LMGTEは今年で見納め!ポルシェやフェラーリが躍動する“大改造GTカテゴリー”最後の輝きを見逃すべからず【ル・マン24時間初心者向け解説】

ポルシェ911 RSR
2023年ル・マン24時間のLMGTE Amクラスに参戦するポルシェ911 RSR
ル・マン24時間初開催からちょうど100年の節目にあたる2023年。総合優勝を争う『ハイパーカー』クラスに変革が起き、最高期を迎えようとしている。その一方で、LMGTEという市販車ベース規定車両がル・マンを走るのは今回が最後。激闘必至のGTカテゴリーの概要を今一度確認しておこう。

2023年で初開催から100年目を迎えたル・マン24時間レース(以下ル・マン)。今年から最高峰クラスに適用される技術規則がふたつとなったことで参戦台数および参戦メーカー数が増加に転じ、黄金期を迎えようとしている。

TOYOTA GR010 HYBRID

ル・マン100周年記念大会がついに開幕!王者トヨタとライバルの『ハイパーカー』を一挙紹介【ル・マン24時間初心者向け解説】

耐久レースの代名詞、ル・マン24時間レースの本格的な走行が6月7日に開始。初開催からちょうど100年となる2023年、最高峰カテゴリーである『ハイパーカークラス』にLMH規定車両のほか、LMDh規定車両が参戦できるようになり、近年では一番の盛り上がりを見せている。この記事では王者トヨタを始め、同クラスで総合優勝を争うマシンを簡潔に紹介する。

そんな最高峰クラスの脇を固め、グリッドの大半を占めているのが、『LMP2』クラスと『LMGTE Am』クラスの車両である。
LMP2はプロトタイプカー(競技専用車両)の規格の名称で、その名のとおり同規格に沿って設計、製造されたマシンで競争する。現行のLMP2マシンはオレカ、ダラーラ、リジェ、マルチマチックの4社が製造許可を得ており、競技者にはシャシー選択の自由があるのだが、今年のル・マンにはオレカ製のオレカ07しかエントリーしておらず、実質的なワンメイク状態になっている。

激戦必至のLMGTE

一方のLMGTE Amは、LMGTEの車両規定に則って作られたマシンによって競われるもの。LMGTEというカテゴリーは、ポルシェ911やアストンマーティン・ヴァンテージなどのスポーツカーを改造して競技仕様車両を仕立て上げる、いわゆる市販車ベースカテゴリーだ。その起源はかつて存在したFIA GT選手権のGT2。これを耐久レース向けに発展させたものがLMGTEである。
また、Amはアマチュアドライバーの意。このクラスを戦ううえでは、3名のドライバーのうち、プロのレーシングドライバーを起用できるのはひとりのみという制限が課されている。なお、プロドライバーのみが争うLMGTE Proクラスも存在していたが、昨季限りで消滅している。

ポルシェ911 RSR, アストンマーティン・ヴァンテージAMR
今年のル・マンのGTE Amクラスには4車種がエントリーしている。

LMGTE Amクラスはアマチュアドライバーが主役とはいえ、ル・マンではクラス優勝車と2位のギャップが1周未満の大激戦が演じられることも多い。実際、昨年の大会では24時間走り続けた結果の差が44.446秒という接戦となった。
クルマに目を向ければ、LMP2クラスとは違い、こちらは比較的車種バリエーションに富んでいる。今年はアストンマーティン・ヴァンテージAMR、シボレー・コルベットC8.R、フェラーリ488 GTE EVO、ポルシェ911 RSR-19の4車種21台がエントリーリストに名を連ねる。 以下で今季のLMGTE Amクラスに出走するマシンを簡潔に紹介しよう。

アストンマーティン・ヴァンテージAMR
日本からはDステーション・レーシングがヴァンテージAMRでエントリー。

ASTON MARTIN Vantage AMR

ロードカーのモデルチェンジにともない、アストンマーティンは2018年にヴァンテージのGTEバージョンも新型となった。それまでは自然吸気エンジンだったが、現行モデルは4L V8ツインターボにスイッチ。ロードカーと同様にAMG製だ。

シボレー・コルベットC8.R
コルベット・レーシングは北米IMSAでも戦っている(写真はIMSAで撮影されたもの)。

CHEVROLET Corvette C8.R

ロードカーのMR化によりGTE車両であるC8.Rも刷新された。ミッドシップレイアウトになったことにより、前後のディフューザーが拡大され空力効率が高まった。マシンはクローズドボディだが、ベースはコンバーチブルモデルになっている。エンジンは5.5L V8自然吸気。

フェラーリ488 GTE Evo
カスタマーレーシング界で人気の高いフェラーリはGTEでもエントリー数が多い。

FERRARI 488 GTE EVO

フェラーリは488 GTEを2015年に発売して以降、同モデルを熟成。絶対的な速さに関係するエアロダイナミクスはもちろん、耐久レース向け車両としてのキモとなる信頼性向上を狙ったアップデートも重ねられてきた。エンジンは3.9L V8ツインターボ。昨年のル・マンのGTE Amクラスではこの488 GTE EVOを走らせたチームが優勝を飾っている。

ポルシェ911 RSR-19
GTE仕様の911はエンジンが後輪車軸の前に搭載されている。

PORSCHE 911 RSR – 19

ポルシェ911といえば、RRがアイデンティティだ。しかし、ポルシェは2017年、LMGTE車両である911 RSRをアップデートするにあたって大改革を実施。空力性能を高めるべくディフューザーの容量を増やすために、4.2L6気筒NAエンジンをリヤアクスルの前方に移動させ“ミッドシップ化”している。今年エントリーしているのは2019年モデルだ。

LMGTEの終わりは一時代の終わり

一見すると、一定の盛り上がりは維持しているようにも思えるLMGTEカテゴリーだが、今年限りでル・マンを含む国際的なレースシーンから姿を消すことが決まっている。その理由を極めて簡単に表現すれば、コストの高騰と競技車両を取り巻くトレンドの変化により、自動車メーカーに対する求心力が下がり、参戦ブランド数が減少したため、だ。
マクラーレンとランボルギーニもLMGTEに参入するというもっぱらのウワサだったが、彼らは2018年の終わりにプロジェクトを凍結したようだった。なんでも、その後のレギュレーションがどのようなものになるかを見極めるためだという。
2019年には6メーカーがワークス活動を展開し、隆盛を極めていたかに思えたLMGTEだったが、これが合図となったかのように、フォードとアストンマーティン、BMWが本腰を入れたプログラムを中止。GTEマシンがル・マンを走るのは今年限りとなり、来年からは世界中で人気を博すGT3規格をベースとした『GT3プレミアム』のマシンに取って代わられることになっている。

LMGTEでは規則に沿うよう自動車メーカーたちが創意工夫を凝らしながら、競技車両に仕立て上げてきた。あるメーカーが絶対的な速さを求めてクルマのアイデンティティとも言える駆動レイアウトを大胆に変更してしまったり、また別のあるメーカーは不利そうな大柄なクルマをあえて選択した上で、ボディ下部の一部を切除して全高を下げたりしていた(ライバルたちの横槍によるものだったそうだが)。
レギュレーションが定められていながら、ロードカーを大幅にモディファイできるカテゴリーはまだ世界各地に存在している(たとえば、スーパーGTのGT300クラスなど)が、世界規模のそれは現時点では見当たらない。ひとつの時代の終わりと言えるだろう。
2023年のル・マンでは、最高峰のハイパーカークラスだけでなく、見納めとなるLMGTE車両の戦いにも注目してはいかがだろうか。

2022年ル・マン24時間
GTEAmクラスも2023年で終焉を迎える。

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著者プロフィール

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上坂元 宏樹

メジャーリーグなどアメリカンスポーツ関連ニュースの翻訳業務を経験した後、2016年10月にモータースポー…