新車で買って53年乗り続ける! オーナーの深い愛情に応え壊れず苦労知らずなハコスカ! 【ノスタルジックカーフェスタGOSEN2023】

国産旧車の花形といえばハコスカこと3代目C10系スカイライン。端正なスタイルやGT-Rが築いたレースでの栄光など、多くの人が憧れる要素は数多い。ところが旧車としてではなく、新車から乗り続けている人もいるのだ。
PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
1970年式日産スカイライン2000GT。

長く国産旧車の人気を牽引してきたのが3代目に当たる日産スカイライン、いわゆるハコスカだ。ハコスカとはそもそも、次世代へモデルチェンジしたケンメリが丸いデザインになったことを受け、旧モデルになるC10系を「箱型のスカイライン」と呼ぶようになったことを受けてのもの。その後も「ジャパン」や「鉄仮面」など、型式より愛称で呼ばれたことも人気モデルであるスカイラインらしいエピソードだろう。ハコスカの人気はなんと言ってもS20型直列6気筒DOHCエンジンを搭載するGT-Rあってのもの。ツーリングカーレースでの圧倒的な強さは、その後ロータリー勢が台頭してきても人々の印象に強く残った。

新車時のナンバーである「新5」を維持している。

それゆえ古くなってからのハコスカ、特にGT-RではないL型6気筒エンジンを搭載するGT系の多くがGT-R仕様と呼ばれるカスタムを施されている。GT-Rのセダンはワイドタイヤを履かせる前提から、リヤフェンダーに走る特徴的なサーフィンラインをカットしていた。さらにガラス類はすべて安価な色なしの「白ガラス」であり、フロントグリルも専用デザイン。さらに2ドアのハードトップだとリヤフェンダーに樹脂製オーバーフェンダーが装備されていた。中古車になってからのGT系は、これら装備を真似てGT-Rのような外観にすることが流行してきた。

ルーフは当時流行したレザートップ仕様にしている。

だからGT系のセダンだと、ハコスカの特徴であるサーフィンラインをカットされているケースがとても多い。ここを切ってしまうと元に戻すのは大事になるため、そのまま次のオーナーへ渡ってしまうケースも多い。ただ、サーフィンラインはC10系のスタイルで最大の特徴でもあるため、できれば切らずに残してほしいと思ってしまうのは筆者だけだろうか。そんな視点でイベント会場を見渡していると、時折フェンダーをカットしていないハコスカに出くわす。すると嬉しくなってついオーナーに声をかけてしまうのだが、6月4日に開催された「ノスタルジックカーフェスタGOSEN2023」の会場でフェンダーカットしていないことはもちろん、「新5」のシングルナンバーがついたハコスカを発見した。

もちろんサーフィンラインはカットしていない。

クルマの後ろで持参された椅子に腰掛けていたオーナーと思しき人物に声をかけてみる。「もしかして新車からお乗りですか」と聞けば「そうですよ」と笑顔で答えてくれた。なんと、1970年に新車で買われたそうで、それから53年にわたり維持し続けられているのだ。オーナーの清野陽三さんは78歳になるが、お話ししていても歳を感じさせないほど溌剌としている。それは新車で買って53年経った今もマニュアルトランスミッションのハコスカに乗り続けられているせいかもしれない。近年では運転免許を返納する動きが主流となってきたが、実は運転免許を返納した人は返納せずに自動車に乗り続けている人に比べ認知症を発症する確率が2倍ほどに高まる。実際には運転を続けることこそボケ防止にもなるのだ。

60年代生まれのGTらしいインテリア。
雪が積もる時期は乗らないため走行距離は8万キロ台だ。

1970年当時の自動車ガイドブックによると、スカイライン2000GTの東京店頭渡し価格は86万円で、AT車だと91.5万円。70年といえばハードトップが追加された年であり、ハードトップGT-Rだと価格は154万円にもなった。ちなみに当時の大卒初任給は3万9900円で現在の価値に換算すると14万円少々。現在と違うのは景気が右肩上がりの時代で給料も上がり続けていたこと。それゆえ少々高価であっても無理して良いクルマを買う人が多かった。当時25歳だった清野さんも若さゆえの勢いでスカイラインを選んだのだろう。実は新車の頃からGT-Rは別格であり、スカイラインの人気はGT系が牽引していた。まだツインキャブレターや5速MTがオプション設定されるGT-X発売前のことであり、清野さんはGTを選びつつ各種装備を追加して注文している。

後付けの吊り下げ式クーラーは今も現役。
張り替えていない運転席だが破れたりしていない。

お話ししていると、驚くことに新車時の契約書がグローブボックスに残っているという。ぜひにと見せていただくと、そこにはルーフレザーやホイールキャップ、ラジアルタイヤやカーステレオなどをオプションとして注文していたことが書かれている。買受人はおそらく清野さんのお父さんの名前となっていて、現金で購入されている。もしかすると「親ローン」だったのかもしれないなどと想像できるが、車検証の名義はご本人にされている。

グローブボックスには新車時の契約書が残っていた!
見えづらいが側面にSKYLINEのロゴが入るボックスは当時のノベルティ。

ハコスカというと旧車というのが多くの人の認識だろうが、清野さんにとってそうではないだろう。何しろ新車から乗っているので、愛車が古くなってしまっただけなのだ。ただ、これだけ長い期間維持されていると困ったこともありそうだ。ところがお聞きしたところ「壊れないから乗り続けられるんです」と、これまで深刻なトラブルとは無縁だった。それは雪が積もる冬季はガレージにしまってきたことが大きいだろう。何しろ現在の走行距離は8万6000キロを超えたところで、年間に換算すると1600キロほどしか乗っていないことになる。

シングルキャブ仕様のL型6気筒エンジンはノーマルのまま。

走行距離が伸びていないから壊れないということもあるだろう。それより困ったことは「20年ほど前からディーラーでメンテしてくれなくなったんです」ということ。新車で購入したディーラーで車検整備などをお願いしてきたが、ある時から補修部品がないことを理由に断られてしまった。確かに現在の新車ディーラーで旧車と呼ばれるキャブレター仕様のクルマをメンテナンスできるかといえば相当に疑問。そこで清野さんは車検代行業者へ依頼することにした。

フォグランプはディーラーでのオプションパーツ。

車検代行業者というと旧車乗りの多くが敬遠することだろう。ところが土地柄だろうか、清野さんが持ち込んだ業者は腕も理解もあったそうで、悪いところがあれば修理をお願いできるメカニックを紹介してくれた。車検時に整備が必要な場合も同じメカニックに作業してもらうそうで、古いキャブレター車を得意とするメカニックと間接的だが知り合うことができた。それゆえ、清野さんは今もトラブル知らずでハコスカに乗り続けることができている。新車から乗り続けてきたからと言っても、やはり頼りになるメカニックの存在は欠かせないのだ。当日は娘さんとお孫さんとともに参加されていた清野さんだから、後を託すことになったとしても安心できるように見受けられた。とても幸せなハコスカと言えそうだ。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…