大ヒットの予感あり 三菱デリカミニ ナリは小さいけれどもデリカの名は伊達ではない

三菱デリカミニ。キャラクターのデリ丸も人気
三菱自動車は新型軽スーパーハイトワゴン、デリカミニに公道で初試乗した。そのルックスで、まず注目を集めているが、「デリカ」の名前を持つ限り、顔をそれっぽく変えるだけで済ませるわけにはいかない。果たして、デリカミニの完成度はいかに?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

オートサロンでの反響が強烈で出足好調! 

三菱デリカニミニ T Premium(4WD) 車両本体価格:223万8500円

三菱自動車は新型軽スーパーハイトワゴン、デリカミニの販売を5月25日に開始した。初公開は1月13日~15日の東京オートサロン2023だった。オートサロン初日の1月13日から予約注文の受付を開始すると、5月24日までに約1万6000台の予約注文が入ったという。出足は好調と言っていいだろう。筆者も東京オートサロンの三菱自動車ブースに立ち寄ったが、デリカミニの人気ぶりに舌を巻いた口だ。ベビーカーを押す若いファミリーの多さが印象に残った。

予約注文のうち、全体の58%が4WDモデルを選んでいる(2WD=FFモデルもある)。70%がターボモデルだ(自然吸気エンジンモデルもある)。ボディカラーの一番人気はコミュニケーションカラーのアッシュグリーンメタリック/ブラックマイカ(21%)で、アッシュグリーンメタリック(16%)、ホワイトパール(12%)と続く。撮影車のレッドメタリック/ブラックマイカもいい線いっていると思うのだが、いかがだろう。

トレッド:F1300mm/R1290mm 最低地上高:160mm 車両重量:1060kg
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1830mm ホイールベース:2495mm

メディア向け試乗会の会場にいた技術者に話を聞くと、オートサロンの後、2月に入ってもまだセッティングを煮詰めていたという。それだけ気合いが入っていたのだ。オートサロンでの反響の大きさを見て「頑張ろうと思った」という。

デリカミニのベースはeKスペースだ。あこぎな商売をしようと思えば、認知度の高いデリカのネーミングを借りるだけ借りて、顔をそれっぽく変えるだけで済んだはずである。予約注文した人たちはオートサロンやテレビCMやネットなどで「見ただけ」で気に入って購入を決めている。中身に変化がなくても満足する人が相当数いることを示している。

デリカミニのターボエンジン搭載グレードがT、その上級グレードがT Premiumだ
スーパーハイトワゴンだから、後席は余裕たっぷり。
シート地は、撥水シート生地(合成皮革&ファブリック+PVCシートバック)
室内長×幅×高:2200mm×1335mm×1400mm

デリカの名前を冠するために技術陣は奮闘した

ところが三菱自動車の開発陣はそれだけで満足しなかった。自分たちの会社が送り出す新型の軽スーパーハイトワゴンの名前が「デリカミニ」に決まった途端、開発陣は「ざわついた」という。「デリカの名前を冠するからには、その名に恥じない走行性能を持たせなければならない。お客さまを裏切るわけにはいかない」と思ったからだ。だから、2月になってもまだ(発売のタイミングを考えるとギリギリのタイミングだ)、セッティングに取り組んでいたのである。

エンジン 形式:直列3気筒DOHCターボ 型式:BR06型 排気量:659cc ボア×ストローク:62.7mm×71.2mm 圧縮比:9.2 最高出力:64ps(47kW)/5600pm 最大トルク:100Nm/2400-4000rpm 燃料供給:PFI 燃料:レギュラー 燃料タンク:27ℓ モーター SM21型交流同期モーター モーター最高出力:2.0kW モーター最大トルク:40Nm

ベースのeKクロスは当然のことながら、どちらかというとオンロードに軸足を置いて開発されたクルマだ。デリカミニは力強いスタイリングが特徴だが、見た目に力強いだけでなく、「デリカ」を名乗るにふさわしいオフロード性能を与えよう(与えなければならない)と考えた。よりデリカらしい走りが味わえるのは、専用装備となる大径15インチタイヤと専用ショックアブソーバー(ダンパー)を備えた4WDモデルだ。4WDの制御もデリカミニ専用にチューニングされている。

脚周りは本家のデリカを開発した技術者がセットアップしたという。デリカやトライトン(日本未導入)、パジェロスポーツ(日本未導入)など、フレーム付き車両のオフロード走破性を意識して開発。専用ショックアブソーバーはバルブを専用に開発して微低速域で動きやすくし、路面の凹凸を上手にいなすようにした。

リヤサスペンションはトーションビームトルクアーム式 3リンク
4WDはビスカスカップリング式
ブレーキはFベンチレーテッドディスク/Rドラム。タイヤはダンロップのENASAVE サイズは165/60R15
デリ丸!

ビスカスカップリング式の4WDは定常走行時でもリヤにわずかなトルクが伝わるような設定(意図的にフロント>リヤとなる差回転を設けている)とした。これにより、オフロード走破性を高めるだけでなく、オンロードでは横風安定性を向上させる効果も発揮する。

雪道やぬかるんだ路面などで駆動輪が空転した場合、空転している駆動輪にブレーキをかけることにより、路面をグリップしている駆動輪の駆動力を確保することで発進をサポートするグリップコントロールは全車に標準装備する。発進性を確保してくれるありがたい機能ではあるが、エンジントルクを絞ってしまうので、脱出はできても、前に進む力は弱々しくなってしまう。

そこでデリカミニでは、グリップコントロールが介入した際もエンジントルクの抑制を抑え、前にグイグイ進むように仕立てたという。デリカ、トライトン、パジェロスポーツのロジックを取り入れたもので、ギリギリのタイミングまでセッティングに取り組んでいたのがこの機能だったそう。降雪期、道路は除雪が行なわれているが家の敷地は厚い雪で覆われている。そんな状況のとき、デリカミニならガシガシ雪をかき分けて道路に出られる(性能を担保している)というわけだ。

4WDモデル専用となる165/60R15の大径タイヤは外形579mmで、ベースとなる仕様が装着するタイヤとの外径の違いから、車高が10mm上がるという。アイポイントも10mm上がるわけだ。カタログ上、最低地上高は2WD比で5mm上がっている(155→160mm)。わずかな違いだが、運転席に収まったときの違いは大きく、見下ろし感が強い。「デリカを名乗るだけのことはあって、イメージは受け継いでいるな」と感じた。

スーパーハイトワゴンで気になるのは、大きなスペース(とくに高さ方向)と引き換えに重心が高くなるため走りが不安定になることだ。例えば、高速道路の本線への流入や本線からの流出で先がどんどんきつくなっていくようなカーブに進入するとき、倒れ込むようにロールし、乗り手を不安に陥れることがある。しかし、車高が高くなっているにもかかわらず、デリカミニにはそれがない。専用ショックアブソーバーの適用は砂利道などの未舗装路走破性を重視してのことだが、オンロードの走りにもいい影響をもたらしているようだ。「しなやか」と「しっかり」が同居した、バランスのとれた乗り味である。だからどんなシーンでも安心して、快適に移動できる。

試乗会場はキャンプ場に設けられており、微低速ではあったが、わだちのある未舗装路や砂利道を走り回ることができた。ランダムに遭遇する凹凸に対処するため足を柔らかく仕上げるのかと思いきや、思いのほかしっかりした乗り味なのに驚いた。車輪の上下の動きで細かな凹凸を上手にいなしている印象である。だから、クルマの横揺れが少ないし、乗員の体も無駄に揺れずに済む。ひと言で表現すれば、頼もしい。「本当はもっと高い車速で走っていただけると、デリカらしさが味わえると思います」とのことである。

ミニだからといって、性能が小さくまとまっているわけではない。ナリは小さいけれどもデリカの名を冠するだけあり、三菱自動車で連綿と培われ、受け継がれてきたオフロード性能が惜しみなく投入されている。デリカミニに触れ、そう感じた。

三菱デリカニミニ T Premium(4WD)
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1830mm
ホイールベース:2495mm
車重:1060kg
サスペンション:Fストラット式/Rトーションビームトルクアーム式 3リンク
駆動方式:AWD
エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:BR06型
排気量:659cc
ボア×ストローク:62.7mm×71.2mm
圧縮比:9.2
最高出力:64ps(47kW)/5600pm
最大トルク:100Nm/2400-4000rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:27ℓ
モーター
SM21型交流同期モーター
モーター最高出力:2.0kW 
モーター最大トルク:40Nm
燃費:WLTCモード 17.5km/ℓ
 市街地モード16.2km/ℓ
 郊外モード:18.3km/ℓ
 高速道路:17.6km/ℓ
トランスミッション:CVT
車両本体価格:223万8500円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…