mm×1715mm×1870mm ホイールベース 2870mm 最小回転半径 5.7m 車両重量 1810kg 駆動方式 前輪駆動 乗車定員 8名 サスペンション F:ストラット式 R:トーションビーム式 タイヤ 205/65R16 エンジン 水冷直列3気筒DOHC 総排気量 1433cc 最高出力 72kW(98ps)/5600rpm 最大トルク 123Nm(12.5kgm)/5600rpm モーター 交流同期電動機 最高出力 120kW(163ps) 最大トルク 315Nm(32.1kgm) 燃費消費率(WLTC) 19.3km/l 価格 3,686,100円