国産最高峰ショーファーカーの愉悦「トヨタ・センチュリー」【最新国産新型車 車種別解説 TOYOTA CENTURY】

すべての所作を美しくエレガントに、そして心地よく安心して過ごすことができるように。代々丁寧に考え抜かれ作り込まれてきた「トヨタ・センチュリー」。2370kgの車体にはV8エンジンを搭載し、モーター始動でソフトなスタートの後は力強い。当然ながら静粛性は極めて高く、穏やかな安心感を与えてくれる。随所に洗練された日本らしい意匠や細やかな配慮、一方で路面状況や走行速度など日本の環境に合った、すべてに最良を求めたラグジュアリーセダンである。
REPORT:渡辺陽一郎(本文)/工藤貴宏(写真解説) PHOTO:中野幸次/神村 聖/平野 陽 MODEL:吉田由美

日本の道路条件に適した足回りで超絶的に快適

センチュリーは、職業ドライバーが運転することを想定して開発された高級セダンで、後席の快適性を優先させている。現行型は18年6月に発売され、21年ぶりのフルモデルチェンジとなった。

エクステリア

ひと目でセンチュリーとわかる伝統的なフォルムを継承しながら、より力強く、華を感じさせるモダンなデザインを採用。前後二重構造を採用するフロントグリルの奥には、円満や財産、子孫繁栄などをあらわす日本伝統のデザインである、七宝文様が配置されている。
随所に日本の美を意識したディティールも採り入れ、折り目正い格式の高さが表現されている。ボディサイドのキャラクターラインには、平安時代の屏障具に用いられた面処理技法「几帳面」を採用。最小回転半径は5.9m。

後席はスペースが広く、身長170㎝の大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つ半に達する。クラウンはふたつ半だから、頭上の余裕も含めて、センチュリーの後席は国産セダンでは最も広い。背もたれと座面には十分な厚みがあり、乗員の体が適度に沈んだところでしっかりと支える。後席の中央部分を前側へ倒すとアームレストになり、内蔵されたスイッチで、前後スライドやリクライニングなどの調節を電動で行なえる。左側の後席にはリフレッシュ機能も設けた。シート内部の空気袋を膨張させて乗員の肩や腰を押し出し、適度な刺激を与える。

乗降性

なお後席は床を少し持ち上げて、サイドシル(乗降時に跨ぐ敷居の部分)との段差をなくした。乗員の足が引っ掛からず、ピラー(柱)の角度を立てて頭部の通過性も良いから、乗り降りがしやすい。職業ドライバーが運転するクルマだから、インパネの形状は機能的だが、本杢を使って質感は高い。運転席の座り心地も柔軟で、身体を適度に沈ませる。97年に発売された先代センチュリー、あるいはこの時代のクラウンに通じる座り心地だ。現行センチュリーは、パワーユニットやプラットフォームを先代レクサスLS600hLと共通化した。ホイールベースの3090㎜も等しい。開発者は「V型8気筒エンジンを搭載したいので、基本部分を先代LS600hLと同じにした。開発を合理化する目的もあった」という。駆動方式は、先代LS600hLは4WDだったが、センチュリーは後輪駆動の2WDになる。

インストルメントパネル

伝統に基づいた水平基調かつシンプルな意匠は堂々とした風格だが、日本人が落ち着ける感覚を具現化すると同時に、デザインが主張し過ぎず後席からの見晴らしを邪魔しないことにも配慮したもの。

車両重量は2370㎏に達するが、動力性能には余裕がある。発進はモーターのみで行なうが、駆動力は十分だ。速度が高まってエンジンが始動しても、ノイズは小さい。アクセルペダルを深く踏むと、5000rpmを超える領域まで軽快に吹き上がり、V8らしいエンジン音も響く。カーブを曲がったり車線変更をする時は、ボディの重さを意識させる。ハンドル操作に対する反応は少し鈍く、峠道などでは曲がりにくい。ただし穏やかに走るクルマだから、欠点にはならない。後輪の接地性は高く、安定性にも支障はない。

居住性

前席は長時間運転をする際にもルーズな姿勢にならず、きちんと座って端正な姿勢でも疲れないように、というのが運転席での最優先事項。ふっくらとした座り心地で、各種調整部分はその範囲が広い。ひとつとして手動調整部分がないのはさすが。
センチュリーは国産乗用車で唯一の、ショーァードリブンとして開発されているセダン。後席のその広さ(前後席間は先代比95㎜拡大)から着座感まで、居心地への配慮は一切の妥協がない。座面はつっぱらず深く沈み込むのが特徴だ。

ドライブモードをスポーツプラスにすると、操舵感は少し機敏になるが、乗り心地も若干硬くなった。ノーマルモードの乗り心地は、国産セダンでは最も快適だ。路面の細かなデコボコを伝えにくく、駐車場から車道に降りる時の段差も柔軟に受け止める。フワフワと柔らかい印象はなく、揺れを早期に収束させながら、角の丸い印象に仕上げた。厚みのあるシートも、快適な乗り心地に貢献している。

うれしい装備

後席は大きく傾いてリクライニング(注:写真は最大倒しではない)するだけでなく、上部だけを起こす調整もできて姿勢の自由度が高い設計も自慢のひとつだ。
月間販売台数   48台(18年6月〜11月平均値)
現行型発表     18年6月(一部仕様変更21年3月)
JC08モード燃費   13.6km/l 

ラゲッジルーム

センチュリーは日本の走行速度と路面状態に合わせて、最良な乗り心地を提供する。今の国産上級セダンは、クラウンを含めて欧州車風に発展したが、本来必要なのは日本の道路と走行速度を基準にした開発姿勢だろう。少し大げさにいえば、センチュリーには、忘れかけていた日本車の魂が宿っている。

※本稿は、モーターファン別冊 ニューモデル速報 統括シリーズ Vol.114「2019 国産新型車のすべて」の再構成です。2023年9月現在の車両本体価格は2008万円です。

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