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ボルトを変えると走りが変わる
GRカローラは22年12月にリリースされた。やはり抽選販売で、カローラ・スポーツの5ドア・5人乗りの利便性はそのままに、日常生活での使い勝手と走る楽しさを高次元で両立した「RZ」を500台用意し、Webで抽選の申し込みを受け付け。2シーター化をはじめとする徹底した軽量化に加え、エンジンのトルクアップやギヤ比の最適化、モノチューブアブソーバー(ダンパー)の採用などで動力性能と運動性能を向上させた「モリゾウエディション」の抽選をGR Garageの店頭で受け付けた。今回の一部改良モデルはRZが対象だ。
「GRカローラは生産の都合で500台を非常に限られたお客さまに提供しました」と、チーフエンジニアの坂本尚之氏は話す。「以来、多くのお客さまにお待ちいただいているなかで、モータースポーツで鍛えている性能のアップグレードを、しっかりお渡ししたいと考えました。ポイントは走りの一体感です。クルマとしっかり対話できる部分をリファインさせる内容になっています」
「運転操作に対するダイレクト感の向上」を実現するため、シャシー部品を締結するボルトの一部を“締結剛性向上ボルト”に変更した。ひとつはフロントのサスペンションメンバーとステアリングギヤボックスを下から締結する六角ボルトで、ボルト径はそのままに、頭部の底面についている円形のつば(フランジ)にリブ形状を追加した。
リヤも、サスペンションメンバーをボディに固定するフロント側の六角ボルトを変更した。こちらはフランジではなくボルト頭部の幅を変更。従来の約22mmから約24mmへと大きくした。フロントとリヤで手法は異なるが狙いは同じで、締結剛性の向上である。フロントはステアリングを切り込むとタイロッドがナックルを押す反力がロワーアームに生じ、ステアリングギヤボックスとサスペンションメンバーを固定するボルトをたわませようとする荷重が掛かる。
その荷重をフランジの面積を有効に使って支えるために、リブ形状を追加したり、頭部の径を上げたりしたわけだ。改良版GRカローラは荷重をしっかり受け止めるため、操舵応答性が向上する。
「(GRカローラのオーナーでもある)レーシングドライバーの石浦宏明選手とも一緒に開発しています」。そう説明するのは、凄腕技能養成部の匠である大阪晃弘氏だ。評価ドライバーであり、走りの味つけのプロである。その大阪氏は、六角ボルトを変更するに至った背景を次のように語る。
「サーキットだけではなく、通常域のEPS(電動パワーステアリング、GRカローラはコラムアシスト式)の適合や、ダンパーの適合も一緒にやっていただいています。『ステアリングのニュートラルエリアはもう少しなんとかならないか』ということで、EPSの定数を振ってみたりしました。でも、重くして剛性感が出るわけじゃないよねと。いろいろやっていくなかで、今回の変更にたどり着きました。モータースポーツに取り組んでいる強みで、締結力を上げると応答性が良くなることがわかっている。いろいろな場所を試したなかで、厳選したのが今回の場所です」
モータースポーツなら軸力を上げることで締結剛性を高めることもできるし、常に精度高く管理することができるが、量産車ではそうはいかない。モータースポーツ活動で行なっているほどのリスク管理はできないので、締め付けトルクは変えず(上げず)に、フランジ部の剛性を上げて締結力を高めた。
もっと言えば、ダンパーもコイルスプリングも、EPSの制御も変えていない。GRカローラ第1弾が持つポテンシャルをより引き出し、完成度を高めるのが今回の改良のコンセプトだ。
改良点はまだある。操縦安定性の向上を狙い、フロントバンパーのダクト形状を変更した。フロントバンパー左右コーナー部には開口部が設けられており、ここから取り込んだ空気をタイヤ&ホイールの側面に流すことで、乱流を抑え、側方を流れる空気とスムーズに合流させてドラッグ(空気抵抗)を低減させる。今回の改良ではホイールハウス側ダクトの形状を変えた。従来はタイヤとの干渉を避けるよう外に流す形状としていたが、改良版は少しタイヤに当てるような形状としている。これにより、「ターンインでの動きが良くなった」(大阪氏)という。
アルミテープとバッテリーアースも効いている
ここまでが、プレスリリースに記載されている内容。実際には、さらに2点ほど変更点がある。ひとつはアルミテープ。前後バンパーのサイド部計4ヵ所に裏側から張り付けた。樹脂部品であるバンパーの帯電を解消することで空気がスムーズに流れ、スタビリティ向上に寄与する。
もうひとつはバッテリーアース性能の改善だ。GRカローラはGRヤリスと同様、12Vバッテリーをトランクルームに搭載している。アース端子を留める車体の塗膜を剥ぎ取り、金属面をしっかり出してメタルタッチするようにした。これもモータースポーツ由来の技術で、電子部品の電気特性が改善され、運転操作に対するダイレクト感が向上する。
「アースをしっかりとることで、切り始めの情報が感じとりやすくなり、クルマとの一体感や意のままの走りに近づけることができます。アクセルも電制スロットルですから、アースをしっかりとることで、発進のときにエンジンのつきが良くなり、スッと応答してくれるようになります」(大阪氏)
改良による効果がわかりやすいのは定常ではなく過渡だ。ステアリングの切り始めで、保舵に至る過程がわかりやすい。サーキットを走らずとも、一般道で充分に体感できる。コーナーの進入でステアリングを切り込むと、角の取れたシャープさでGRカローラは向きを変える。鼻先だけ向きを変えてお尻がついてこないということはなく、シャキッとした宇動きだ。といって、軽々しくはなく、落ち着きがある。
ステアリングの動きにともなって手のひらに伝わる感触がとてもいい。グローブをはめているのにボールの縫い目がしっかりわかるようなフィット感の良さを感じる。ニュートラル付近から切り込んだ際のつながりはスムーズだし、操舵とシンクロしてクルマが素直に追従する様子が、クルマと一体になっている感覚を与えてくれる。GRカローラ第1弾もそうだったが、第2弾の改良版は操舵に対する動きのスッキリ感が増した印象だ。
今回の一部改良がユーザー思いなのは、最初の500台を手に入れた既存ユーザーもアップデート可能な内容になっていること(具体的な提供方法は検討中)。最初から完成度の高いクルマを手に入れられるのは当然ハッピーだが、進化の度合いを新旧比較で体感できるのは、既存オーナーの特権である。
GRカローラ RZ 全長×全幅×全高:4410mm×1850mm×1480mm ホイールベース:2640mm 車重:1480kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rダブルウィッシュボーン式 駆動方式:4WD エンジン 形式:直列3気筒DOHCターボ 型式:G16E-GTS 排気量:1618cc ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm 圧縮比:10.5 最高出力:304ps(224kW)/6,500rpm 最大トルク:370[Nm/3,000~5,550rpm 燃料供給:DI+PFI(D-4ST) 燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク:50L トランスミッション:6速MT WLTCモード燃費:12.4km/L 市街地モード 8.9km/L 郊外モード 12.8km/L 高速道路モード 14.5km/L 車両価格:525万円