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クルマに新しい価値を与える「マニュアルBEV」
周回路のピットで対面したのは、見た目は電気自動車(BEV)のレクサスUX300eである。しかし室内にはシフトレバーがある。足元を覗き込むと、ブレーキペダルの左側にクラッチペダルがある。でも、このクルマはBEVだ。
「マニュアルBEV」はトヨタが推し進める知能化の一例で、トヨタの考える知能化とは、「クルマに新しい価値を与える」ことを意味する。「クルマ屋ならではのBEV」という表現も多用するが、その象徴ともいえる機能がマニュアルBEVに与えられている。
マニュアルトランスミッション(MT)でエンジン車を操るように、BEVを操ることができるクルマだ。バイ・ワイヤのステアリングやスロットル、ブレーキを持つクルマのように、マニュアルBEVのシフトレバーとクラッチは、ワイヤーなどで実際のトランスミッションやクラッチにつながっているわけではない。そもそもBEVなので、変速機構やクラッチは搭載していない。いってみれば、なんちゃってだ。
ところがどっこい、クラッチを踏み込んで半クラを探りつつ発進を試みてみると、実際に半クラっぽい感触が感じられるし、クラッチがミートする感覚も上手に再現されている。クラッチを雑につなぐと、エンストもする(実際にはモーターのトルクがゼロになる)。
MTのほうはGRヤリスのシフトフィールの再現を試みているそう。もちろん、いかようにも作り込むことができる。1速から2速、2速から3速と順にシフトアップしつつ加速していくと、本当に、まるでMT車を操っているような感覚になるから不思議だ。MT好きのひとりとしては、たまらなく楽しい。音とモーターの制御でMTの感覚を上手に再現しているのだそうだ。ギヤが入り込む際のガリッとした感触まで再現できたら完璧である。
マニュアルBEVがすぐれているのは、スイッチひとつで通常のBEVに切り換えられることだ。そういう気分ではないときとか、渋滞走行中などは通常のBEVとして付き合うことができる。そういう気分になったときだけ、マニュアルモードに切り換えればいい。「そんなの子供だまし」と思うかもしれないが、体感した身としてはコレ、確実にアリである。
「走りをオンデマンドで変更可能なクルマ」
周回路には「走りをオンデマンドで変更可能なクルマ」も用意されていた。BEVのソフトウェアをアップデートすることで、乗り味やエンジン音などをオンデマンドで変更可能にしたBEVである。開発車両はBEV専用モデルのレクサスRZだ。
開発車両には、レクサスLFAとトヨタ・パッソ、それにトヨタ・タンドラの乗り味やエンジン音が再現できるプログラムが組み込まれていた。レクサスLFAが積む4.8LV10自然吸気エンジンは「天使の咆哮」とも表現される、官能的な高周波サウンドを発生する。LFAのモードを選択すると、RZは天使の咆哮を響かせながら力強い加速を披露する。音とモータートルク制御による演出だ。サウンドは室内だけに響いているため、外でRZを眺めている人は、「静かなクルマが走っている」くらいにしか思わない。
モードをパッソに切り換えると、小排気量のガソリンエンジン車が一所懸命エンジン回転を上げてドライバーの要求に応えようとする苦しい走りに転じる。「なぜわざわざ?」と思うかもしれないが、そういうこともできると示す一例で、昔乗っていたAE86のフィーリングを再現することも技術的には可能だし、かつて憧れたセリカGT-FOURだって再現できるはずである。
最後に試したのは、北米で人気のピックアップトラック、タンドラの乗り味と音。大排気量V6エンジンの太く、大らかな乗り味と音がほどよく再現されていた。ソフトをアップデートすることで、無数のクルマの乗り味と音を再現することが可能。夢のある、そして楽しみの広がるトライである。