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経済的にも太陽光発電が有利に
第67回では太陽光発電が世界中に普及すると、まず、貧困がなくなるこということについて述べた。
今回は、世界中に太陽光発電が普及したときの経済効果について述べたい。
第61回では世界のエネルギー需要を見積もった。この時の仮説は世界中の人々が、現在のアメリカ人の消費している分と同じエネルギーを使い、しかも世界人口が100億人に増えたとしたときの計算だった。そのエネルギーは、電力換算で約240兆kWhであった。現在の世界のエネルギー消費量は、約50兆kWhなので約5倍に増えることになる。
第61回では日本における太陽光発電の経済効果を見積もった。この時の太陽光発電の原価は2.3円/kWhとなった。これに、発電を行なう第一次産業に従事する人々の利益をkWh当り1円を足した3.3円を実質的発電原価とした。さらに、電力が消費者に届くには電力会社の送電網を使い、その利用料金と電力会社の利益を合わせた金額が上乗せされる。電力の需要は大きく分けて家庭、事業所、工場である。それぞれ送電のための料金は異なるが、平均10円/kWhということであった。すると、消費先での電力価格は、小数点以下を四捨五入して12円/kWhとなる。
以上の日本での電力価格は、世界全体で同一となるとする。すると、発電原価で約800兆円、消費価格で約3000兆円になる。
これは、極めて大きな金額である。
この金額を世界の原油価格の総額と比較する。2019年の世界の原油生産量は、約1億バーレル/日であった。原油の国際取引価格は、20ドル/バーレルで推移していた。それが国際的な原油の奪い合いから15年以降は60-100ドル/バーレルで推移している。原油価格を100ドル/バーレルとし、円、ドルレートを140円/ドルとすると、原油価格は年間約500兆円になる。
天然ガスは2019年の生産量が4兆㎥である。天然ガス価格も乱高下しているが、2023年には100万BTUあたり18ドルである。BTUというのはBritish Thermal Unitの意味でイギリス発祥の古くから使われてきたエネルギーの単位である。この数値から我々なじみのジュールあたりの価格に直し、かつ、天然ガス1㎥あたりの熱量を求めて、天然ガス価格の総額を求めると360兆円になる。ここでも1ドルは140円とした。
従って、世界の2大化石燃料の原油と天然ガスの価格の総額は約900兆円になる。この金額は、世界的なエネルギーの逼迫で非常に高価になっていることによる。これらのエネルギーの生産原価に適正利益を上乗せした価格という意味では、原油は2000年前後には20ドル/バーレルであったし、2016年には天然ガスも現在の5分の1であった。このことは現在のこれらの価格が5分の1であったとしても原油と天然ガスの生産は十分な採算が取れていたことになる。つまりは現在、総額で900兆円のこれらのエネルギー価格でも180兆円程が生産地で利益が上がる金額であり、これ以上の金額相当分はいわゆるオイルマネー、天然ガスマネーとして生産国が享受していた利益になる。

太陽光による電力が、より簡単にどこでも享受可能に
振り返って、太陽光発電の原価は世界全体で800兆円であったから、この金額と原油と天然ガスの適正価格の差は4倍になる。これは、67回で述べたように新しい産業が生まれ、従来からの産業に置き換わると産業規模が大きくなるという典型例である。その置き換わる理由は人間にとって使いやすくなること、効率が良くなること、実現が簡単になることであると述べた。エネルギーのすべてが電気に替わることは、人間にとって便利な生活ができるようになる。しかも電力は、どんなエネルギー用途にも容易に転換できる。効率が良いということに関しては、原油や天然ガスが100万年かかって太陽のエネルギーを起源に作られ、これを100年ほどで使い切ろうということであるからその効率は1万分の1ということになる。太陽光発電では実用的に10%の効率であるから、その効率に約1000倍の差がある。

用いる太陽光発電は世界中に普及すると予測するこ
とが可能である。
簡単な技術という意味でも太陽光発電はシート状に作られたパネルを地球表面や、これで大型気球を作って上空に係留する、それに対して、原油、天然ガスは地中奥深くから採掘するので、それらに比べて太陽光発電は極めて簡単である。
そして、今、フレキシブルで軽量な太陽光パネルの実用開発が進んでいることで、地球全体に太陽光パネルで発電する技術を普及可能になったことを、もう一度述べておくことが重要だ。
この連載で述べてきた太陽光パネルの世界的展開で、原油、天然ガス産業はなくなると言わざるを得ない。しかし、太陽光パネルの世界的普及という新しい大きな産業に対して、産油国や天然ガス生産国はこれまでの蓄積を太陽光発電に投資することが可能になる。これによりさらに大きなエネルギー産業の担い手になることができる。勿論、これは世界中の人々が、過不足なくエネルギーが使え、かつ、カーボンニュートラルを実現できる、確かな手段であることは言を待たない。
次回は、カーボンニュートラルに欠かせない、自動車の電動化の世界的普及の経済的効果に関して述べることとする。

イタリア トリノのデザイン会社ピニン
ファリナの実車風洞でのEliica の試験。
写真前方から高速の風を送り空気抵抗の
大きさと揚力を測定した。測定を繰り返
し、そのたびに空気抵抗を下げ、揚力を
マイナスにするためのエアロパーツを取
り付ける実験を2日間に渡って行なった。