大学自動車部と自動車業界を盛り上げるFORMULA GYMKHANA その狙いは?

大学自動車部対抗戦 東日本予選10大学がワンメイクで戦った 東大/東京理科大/東北大/北海道大/法政/日大/横浜国大/長岡技科大/中央/駒澤

6月17-18日、大学の自動車部によって競われるジムカーナ大会『FORMULA GYMKHANA 2023』の第一戦が福島県のエビスサーキット西コースで開催された。FORMULA GYMKHANAは、今年から始まる新しいイベント。参加するのは、4年制大学公認の自動車部またはそれに類する団体で、継続的かつ意欲的に活動するチームである。第1戦の模様を取材した。

参加したのは、
駒澤大学/中央大学/東京大学/東京理科大学/東北大学/長岡技術科学大学/法政大学/日本大学/北海道大学/横浜国立大学の10大学。

東京大学
北海道大学
東北大学
横浜国立大学
法政大学
東京理科大学
長岡技術科学大学
中央大学
駒澤大学
日本大学

競技は自動車メーカーの協力のもと同一車種によるワンメイクで行なわれるため、参加校の負担が少ないかたちで、学生たちのドライビングスキルとチームワークが純粋に競われる。第1戦はトヨタ・ヴィッツGRMNのワンメイク。タイヤもグッドイヤーのEGALE F1 SPORTのワンメイクだ。つまり、イコールコンディションで、ドライバーの腕で勝敗を決めるわけだ。

今回は、エントリーフィー、遠征費(交通費・宿泊費)は、主催者負担ということで、学生にとっては夢のような好待遇でのイベントだ。

3人のドライバーが2ヒート走行して、ベストタイムの合計で順位が決まる。サイドブレーキターンは禁止、コースの途中にボックスが設定されて、完全停止するポイントがあるなど、独自のレギュレーションで運営されてるジムカーナだ。

まずは、FORMULA GYMKHANA(フォーミュラ・ジムカーナ)とはどんな大会なのか。
大会コンセプトは以下の通り(HPより)

Skills & Teamwork over Horsepower.
現在、大学自動車部の競技では、軽量・ハイパワーを求めて、未だに20-30年以上前に発売された車両が現役で使用され続けています。
しかし、昨今の中古スポーツカーの価格高騰によって、これらの車両のメンテナンスは困難になり、予算の限られる学生にとっては大きな障壁となっています。またそうした背景から、戦闘力の高い車両を持つチームに勝率が偏ってしまっている現状もあります。
そこで、Formula Gymkhanaは、車両・装備を各メーカー様より一律に提供していただくことで、出場校による負担のない形でのワンメイク競技を実現し、ドライビングスキルとチームワークにフォーカスしたサステイナブルな大学自動車部の大会を提案します。

Bridging the Future of Automotive.
若者のクルマ離れが進んでいると言われる中でも、大学自動車部で活動する学生は自動車に対する大きな情熱と深い知識を持っています。すなわち、自動車業界の未来を担う貴重な人材に違いありません。
一方で、自動車関連企業とこうした学生がつながることができるイベントはほとんど存在しておらず、二者の間にミスマッチが発生している現状があります。
そこで、Formula Gymkhanaは、自動車業界にいらっしゃるクルマ好きの方々が実際に事業内容を語る機会等も提供して、自動車を愛する学生と、そのような学生を求める企業様とのマッチングの場を提供します。

このコンセプトに賛同したスポンサーには

RS★R、AICELLO、アドヴィックス、小倉クラッチ、キャロッセ、日本グッドイヤー、トラスト、トレジャーワン、ブリッド、Moty’s、横浜ゴム、GRガレージ大阪箕面・大阪八尾・滋賀大津、TOYOTA GAZOO RACING、日産、マツダが名乗りを上げた。実際、エビスサーキット西コースのピットロードにはずらりと企業ブースが並んだ。

その思惑を聞く前に、まずは結果から。

順位大学名ドライバー合計タイム
1位長岡技術科学大学阿久澤智也/山口泰輝/藤田雅也04:15.683
2位法政大学九石和樹/小山航海/田代 潤04:21.689
3位中央大学渡津龍馬/倉品 翼/野村飛美樹04:22.458
4位東北大学辻口 丈/河野駿人/瓜田凌大04:25.210
5位東京大学水野 真/黛 雄輝/宮田悠士朗04:26.062
6位駒澤大学松田新太朗/大里一仁/石井祐弥04:37.255
7位横浜国立大学厚地 颯/山本一矢/高橋力也04:44.884
8位日本大学高波 薫/田上太一/小林風凱04:48.299
9位北海道大学三木硬太/浅井優基/矢口泰成04:48.590
10位東京理科大学小倉勇宏/水野壮仁/浅井凱翔05:28.329
(上位5大学はRd.3全国決勝進出決定)


今年は年間3ラウンドが予定され、Rd.2西日本予選は、7月1~2日にに鈴鹿ツインサーキットで開催される。東日本予選・西日本予選でトップ5に入った大学は、9月23~24日に奥伊吹モータースポーツパーク(滋賀)で開催されるRd.3全国決勝に進むことができる。

協賛企業の思惑は

初めてのイベントにもかかわらず、多くの企業が協賛していて、なおかつ、業界の重鎮が顔を揃えていた。なぜ、Formula Gymkhanaに参画したのか、訊いてみた。

ブリッド株式会社 高瀬峯生社長

ブリッド株式会社 高瀬峯生社長

「これだけよくスポンサー企業が集まったと思います。弊社はシートを提供しています。今回参画したのは、リクルート目的です。うちは学生フォーミュラのスポンサーも長く続けていますが、こっち(Formula Gymkhana)の方がリクルートの可能性が高いと考えています。彼ら自動車部の学生は本当のクルマ好きですからね。学生さん達だどういう想いで活動しているか、実態調査ですよ。

理工系の学生は学生フォーミュラ、文系は自動車部と分かれるんじゃないかと勝手に想像しています。自動車部の人たちの方が我々との融合性が高い。企画屋だったり、営業だったり。ものづくりの好きな人が学生フォーミュラへ行って、本来のクルマ好きはこういうところに参加をする人だと思います。

全国に大学がいくつあるか。そのうち自動車部がある大学がいくつあるか。そこに平均20人の部員がいるとすると、結構な数になる。そこはマーケットになると思うし、将来自動車業界に進んでほしい人たちでもある。メディア業界もそうでしょう?ほんとうに大事だと思います。このイベントをいかに育てるか、育てきれるか、ですよ」

小倉クラッチ株式会社小倉康宏社長

小倉クラッチ株式会社小倉康宏社長

「じつは僕の息子が自動車部にいた関係で、大学の自動車部の学生たちを集めてなんかやろうねって考えていたんです。ですから、今回やるのであれば、当然我々も協力させていただこうとなりました。いまクルマが好きだという学生は、数が少ないじゃないですか。自動車部のおかれた環境の関係でいいクルマに乗れないだとか、ホントの高性能のクルマに乗れない。だから、学習能力が高い彼らがこういう良いクルマに乗って、いろんなことに気づいてもらえればいいよね。リクルートに繋がるのもすごくいいことだと思います。
話してみて、みんなクルマ好きですね。みんな、走りたいんだな、ってすごく感じます。結局モータースポーツで、お金持ちの集まりみたいに見えちゃうじゃないですか。カートからフォーミュラに乗ってGTに乗ってというエリートコースはみなさんにいろいろやってもらえるのですが、けっこう地道に一所懸命やっている大学生の人たちの舞台を引き上げてあげたい。大学の大会もありますが、それとは別にメーカーがやってあげるともうひとつ上の考え方ができるんじゃないか、と思います」

日本グッドイヤー株式会社 坂口正信さん(トヨタ事業企画部部長・モータースポーツ推進グループGM)&田ヶ原章蔵さん(日本グッドイヤーアドバイザー)

田ヶ原章蔵さん(左)と日本グッドイヤー株式会社トヨタ事業企画部部長・モータースポーツ推進グループGM坂口正信さん

「日本の自動車産業の下支え、それ一点です。そのなかでどこで下支えをするか。いろいろな人のご意見を聞いて、ファンづくりをしようと。モータースポーツファンとかクルマファンとかいろいろあるですが、我々はクルマファンづくりに徹しようと。我々は入口、裾野を拡げます。そういう方向性が固まってきた。まだ答えはわかりませんが。いま種まきをすることが大事だと思います。ロゴが目立たなくでいいんです。気がついたら、あのメーカーもやっていたな、とどこかで思ってもらえれば」(坂口さん)

「我々もタイヤを売るというレベルではなくて、自動車業界の下支えという部分で我々ができることはなにか、ということで。最初はリユースのタイヤを使いたかったんです。SDGsの時代を考えて、たとえばヤリスカップで使ったタイヤを回収してきて、うまく学生の皆さんに無料、あるいは安く提供することで循環させるシステムを作りたかった。われわれタイヤメーカーとして、恩返しとしてなにができるか。ということで、早いうちに手を挙げさせていただきました。たまたま第一回目は我々グッドイヤーがタイヤを供給しますが、次はヨコハマさん、持ち回りです。これは自動車業界全体の話ですから、我々だけで全部やるわけでない。むしろ全タイヤメーカーさんが参加していただきたくらいです。学生の話を直接聞いて、自動車部の皆さんが何に悩んでいるか、どうやったらもっと発展させられるかを考えていきます」(田ヶ原さん)

株式会社昭和トラスト川島徹開発企画/広報部 係長

株式会社昭和トラスト川島徹開発企画/広報部 係長

「リクルーティングにも使えるというところに興味が湧きました。とりあえず会社としても初めてのイベントに協力して、まずどんな様子か見てみようと。自動車業界は、若手の人材不足が顕著です。我が社もいままでと同じことをやっていても正直、先行き厳しいというところもあって、いろんなイベントを若いスタッフの声を聞きながらやっています。若い新しい風を入れないと業界的に発展もないのかな、と思います。

今日も懇親会で学生さんたちとといろいろ話を聞くなかで、好きなクルマの話を聞くとかいろんな話ができます。本当にクルマが好きなんですね。それがすべでではないですが、そういう機会は貴重ですね。半分はリクルーティング、もう半分は若い世代のどんなことを考えているかのリサーチですね」

株式会社アドヴィックス神撫人事室採用・育成グループ岡本朋子さん

株式会社アドヴィックス神撫人事室採用・育成グループ岡本朋子さん

「今回出展した狙いはふたつあります。ひとつは、モータースポーツの人口が減っているなかで我々クルマで一番大事なブレーキをやっている会社でそういう業界を下支えする目的があります。学生さんをサポートする機会はなかなかないものですから、それで参画しようと決めました。もうひとつは人事、リクルーティングです。技術系の学生さんと直接出合って、会社を知っていただいて、それを採用に繋げたいという想いです。

私達はクルマづくりの会社なのに、自動車に対してこうやって愛をもって熱中されている学生ってなかなか普通のリクルートでは出合えなかっりします。こうやって話を聞いて、自分たち知識が増える。こういった学生をぜひ採用に繋げたいなという想いを持って参加させていただいています。目的のひとつは、みなさんにアドヴィックスを知っていただくというのがあります。まず知っていただいて、知った学生さんがたとえば、就職活動でエントリーしてくださるっていうのは大きいです」

株式会社アイセロ牧野太宣副社長

株式会社アイセロ牧野太宣副社長

「いまの学生ジムカーナ、全日本学生自動車連盟が取りまとめてやっています。それ自体は、今後も発展していけばいいと思っています。しかし、より腕だけで勝負ができる環境もあるといい。僕らがモータースポーツを始めたときの環境といまを比べると明らかに、モータースポーツ活動をやるのがすごく難しくなってきています。正直言って学生さんだけのお金でやるというのは、かなりキビシイだろう。となると企業さんとか各方面のご協力を得ながらやっていくのがいいかな、と思います。そこで今回の話になりました。学生さん達には、ワンメイクで不公平がないようようなカタチで戦っていただく。スポンサー集めに関しては、自動車メーカーもトヨタさんだけでなくていろんなメーカーさんに共感いただける企画を立てて、さらに僕らみたいな一般企業も参加できるようなイベントをやりましょう、ということでやっています。ひとつはリクルート。やはり学生と直接ふれあう機会はあまりいままで作れなかった。それをこの大会のなかに盛り込んでいただくのをお願いして、我々のような企業がより参加しやすい土台を考えていただいています。今回のコース設定は、私も協力しました」

日産自動車R&D人事部人事課坂庭光則さん

日産は新型フェアレディZを展示していた。

「やはり自動車会社である以上、モータースポーツをバックアップしたいなという思いがあります。それが採用に繋がればということで、採用と絡めたカタチです。自動車部出身の方で自動車産業関連に就職するのは2割ほどだというんです。残り8割の方は全然違う業種に進まれる。それはすごく残念です。弊社には自動車部OBもいますので、できれば後輩に入ってきていただきたいと思っています。それから、なによりも大学自動車部自体の存続、運営状況があまりよくないところもあると聞きます。自動車部の火を絶やしたくないという思いもあります。

具体的にガチガチの就活というよりは、”日産がちゃんと君たちのことを気にしているんだよ”っていうところ、日産を憶えてもらう、というのが重要だと考えています。メーカーとして、ここにいることが大事だと思います」

学生の想いは?

今回のFomula Gymkhanaは、10大学に対してエントリーフィー、遠征費(交通費/宿泊費)を支給している。自動車部の学生にとっては、至れり尽くせりだ。しかも、トヨタ・ヴィッツGRMNという戦闘力の高いマシンと新品のタイヤまでイコールコンディションで提供される。ちなみに日本の4年制大学の数は790校あるという。そのなかで自動車部があるのは約200校だ。

強豪校として知られる法政大学体育会自動車部の吉川萌衣(よしかわ・めい)さんに話を聞いた。

法政大学体育会自動車部主将の吉川萌衣さん

「こういう機会を与えていただけることは、本当にうれしいです」と語る吉川さんは、法学部4年生だ。
「自動車メーカーへの就職、興味あります。法政の自動車部はいままでは文系9割だったんです。活動拠点が文系のキャンパスなので。現在は、同期に理系の学生がふたりいるのですが、その人たちって吸収力が高いというか、理論的に考えられるし、整備も順序だてて理論的にやってくれます。理系の子がいてくれた方が部活として強いと思ったので、自分の広報の力を使って、理系の子に集中的にアタックしてこの春は5人、理系の新入部員を獲得しました」

法政大学は2位で決勝ラウンド進出を決めている。

最後に登場するのは、今回のFomula Gymkhanaの立案者であるGR車両開発部主任 石井宏尚さんだ。

GR車両開発部主任 石井宏尚さん

—初めてのイベント、うまくいきましたか?
「想定範囲内のトラブルで済んでいるのでとりあえず、うまくいきました」
—石井さんの発案でスタートしたと伺いました。
「私も大学時代自動車部に所属していました。その学生時代から今回のイベントを構想していました。もともとこのイベントをやるにあたって、僕自身のモータースポーツ活動のなかでお金をスポンサーにいただくことの大事さをすごく感じていたので、企業に協賛をいただくにあたって、メーカーさんとか会社さんにどういうメリットが返せるかというのをいろいろ考えました。今回は学生というところで、学生のSNSでの拡散力を企業さんに使っていただきたいな、と。それからリクルートを大きなポイントにしました。いままでのモータースポーツとは違ったトライをしたいと思っています」

—大学生と自動車業界のリクルートというと学生フォーミュラが思い浮かびます。
「学生フォーミュラと自動車部は意外と接点がないんです。実際に自動車メーカーへの就職率は、学生フォーミュラ出身者は意外と高くないのです。自動車部はクルマは好き、パワーに溢れているんですが、やんちゃするやつが多いので(笑)。そこをうまく企業と繋いで、自動車部の学生に将来も自動車業界に留まってもらおうと。彼らもこの業界の一員ですから、今後もクルマ好きでいてもらうだけでも価値があります。

—今後はどう発展させていくお考えですか?
「もちろん、学生のサポートはしたいのですが、すべて協賛企業におんぶにだっこで学生をただ単に楽しませるだけには絶対にしないというのは、佐藤社長からも言われています。みんなで同じ自動車業界にいる仲間として業界を一緒に考えよう、良くしようっていう育成の場にしていきたいなと我々は思っています。自動車部の学生には一般の社会人のマナーも学んでもらいたい。このイベントを軌道に乗せてから他のことも考えていきたいと思っています。クルマが好きで、みんなで努力していろんなことにチャレンジしようという若者たちと企業さんと繋げたいという想いがあります。クルマイコールで競う、という要素は僕の発案ですが、GRの若手中心の”若者クルマ好きをどう盛り上げるか”というワーキング中で、みんなで案を出し合い企業を繋ぐ案などを肉付けしていきました。みなさんのご協力なしに一切成立しないので、今年ご協賛いただいた方々すべてイコールな条件で意見を出し合って、今後については考えていきたいと思っています」

一見すると、単なる大学対抗のジムカーナ戦なのだが、Formula Gymkhanaには、自動車業界が抱える課題が見え隠れする。それを関係者やクルマ好きの熱意と企画力で、プラス方向へ変えていこうという試みだ。クルマを愛する大学自動車部の学生と自動車業界関係者が集う。そこからなにかが生まれるかもしれない。これからの動きに注目だ。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…