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2023年で100周年を迎えているル・マン24時間レース。第91回大会である今回は、最高峰ハイパーカークラスの16台を筆頭に計62台が24時間後のチェッカーを目指し激走する。
だが近年のル・マンでは一枠だけ、賞典外の特別枠というものが存在している。『ガレージ56』と呼ばれるものだ。
革新的なクルマのための特別枠
このガレージ56は2012年の第80回大会から設定された。もともとル・マンのガレージ数および参戦枠数は55だったが、新たに56番目のガレージを設け、そこで革新的な用いた車両を走らせようというアイデアから生まれたものだ。
ガレージ56枠に最初に選ばれたのはニッサン・デルタウイング。元は北米のトップフォーミュラ、インディカー・シリーズ向けに考案されたマシンだ。同シリーズに採用されることはなかったが、“革新的なクルマ”としてル・マンにエントリーを果たした。
デルタウイングの最大の特徴は、真上から見ると三角形に見える特徴的なシルエット。軽量かつ空気抵抗が抑えられたデザインで、当時の他のル・マン参戦車両が消費する半分のタイヤと燃料で24時間を走り切るという、野心的な試みを掲げていた。決勝中に他車と絡むアクシデントに見舞われたことで完走はできなかったが、ル・マンが打ち出したガレージ56というプロジェクトの名を定着させるには、その外観による話題性も含めて、十二分の働きをしたと言えるだろう。
その後は、デルタウイングによく似た電動レーシングカーや、水素燃料電池を用いたプロトタイプマシン、四肢を失ったドライバーでも操縦が可能な機構を持ったマシンなどがガレージ56で歴史ある耐久レースのエントリーリストに名を連ねた。
アメリカ魂が欧州で炸裂中
今年のガレージ56での参戦車両は、アメリカにおいて大人気を博すレースシリーズ『NASCAR』の最上級シリーズ、カップシリーズのマシンだ。同シリーズでは昨年、新規定車両『Next-Gen』が導入。リヤサスペンションがNASCAR史上初めて独立懸架式とされたほか、こちらも初採用となるフラットフロアとディフューザーは共通パーツとされるなど大幅に近代化が図られており、それまでとは一線を画す“革新的な車両”となった。それでも、エンジン形式は5.86L V8自然吸気を維持するなど、アメリカンスピリットはしっかりと残している。
ル・マン仕様のシボレー・カマロZL1には、24時間レースに対応すべく大型の燃料タンクやカーボン製ブレーキディスクが奢られる。車重は1580kgから1342kgと200kg以上も軽量化されているほか、大型化されたスポイラーや追加のカナードが装着されるなど空力的なアップデートも施され、レーシングカーとしての戦闘力を高めている。実際、予選では3分47秒976をマークし、LMGTE Amクラス(最速タイムは3分51秒台)を上回ってみせた。
タイヤはNASCARとWECのLMP2クラスでもお馴染みのグッドイヤーが供給。タイヤの内側には製造工程で電池不要のパッシブセンサーを埋め込まれており、これを通じて空気圧や温度をリアルタイムで計測する。
オペレーションはアメリカの名門ヘンドリック・モータースポーツが担当。ドライバーは7度のNASCAR王者ジミー・ジョンソンを筆頭に、2009年のF1世界王者ジェンソン・バトン、2010年のル・マンウイナーであるマイク・ロッケンフェラーと、経験豊富な超一流がそろっている。
今年のル・マンのスターティンググリッドにおいては明らかに異質な存在と言えるNASCARカマロ。決勝レースにおいてどのような成績を残すのか注目したいところだ。