刺激に満ちた美しきミドルサイズSUV、マセラティ・グレカーレにフルライン試乗!

フェラーリ、アルファ・ロメオと並ぶイタリアの名門御三家のひとつが「マセラティ」だ。そのマセラティ・ラインナップの中でコンパクトSUVにあたる「グレカーレ」を、日本市場におけるフルラインナップで試乗することができた!
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) 

「トロフェオ」には、フラッグシップユニットの2.9L V6を搭載!

フルラインナップで勢揃いしたグレカーレ。右からモデナ、トロフェオ、GTである。

まずは「グレカーレ」の立ち位置を振り返ろう。それは、2022年に発表されたレヴァンテよりも一回り小さなDセグメントのコンパクトSUVである。とはいえそのスリーサイズは全長4860×全幅1980×全高1660mmと、日本では決して小さなサイズとはいえない。むしろ全幅はレヴァンテと同サイズで堂々たる存在感を示しており、全長が5mを超えない分だけ、日本ではより扱いやすくなるというのがセリングポイントになっている。

写真はフラッグシップグレードのトロフェオ。5m超えのレヴァンテよりほどではないものの、4860mmの全長は、ポルシェ・カイエンの4930mmにも迫る堂々たるサイズ。

その扱いやすさもあってかグレカーレの購入層は、既存のマセラティユーザー(40代後半~)より、圧倒的に若いのだそうだ。そしてなかでも女性が、その質感の高さとSUVというキャラクターから、これを積極的に選ぶ傾向にあるのだという。

グレカーレのラインナップは、全部で3種類。一番最初に試乗したのは、もっともハイパフォーマンスなグレード「トロフェオ」だった。

トロフェオの目玉は、なんといってもエンジンだ。2.9リッターのV6ツインターボは先んじてアルファ・ロメオのジュリア クワドリフォリオに搭載されたものだが、マセラティではここに独自のチューニングを施し、さらに「ネットゥーノ」という名称まで与えた。

MC20にも搭載されたV6 2.9Lユニットは、MC20に比べデチューンされているとはいえ、520ps、620Nmという痛快なスペック。

ちなみにネットゥーノとはイタリア語でギリシャ神話の神「ネプチューン」を意味しており、マセラティのエンブレムである三つ叉の槍(トライデント)の持ち主でもある。つまりは現行マセラティにとって、これがフラグシップエンジンになる。

そんなネットゥーノ・ユニットはまずマセラティのスーパースポーツである「MC20」に搭載されて話題となった。

スポーティさと上品さが同居するグレカーレのインパネ。所有欲も満たしてくれる。

技術的なトピックはF1由来の「マセラティ・ツイン・コンバスチョン」(MTC)だ。スパークプラグの先端に設けた副燃焼室で予め混合気を燃やし、これを燃焼室に送り込むことで燃焼効率を向上させるプレチャンバーシステムを採用したことで、MC20は630PS/730Nmの高出力と11.6リッター/100km(約8.6km/ℓ)の燃費性能を得た。

対してグレカーレのエンジンは530PS/620Nmと、MC20に比べて100PS/110Nmほどデチューンされている。

その差は、キャラクターの違いによるものだろう。マセラティのスーパースポーツとして存在するMC20はドライサンプのオイル潤滑方式を採用して、その搭載位置を低めながら、高負荷時の油圧管理を徹底。同時にネットゥーノの潜在能力を、可能な限り発揮させているのだと思われる。

いっぽうグレカーレ トロフェオはMTC技術を環境性能にも生かし、気筒休止システムをも用いることで、MC20と比べて390kg重たい車重にも関わらず、11.2ℓ/100km(約8.9km/ℓ)の燃費性能を達成した。

そのうえ0ー100km/h加速は3.8秒、最高速度に至っては285km/hをマークするというのだから呆れてしまう。

ということでグレカーレ トロフェオを走らせたわけだが、これが驚くほど素晴らしいプレミアムコンパクトSUVに仕上がっていた。

その核となるのは、エンジン同様まずアルファロメオから先行投入された「ジョルジオプラットフォーム」だ。

そのうえこのグレカーレ トロフェオにはエアサスと可変ダンパーが装備されており、21インチタイヤの剛性を生かしながらも、極めて上質な乗り味を実現していた。

見た目の質感もホールド感にも優れたフロントシート。
グレカーレはクーペSUVながらルーフ後端があまり下がっていないこともあり、頭上スペースは十分確保されている。

ハンドリングは、お世辞抜きに絶品だ

同じプラットフォームを使うアルファロメオの「ステルヴィオ」が、そのステアリングギア比を12:1まで高めているのに対し、グレカーレ トロフェオは、そこまで操舵レスポンスを攻め込んでいない。だがしかし、それが実にちょうどいい、大人びたハンドリングを実現していたのである。

またフロント6ポット、リア4ポットのキャリパーを備えるブレーキシステムもタッチが良く、ターンインでの姿勢を美しくコントロールすることができる。

トロフェオに装着されるのは、フロント255/40R21、リヤ295/35R21のブリヂストン POTENZA SPORT。

後輪駆動ベースの4WDも、フロントへのトルクスプリットを意識させないほど、その回頭性は素直。スポーツモードを選べば可変ダンパーは減衰力を高めるが、そのダンピングはしなやかさを失わずに、ロールスピードだけを抑えてくれる。

全ての所作が、スポーティなのに上質。これこそがドイツ車や日本車では出せない、マセラティのキャラクターなのだと理解することができた。

抜けの良いサウンドも相まって、V6エンジの鼓動だけでも気分が高揚する。

そんなシャシーに2.9V6ツインターボのパワー&トルクをぶつけるのだから、ドライビングはすこぶる楽しい。もちろん有り余るチカラの全てを吐き出すような走りはしなかったが、そのターボらしからぬ抜けの良いサウンドと、V型エンジンの鼓動を味わっているだけで、悦に浸れる。530PSのパワーをひとつの余裕として所有することも、マセラティらしさのひとつなのだろう。

ちなみに片バンクをまるごと停止させるという気筒休止システムも、それがどこで働き、どこで6気筒へと復活しているのかは、今回の短い試乗ではまったくわからなかった。

2.0Lマイルドハイブリッド搭載の「GT」&「モデナ」

ラグジュアリー・スポーツのお手本のようなトロフェオに対して、「GT」と「モデナ」は2リッター直列4気筒のマイルドハイブリッドを搭載する、グレカーレのラインナップとしてはスタンダードなモデルだ。ベーシックグレードが「GT」、快適装備を充実させた仕様が「モデナ」という区別になる。

ベースグレードの「GT」は、直4、2Lターボで300ps、450Nmのスペック。

一番最初にメインディッシュを味わってしまっただけに、300PS/450Nmのパワー&トルクを発揮するとはいえ、グレカーレ「GT」の4発ターボは正直見劣りするかと思った。しかしこれがなかなか実力派なパワーユニットに仕上がっており、マセラティの技術力の高さに感心させられた。

2.0Lユニットは40Nmのモーターも搭載するハイブリッドだ。ステランティスのベースユニットを使うが、マセラティ独自に「e-ブースター」を採用する。

ベースとなるのは、ステランティスグループの「グローバルミディアムエンジン」。ここにベルトドライブのモーター(10kW:13.6PS)を組み合わせたハイブリッドというのがそのあらましだが、マセラティの場合はこのベルトスタータージェネレーター(BSG)の使い方が、ひと味違った。

このBSGは直接クランクを40Nmほどのトルクで回す一方で、造り出した電気をラゲッジコンパートメントにあるバッテリーへと送り、その電力で電動コンプレッサーを回す「e-ブースター」方式を採っているのだという。

そのメリットは低回転領域でのブースト圧確保で、これが1930kg(サンルーフ装着車)の車体を、アクセルの踏み始めから力強く加速させてくれる。

「GT」の試乗車は左ハンドルだった。インパネ加飾やシート質感の高さは、V6モデルに譲る。

その蹴り出しはいわゆるピュアEVや国産ハイブリッド車にひけを取らないほどトルキーであり、実用域におけるエンジンの回り方も滑らか、かつ静かだった。

ちなみにこのe-ブースターは、4000回転中盤あたりまで作動し、そこからようやく排気タービンが働くのだという。ということは街中のほとんどは、e-ブーストで走るということになる。

ただ正直なことを言えば排気タービンが稼働する4000回転以上からトップエンド付近までのパワー感はベーシックユニット然としており、やや生真面目過ぎて面白みには欠けた。

写真の「GT」と「モデナ」は同じ2.0Lターボだが、「GT」は330ps、「モデナ」は330psと差別化されている。

しかし、これが物足りないと感じる向きには、その出力を330PS(最大トルクは450Nmで同じ)まで高めた「モデナ」がきちんと用意されているからマセラティも用意周到だ。

ちなみにモデナはそのブースト設定が高めになっているのか、その出力特性は少しワイルドで、エクゾーズトもやや荒々しく乾いたサウンドになっていた。

直列4気筒ターボ搭載車のハンドリングは、とても軽やか。

「モデナ」は2.0Lターボを搭載する中間グレード。オプションの選択次第で、装備やトリムをトロフェオに近づけることができる。

GTグレードの足周りは減衰力固定式ダンパーとコンベンショナルなスチールスプリングの組み合わせだが、フロントにダブルウィッシュボーンを搭載する操舵応答性は確かで、ジョルジオプラットフォームの出来映えが余すところなくきちんとと味わえる。またその足周りはバネ下の20インチタイヤをきちんと抑え込めており、乗り心地も上質だ。

対してモデナは標準で可変ダンパーを備えているから、トロフェオと同じ21インチタイヤを装着しても、乗り心地が犠牲にならない。

なおかつオプションで「コンフォート・パッケージ」を選べば、たったの35万円でエア・サスを手に入れることができる。なおかつそれだけでなく、リミテッドスリップデフとINOXスポーツペダルまでもが付いてくる。

トロフェオまでは予算が許さないけれど、さらにワンランク上の乗り心地が欲しいなら、これを選ばない手はないと思う。

ちなみにパッケージの充実度で言うとモデナ(とトロフェオ)は、GTではオプションとなるフルプレミアムレザーが標準装備されていて、GTも標準でレザーインテリアを備えてはいるのだが、このレザーの質感が素晴らしくいい。

またADAS(先進安全技術)もGTはレベル1で、ACCこそ標準装備だが、レーンキープアシストといったレベル2相当の装備はオプション扱い(64万円)となる。

そしてこれをオプションして行くことを考えると、最初からモデナを選ぶ方が断然リーズナブルなのだという。

上質なトリムが張られたラゲッジルーム。左右の壁がフラットな反面、最大幅はそこまで広くない。
シートバックは4:2:4で前倒しが可能。2名乗車なら広い荷室を作り出せる。

こうした理由からだろうグレカーレノ販売比率は、昨年の段階ではモデナが全体の4割を占めていた。そしてGTとトロフェオが、30%ずつという状態だった。

しかしグレカーレの認知度が上がってきた今は、GTの比率がその50%を占めているのだという。つまりそれだけ若いユーザーや女性ユーザーといった新しいカスタマーたちが、このSUVに注目しているということである。

個人的にはトロフェオが文句なしにイチ押しだが、とにもかくにもこの美しいデザインのSUVに乗って見たい! という気持ちで言えば、確かにGTやモデナも捨てがたく、どれを選ぶかは非常に難しい。

グレカーレ GT


全長×全幅×全高 4845mm×1950mm×1670mm
ホイールベース 2900mm
車両重量 1890kg(サンルーフ付車 1920kg)
駆動方式 四輪駆動
乗車定員 5名
サスペンション F:クワドリラテラル、バーチャルステアリングアクスル
R:マルチリンク
タイヤ 255/45R20

エンジン 直列4気筒eBooster+48V マイルドハイブリッド+ターボ 
総排気量 1995cc
最高出力 220kW(300ps)/5750rpm
最大トルク 450Nm/2000rpm
トランスミッション 8AT

価格 9,220,000円
グレカーレ モデナ


全長×全幅×全高 4845mm×1980mm×1670mm
ホイールベース 2900mm
車両重量 1920kg(サンルーフ付車 1950kg)
駆動方式 四輪駆動
乗車定員 5名
サスペンション F:クワドリラテラル、バーチャルステアリングアクスル
R:マルチリンク
タイヤ F:255/40R21 R:295/35R21

エンジン 直列4気筒eBooster+48V マイルドハイブリッド+ターボ 
総排気量 1995cc
最高出力 243kW(330ps)/5750rpm
最大トルク 450Nm/2250rpm
トランスミッション 8AT

価格 11,140,000円
グレカーレ トロフェオ


全長×全幅×全高 4860mm×1980mm×1660mm
ホイールベース 2900mm
車両重量 2030kg
駆動方式 四輪駆動
乗車定員 5名
サスペンション F:クワドリラテラル、バーチャルステアリングアクスル
R:マルチリンク
タイヤ F:255/40R21 R:295/35R21

エンジン V型6気筒ツインターボ 
総排気量 2992cc
最高出力 390kW(530ps)/6500rpm
最大トルク 620Nm/2750rpm
トランスミッション 8AT

価格 15,200,000円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…